リーガルエッセイ
公開 2020.04.28 更新 2021.08.13

「略式命令で罰金30万円」略式命令とは?

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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3年前になりますが、東名高速道路であおり運転を受けたご夫婦が亡くなるという本当にいたましい事件が起きました。
その事件が発生した当時、インターネット上で、ある無関係の会社について、被告人の勤務先であるという情報をはじめ、事実と異なる情報が書き込まれたという出来事がありました。
当時の報道によれば、それらの書き込みにより、その無関係の会社には多くのいやがらせや中傷の電話が入り、業務に支障をきたすほどになったとのことです。

当時、この無関係の会社が、事実と異なる情報を書き込まれたことにより社会的評価を低下させられたとして名誉棄損の罪で告訴し、捜査の結果、書き込みに関わった複数人が書類送検されていました。

しかし、検察庁は、不起訴処分としました。
不起訴処分の理由はわかりません。
この不起訴処分に対し、それはおかしいだろうと、検察審査会の申立てがされたのですが、結果、検察審査会の決定としては一番効果の強い「起訴相当」の判断が下されたことを踏まえ、検察官が再捜査の上「略式起訴」し、裁判所により罰金30万円の「略式命令」が言い渡されました。

検察審査会とは?申立てをするとその後どのような手続きがとられるのか?ということは、以前、こちらのエッセイでもとりあげましたので、もしよければご覧ください。
今回は、このたびとられた「略式手続き」とはどのようなものかについてお話しします。

略式手続きとは

「略式手続き」というのは、文字通り、正式なものではない、簡略化された手続きということです。

刑事裁判というと、通常、ドラマで見るような光景を思い浮かべますよね。
公開の法廷の真ん中に証言台があり、目の前には裁判官、両サイドには検察官と弁護人、柵の向こうには傍聴人。
起訴状が読み上げられて、証拠が取り調べられて、被告人質問としていろいろな質問をされて、最後に裁判官が判決を言い渡すという手続きが行われるあのイメージです。
これは、正式な裁判です。

しかし、この正式な手続きをとらないものがあるのです。
これが略式手続きです。

略式手続きでは、簡単に言うと、裁判官が、いくらの罰金を命じるかということを書面で審査します。
裁判官が、検察官から受け取った証拠書類を読んで判断するので、被告人として法廷に立つことはありません。

法廷に立たない「略式手続き」裁判官に直接自分の言い分は伝えられる?

法廷に立たないということは、手続きが簡単に済む反面、被告人という立場で裁判官に直接自分の言い分を伝える機会を奪うことになるのではないか?と思われるかたもいらっしゃるかもしれませんね。

でも、そのような心配はいらないのです。
というのも、そもそも、略式手続きで判断してもらうということでよいかということについて、あらかじめ検察官から意向確認され、意向を伝える機会があるからです。

通常、検察官から受ける最後の取り調べが終わったタイミングで、検察官から、「あなたのしたことについては、これまで調べてきた証拠から十分証明がされていると考えています。
そして、刑罰としては罰金相当であると考えていて、そのほかの事情から考えても今回は、もしあなたに異存がなければ、簡単な略式手続きをとることを考えています。
略式手続きをとるということについて意向を聞かせてください」と尋ねられます。

このとき、検察官は、略式手続きでは、書面審査となること、したがって、もし、事実関係を争っていたり、特に公の法廷で裁判官に直接伝えたいことがあるような場合には、略式手続きではなく、正式な裁判を受けたほうがよいことなどを被疑者に丁寧に説明します。

そして、その被疑者が、略式手続きとはどのようなものか、きちんと理解した上で、略式手続きを希望する、異存がないという意思表示をしたときには、書面にサインすることになります。

このように、略式手続きで罰金額を決められることに異存がないという場合にはじめて略式手続きがとられるのであり、通常、事実関係を認めていて、これが証拠書類だけで十分に立証されている案件でこの手続きがとられます。

たとえば、自動車運転過失傷害や傷害罪などでこの手続きがとられることが多いといえるでしょう。
略式手続きで言い渡すことのできる罰金の金額には上限があり、その上限は100万円となっています。

略式手続きで命じられる罰金も刑罰。確定すれば前科になる

たまにご相談を受ける中で混乱されているかたがいらっしゃるのは、略式手続きで命じられる罰金も、刑罰なので、これが確定すれば前科になることです。

略式手続きに付されれば最終的に罰金を払えば手続きが終わりますし、正式裁判に比べて手続きが終わるまでに要する時間も短いため、なかには、「本当は疑われていることを何もしていないが、簡単にお金で終わるなら、略式手続きに同意して略式手続きで終わらせてもらったほうが大事にならずに済むからいい」と安易に考えて、略式手続きをとることに同意してしまおうとするかたがいらっしゃいます。

でも、この判断をするにあたっては、略式手続きで言い渡される罰金についても刑罰であり、罰金前科になるということを理解した上でどうするか検討しなければなりません。

自分がしてもいないことで前科がつく、ということはあってはならないことです。
もし、ご自身、ご家族が犯罪の嫌疑をかけられ、身に覚えのない事実に関して略式手続きに同意するか問われているかたは、ぜひ一度、弁護士に相談してください。
一緒に、今後の方針を考えていきましょう。

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