リーガルエッセイ
公開 2022.08.03

最近連日報道されている投資トラブルについて

最近連日報道されている投資トラブルについて
記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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投資トラブル

ある芸人のかたの投資トラブルが連日報道されています。
まだ、客観的な事実関係がわからないので、あくまでも、報道されている内容をもとにした一般論にはなりますが、この問題を取り上げてみたいと思います。

報道によれば、ある芸人のかたが、投資家Aさんにお金を預けていたものの、そのAさんとある日突然連絡が取れなくなったとのこと。
そして、この芸人のかたは、ご自身の仲間にも、Aさんを紹介していたとのこと。

まだこのAさんがしていたことが明確になっていない状況ではありますが、もし、Aさんが、あえて連絡を絶ち、お金をもって逃げてしまったということであれば、おそらく、その話を聞いたほとんどのかたは、「Aさんに騙されたな。詐欺被害に遭ったな」と思うのではないでしょうか。

実際、私も、そのような相談を受けることが多々あります。
そのような被害に遭ったかたは、皆さん一様に「詐欺罪で相手を告訴したい」と言うのです。

でも、実際、詐欺罪で立件することはかなり難しいことが多いです。
このお話をすると、多くのかたが、「え!?なぜ、お金をだまし取られたのに、詐欺に問えないのですか?」と驚かれます。

もちろん、詐欺罪が成立することもあります。
それは、お金を集める時点で、出資者たちが100%損することが確定していて、そのことを投資家を名乗る人間が認識していた場合です。
たとえば、投資家を名乗る人間が、「出資してくれれば、事業で運用して、出た利益の中から配当するよ。毎月○○円は配当できるよ」と言って出資してもらうものの、実際には、運用などしておらず、する予定もなく、単に、ほかにも同じように出資させた人から預かっているお金の中から配当金だとうそをついてお金を渡す、という方法です。
投資家を名乗る人間は、そうやって、自転車操業的に、出資金を、少しずつ配当金だと偽って手渡しておき、信頼を得ながら、どこかのタイミングで逃げてしまうのです。

その手口が証拠により立証できるのであれば、詐欺罪として立件できることもあろうかと思います。

でも、少しでも運用の跡があったりすれば、詐欺の立証は難しいことも多いといえるでしょう。

また、今回の報道では、Aさんは、無登録で金融商品取引業を行った疑いがあると報じられています。
この点において、無登録で金融商品取引業を行ったということが事実であれば、そのようなAさんの行為は、金融商品取引法違反に該当する可能性があります。

もう少し具体的に言うと、金融商品取引法という法律では、金融商品取引業は、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ行うことができないと定めています。
そして、ここでいう「金融商品取引業」とは何かということは、少し細かい話になるので詳細は避けますが、他人からお金などの出資を集め、それを使って何らかの事業、投資を行い、その事業から生じる収益等を出資者に分配するようなときも規制の対象になります。

ですから、今回報じられているAさんについても、仮に報じられているような事実関係があれば、金融商品取引法違反に該当する可能性があるのです。

さらに、このAさん、もし、出資を募るにあたり、「元本保証しますよ!絶対に出資した分は戻ってきます!」と説明して出資を受け入れていたら、そのような行為は出資法違反にも該当します。

このように、報じられている内容を前提にすると、Aさんには、金融商品取引法違反、出資法違反が成立する可能性があるととともに、実際は、立件がかなり難しいものの、事実関係によっては、詐欺罪が成立する可能性もあるといえるでしょう。

ただ、多くのかたが気になるのは、知名度もある、今トラブルのさなかにある芸人のかたにもそのような犯罪が成立するかという点であると思います。

結論として、現在報じられている内容だけでは全く判断がつきません。
芸人のかたが、投資家Aさんのしていたことにどこまで深く関わっていたか次第だと思います。

また、ここまで、刑事責任の話をしてきましたが、実は、民事責任に関しても問題が生じる可能性があります。
民事責任というのは、つまり、「損した金を返せ」という請求を受けての賠償責任のことです。

この民事責任に関しては、過去の裁判例で、投資詐欺をしていた本人ではなく、その者に被害者を紹介したものの「自分は投資を紹介しただけで詳細は知らない」と主張していた被告につき、過失があったとして、共同不法行為責任を認めたものがあります。

人に安易に出資を勧めることは大きなリスクをはらむといえるでしょう。

今回の報道をきっかけに2つのことを改めて確認しておきたいと思います。

1つ目。
被害に遭わないために、おいしい話が舞い込んできたとき、立ち止まって、信頼できる人の意見を聞くなど慎重な対応をとること。
そんなおいしいスキームがあるなら、普通は、人には秘密にして、一人勝ちを目指すと思いませんか?

2つ目。
安易に人に出資を勧めないこと。
その関わり方次第では、仮に自ら積極的に主導していなくとも、法的責任を負う可能性があります。

今後もこの話題について注目していきたいと思います。

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