リーガルエッセイ
公開 2023.04.05 更新 2023.05.01

行き過ぎた「推し活」をめぐる問題について

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
<メディア関係者の方>取材等に関するお問い合わせはこちら

推し活をめぐる問題

先日、いわゆるメンズコンセプトカフェの経営者らが、店に来た16歳の女子高生などに、彼女らが未成年者だと知りながら酒を提供したとして風営法違反で逮捕されたと報じられました。
女子高生などは、かなり高額な酒を注文しており、そのお金を、「援助交際」で捻出したなどとも報じられています。
ちょうど、先日、警視庁がコンセプトカフェの店舗責任者などを集め、講習会を開いたと報じられたばかり。
その講習会は、いわゆるメンズ地下アイドルに熱中した若者が、行き過ぎた「推し活」のためのお金を捻出するために売春行為を繰り返したり、犯罪に巻き込まれたりする問題が深刻化しており、保護者から警視庁に対する相談が増えているという事態を踏まえて開かれたものであるとのこと。
このたびの逮捕報道にある、未成年者に酒を提供することが犯罪であることは言うまでもないのですが、今回は、法的なトピックを少し離れ、この背景にある、行き過ぎた「推し活」をめぐる問題について考えてみたいと思います。

というのも、実は、我が家にとっても、他人事ではないのです。
我が家の思春期娘にも「推し」なるものが存在し、たびたびその推しに関する推し活を巡り母娘間の壮絶なバトルが勃発します。
一言で言うと、親である私は、その推し活は、中学生の娘にとって相応の範囲内にとどめられるべきであると考えています。
にもかかわらず、娘による「このイベントに参加したい」「このイベントでこのお金を遣いたい」という意向は、私の考える「中学生の娘にとってあるべき推し活の範囲」を超えていると感じられるのです。
そして、娘の「~したい」に対して意見することで、我が家はとんでもない大騒ぎになるのです。
この問題、我が家にとって、完全に未解決の問題であり、ここで、何か一定の結論めいたものを申し上げることはできません。
でも、私は、この問題をめぐるバトルの過程でいろいろ考えさせられたことがありました。

2つあります。
1つ目は、私自身が自分の発信する「~べき」に疑いの目を持たなければいけないなということです。
私の個人的な価値観に基づくと、(こんなことを言ってはいけないのですが)なんだかよくわからない「推し」なる存在に夢中になるより前にやるべきことがあるだろうとか、まだ自分で働くことができずお金の持つ重みもわかっていない立場で、人が働いて得たお金の中から心のこもったお年玉を頂いたのだからその遣い方は慎重であるべきで、推し活で遣うなんてとんでもないとか、そのような考えにならざるを得ないのです。
でも、それは私の個人的な考え方。
堅苦しく生きている私の偏った価値観に基づく発想なのに、それとは違う考え方もあるのだという当たり前のことをついつい忘れがちになってしまいます。
普段気を付けているつもりでも、娘との間にこのバトルが勃発するたびに、自分の「~べき」は、唯一の正解などではないのだという前提で話し合いをしなければならないことに改めて気づかされます。
2つ目は、とはいえ、娘に伝えなければいけないことを伝える必要性とその難しさです。
お金や時間の遣い方についてはいろいろな考え方があり得、そこに関して、私自身の意見を押し付けようとすることは避けたい。
でも、行き過ぎた推し活は、そのためのお金を手っ取り早く捻出するために「パパ活」などと呼ばれることもある売春行為に発展したり、子どもたちのあこがれ等の気持ちに乗じた性犯罪等に巻き込まれたりといった事態にもつながるもの。
そのようなリスクは、決してニュースの中で繰り広げられる他人事ではなく、自分にとってもごく身近に存在するリスクとして常に自覚する必要があるということを伝えなければいけないと思っています。
その際は、ただただリスクを伝えるということではなく、自分を大切に扱うということが具体的にどういうことなのか、ということを丁寧に、日常的に伝え続け、子どもの心に沁み渡るように実感できるようにしなければならないのだろうと考えています。

推し活をめぐる問題

我が家では、この問題に関し、今後、いろいろな方の考え方を聞いてみて、その上で娘の笑顔につながる推し活の在り方を探る話し合いをすることにしています。
本当に難しい問題ですし、今後、引き続き勃発するであろうバトルを思うと、気が重くもあるのですが、ごまかさずに、丁寧に取り組んでいくことで乗り越えていきたいと思っています。

お子さんが行き過ぎた推し活により犯罪に巻き込まれるなどの問題を抱え、どう対応していいかわからずにいらっしゃる方は、ぜひお気軽にご相談ください。

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