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「コロナの影響で失職して腹が減っていた」「コロナの影響で働けなくなり、金がなかった」
新型コロナウイルスにまつわる問題が日々報じられています。
コロナに伴う家庭内でのDV増加、コロナに伴い別々に暮らしている親と子の面会が困難に、コロナに伴う振り込め詐欺の横行、コロナを装った業務妨害。
このような中、先日、犯罪の嫌疑をかけられて逮捕という2つの記事を見つけました。
1つは、スーパーに侵入し、カップ麺など食料品を盗んだとして逮捕された事案、もう1つは、アパート内見中に、案内していた不動産会社の女性を刺して所持金を奪ったという事案です。
それぞれ、なぜこのような犯行に至ったか、という動機について、「コロナの影響で失職して腹が減っていた」「コロナの影響で働けなくなり、金がなかった。殺害して金を奪おうと思った」などと供述していると報じられています。
いずれも、「コロナの影響」というキーワードが目を引きます。
これらの事件は、まだ発生して間もなく捜査も始まったばかりです。
事実関係が不確かな段階で、事件についての具体的なコメントをすることは適切ではないと思うので、少し一般化し、今回は、「なぜこのようなことをしたか」という部分にあたるいわゆる犯行動機を明らかにする意味について考えてみたいと思います。
犯行動機を明らかにする意味
今回の報道のように、犯罪が発生し、その被疑者が逮捕された、というニュースとともに、「被疑者は、●●という理由で犯行に及んだと供述しています」といういわゆる犯行動機が報じられるのを見聞きすることは多いと思います。
それを見て、「動機がどうであっても、結果は変わらないんだから、動機なんて刑事事件で大した意味を持たないだろう」と感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか?
また、「そもそも動機っていうのは、人の心の中のことなんだから、そんなこと明らかにすること自体ができない。動機を明らかにしようとすること自体無理があるだろう」と感じる方もいらっしゃいませんか?
たしかに、どのような結果が生じたのかということが非常に重要であることは間違いありません。
でも、刑事事件の捜査、裁判を通じ、犯行の動機を明らかにすることはとても大事な意味を持っているのです。
まず、動機がどのようなものだったか、ということは、量刑に影響してきます。
たとえば、殺人事件を例にすると、人を殺害することで人の命が奪われたという結果は同じであるのに、その動機が、何ら落ち度のない被害者を被疑者が勝手な思い込みで逆恨みして殺害したのか、それとも、長年、被害者が被疑者に対して暴力を振るってきた経緯があり、被疑者が、このままではいつか殺されてしまうのではないかと悲観して犯行に及んだのかによってその量刑は大きく変わってくるでしょう。
同じ観点から、検察官が、この被疑者について起訴するか不起訴にするかなどという処分を検討するにあたっても動機がどのようなものであったかは大事な要素になります。
それだけではありません。
量刑とも関係することで一部重複しますが、検察官が被疑者の処分(起訴するか、不起訴にするかなど)を検討したり、裁判官が量刑を判断するにあたって、被疑者、被告人が今後再犯に及ぶおそれがあるか、ということが大事な要素のひとつになります。
そして、ある人について再犯のおそれがあるか、更生可能性が高いのか、などということを考えるとき、そもそも、今回の犯罪がなぜ起きたのか、犯罪を犯した原因となった要素は、すでに取り除かれているといえるのか、今後、その原因が再び引き金にならないように監督してくれる人はいるのか、などが検討されます。
その意味でも、動機、原因が何だったのかということは、再犯可能性を判断するときの出発点として重要な意味を持ってくるのです。
さらに、動機を明らかにすることは、今までお話ししたこととはちょっと違った観点からもとても大事な意味を持ちます。
それは、動機の解明は、本当にこの被疑者が犯人なのかどうか、ということの捜査につながるということです。
犯行を認める供述をしている被疑者が、「金が欲しくてやりました」などと犯行動機を供述している、でも、被疑者の経済状況を調べたら被疑者は金になど困っている様子がない、おかしいと思ってさらに調べたら、実は、被疑者が自分の身近な人の犯行をかばおうとしてうその自白をしていることが発覚した、などというストーリー、ドラマで見たことはありませんか?
ある人が犯人なのかどうか、ということは、絶対に誤りがあってはいけない点です。
この立証にとっても、被疑者には犯行の動機があるのか、ということを明らかにすることはとても大事な意味を持つと考えます。
ほかにも、ある被疑者の精神状態が刑事責任を問える状態だったといえるかということを明らかにするためにも動機の解明は大事な意味を持ってきます。
責任能力、などという言葉を報道で聞くことがありますよね。
その判断要素ともなり得るのです。
動機を明らかにすることなんてできるの?
このように、動機を明らかにすることが大事な意味を持つということはいいとして、そもそもそんなこと可能なのか?と思いますよね。
動機は、人の心の中に隠されているもの。
被疑者や被告人の供述をそのまま信じるしかないのでしょうか?
捜査でも裁判でも、動機に関する供述をそのまま信じるということはありません。
動機が、先にお話ししたとおり、いろいろな意味でとても大事な意味を持つので、警察官、検察官は、捜査の過程で、被疑者の供述する動機が果たして真実なのか、もしかしたらどこかに嘘が混じっているのではないか、丁寧に捜査します。
取り調べだけでなく、取り調べで得られた被疑者の供述の信用性を確かめるために、裏付け捜査も徹底して行います。
先ほど挙げたドラマの例で言えば、被疑者が「金が欲しくてやりました」と言えば、被疑者は本当にお金に困っていたのかを明らかにするために、勤務先やかつての勤務先にあたって就労状況を確認したり、所持品や預貯金口座の調査、借金の状況、賃料の滞納状況について客観的な資料を取り寄せたり、家族や知人らの事情聴取をしたり、と慎重に捜査し、その供述は本当かということを丹念に調べていくのです。
そして、もし、集めた事実と被疑者の話とで食い違うことがあれば、改めて被疑者の話を聞くなどし、真相を明らかにしていきます。
その過程で、被疑者が隠していた真の動機が明らかになり、本当は、お金に困ってなどいなかったけれど、盗んだものを転売して得た稼ぎで生計を立てていたことが明らかになるかもしれません。
被疑者は誰かから脅されていて、その人に金を渡すために犯行に及んだことが明らかになるかもしれません。
また、実は、被疑者は一切犯行に関わっておらず、身近に犯人がいて、その犯人をかばおうとしていたことが明らかになるかもしれません。
今回の報道では、いずれも被疑者が犯人であることは認めたうえで動機について「コロナの影響で」と供述していると報じられています。
この情勢ですので、それを聞くと、「動機としてはありそうだな」と思ってしまうかもしれません(もちろん、そのような動機が正当化されるという意味では断じてありません)。
でも、私自身の経験では、そのような、いかにもありそうな動機が語られるときほど慎重に、「それって本当?」と疑いながら裏付け捜査がなされるべきだと思います。
そのような地道な捜査の積み重ねが冤罪を防いだり、また、仮に被疑者が犯人であったとしてその刑事責任に応じた適切な量刑が科されたりするのだと思うのです。
そして、犯行の動機を明らかにする、ということは、何も警察や検察だけの仕事ではありません。
弁護人として依頼を受け、依頼人のために最善の弁護活動をする出発点として、依頼人から真摯に話を聞き、動機に関して適切な捜査がなされているかチェックする視点を持ちながら動機を明らかにする姿勢が大事だと思っています。
今回の2つの事件について、今後捜査が進んでいきますが、その中で、捜査によってどのような事実が明らかになるのか、注目していきたいと思います。
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