リーガルエッセイ
公開 2022.07.04

不正のトライアングル理論について解説

不正のトライアングル理論について解説
記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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不正が起きやすい状態とは

先日、日本生命保険が、今年3月までの5年間で、合わせて15人もの営業社員による不正事案が16件も発生しており、その被害額は合わせて1億3800万円にものぼると公表しました。

不正の内容についても公表されており、それは、顧客が払った保険料を自分が指定する個人口座に振り込ませて着服したり、契約者貸付制度を悪用したりといったものであったと報じられています。

この報道を見て驚かれた人は多いのではないでしょうか?

私は、何が驚きだったかというと、これまでにも保険会社においては同種不正が行われることがあり、多くの保険会社はそのホームページ上で、社員が私製領収書を使って顧客から現金を預かったり、キャッシュカード等を預かるとともに暗証番号を聞き出したり、保険料の振込先を社員の個人名義の口座にしたりすることはないなどと顧客向けに注意喚起するなど、多くの不正が行われてきたことを認識していたにもかかわらず、1つの会社内で15人もの営業社員が合計1億を超えるような不正に手を染めることが可能であったというその環境に関してです。

保険会社の営業社員と顧客との関係、私自身はあまり経験がないのですが、密接なものになることは多いと聞きます。
保険商品以外の相談などを受ける機会もあり、何かと頼れる身近な存在として、大きな信頼を寄せられるという方も多いようです。
もともと、信頼される土台もあり、さらに、社員が顧客の家族関係等多くの情報を握っているとなれば、それを悪用する形での詐欺などの不正が起きやすくなるようにも感じます。

そして、現に、過去にも同種不正があったことが判明しているとなれば、おそらく会社においては、その不正予防のためにあらゆる対策を講じてきたはず。

にもかかわらず、この5年で15人もの営業社員による不正事案の発覚。

不正予防の対策が十分だったとはいえないはずです。

不正のトライアングル理論については、以前もお話したことがあったのですが、改めて考えてみたいと思います。
不正のトライアングル理論というのは、不正は、❶機会❷動機❸正当化という3つのリスク要素がそろったときに起きるという考え方です。

❶機会というのは、不正の実行を可能にする客観的な環境があること。

たとえば、組織の中である一人のひとだけに権限が集中していて、そこに対するチェック体制が働いていないとか、組織内での経費申請は、一応、上長数名に対する決裁を仰ぐ形式になっているものの、そこに、エビデンスを添付するルールは敷かれておらず、上長においても内容を確認しないままに決裁することが常態化しているとか。

❷動機というのは、不正に向かうその者が有する事情のこと。

たとえば、支給される給与の範囲では返済が立ち行かなくなるような金額の借金を負っており、経済的に困った状況にあるとか、組織内では毎月達成すべき売り上げ目標があり、その達成ができないことにより同じチームのメンバーらにも不利益が生じてしまうところ、その達成すべき売り上げ目標が努力をしても達成できないような高いものであるとか。

❸正当化というのは、不正に対して「やっても仕方ない」と認識する根拠となる事情のこと。

たとえば、組織内で、社員間に、納得のいく説明ができない待遇差があるとか。

不正を予防するというときは、このような3リスク要素の検討が必要になるでしょう。

たとえば、❶の機会をなくすということは、このたびの生保会社の事例においても重要な点だと思います。
過去に発覚した不正を検証し、不正をした者が、どの点に「機会」を見出したかという点を明らかにし、それをつぶすための仕組みづくりが必要です。

そして、客観的に機会をなくすための方策を講じるのみならず、会社全体に対し、「この会社は、不正の機会をなくすためのあらゆる方策を講じている不正に厳しい会社であり、不正の機会がない。企てても必ず未然に発覚してしまう」ということを徹底的に知らしめることも重要です。

もちろん、❷動機、❸正当化の要素との関係でもこのような対策が必要となります。

このような業務を会社の通常業務と並行して十分に実施していくことは大きな負担を伴います。

また、起きた不正に応じた個別対応のみでは将来の不正予防として不十分であり、不正が起きる要因をこのような不正の理論からひもとき、それぞれの会社の実態に合わせた形で導不正予防の仕組みづくりをすることも重要となります。

  • 「最近、現場でミスが頻発しているな」
  • 「社員が組織に対し悪感情を持っている様子がうかがえるが、いったいどこから切り込んでいけばいいのか」

そのような不安は、もしかしたら、近い将来、組織にとって致命的ダメージを与える不祥事に発展するかもしれません。
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