リーガルエッセイ
公開 2022.06.30

「ダイバーシティ」について思うことをお話しします

「ダイバーシティ」について思うことをお話しします
記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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「ダイバーシティ」について思うこと

先日、ある新聞で、リクルートHD傘下のリクルートで、女性登用を促進するために、管理職候補選びに関し新たな基準を本格導入することになったと報じられました。

具体的には、これまで、要件や基準が明文化されていなかったことから上司の先入観が無意識に入り込みやすかったという課題のもと、登用のための要件・基準を明文化することにより実績や能力による判断を徹底するとのこと。

実はこの話。
私にとって、最近とてもホットです。
なので、何度かに分けてお話ししたいなと思っています。
そして、今回は、ダイバーシティについて思うところをお話ししてみたいと思います。

私は、自身が育ってきた環境や学んできた学校の雰囲気にも原因があるのではないかと思うのですが、女性であることをあまり意識させられる機会というのがなく、課題だと感じる場面が一切ありませんでした。
女性だからといって、やりたいと思ったことを制限されることもなかったし、やったことの評価は100%「やったこと」の実績をストレートに評価してもらえました。

たぶん、初めて違和感を感じたのは、私が昔所属していた組織(ぼかしたつもりでも、経歴を見て頂けたらわかってしまうのですが)での飲み会の席でのことでした。

その職場では、当時、部署ごとの飲み会などがあると、あらかじめ座る位置が決められ、その紙が配られていたのですが、常に、私は、その飲み会でもっとも位の高い方の隣の席に配置されていました。
最初は、「うわ、緊張するから飲み会楽しめないわ」なんて言っていたのですが、徐々に、「なんでいつも私はこの位置なの?」と思うようになり、あるとき、席を決めていた担当者のかたに無邪気に質問してみたのです。
すると、担当者の方は言葉をにごし、教えてくれませんでした。
その後、先輩に質問したら、驚くべき答えが返ってきたのです。
「そんなの決まってるやん。お前がこの職場で一番若い女だからや」と言われました。

私は、この時、あまりにもあっけらかんと言われたことから、「あ、なるほどね。おえらいさんにお酒をお注ぎする役割ってことね」とそのまま受け止めたのです。
でも、その飲み会で愛想笑いをしながらお酒を注いで帰宅したとき、言いようのない怒りを感じました。

その怒りは、説明をそのまま素直に受け止めた自分に対してでもあったし、愛想笑いをしながらお酒を注いでいた自分に対してでもあったし、そんな思いを私にさせた職場に対してでもありました。

それ以降、私は、席の位置を指定されると、「毎回その場に座ることは嫌だ」と言って、全員が毎回持ち回りで、平等にその位置に座るルールにしてほしいと言い、担当者を困らせました。

その後、すぐに、そういう見方をされることに対する反発の感情はなくなり、どちらかというと、「そういう考え方をする人もいるよな。考え方の根本が全然違うんだよな」と素直に感じるようになり、そこに怒りを伴わなくなったし、むしろ、あからさまに、女性に対するそんな見方をしてくる人に対して、「おもしろい!」と笑い飛ばせる心境になりました。
気が向いたら、「お酒をお注ぎするのは私の天職ですからやらせてください」なんて言って、率先してその役割をかって出ることもありました。

それがよいのかどうかもわかりません。
でも、いろいろな考え方があり得ることは、それ自体を否定することはできないし、すべきでもないと思うのです。
また、常に目くじら立てて怒り狂う必要もなくて、自分が楽しんでやりたいなと思ったらやればいいし、やりたくもないときに、違う考え方を押し付けてこられそうになったら、断固、笑顔で拒否するだけのこと。
ついでに、お断りする理由も笑顔でビシッと説明するだけのこと。
それでよいと思っています。

ただ、私が一番嫌いなのは、ニセモノの「ダイバーシティ」です。
「女性はすごいよ」
「女性は優秀だから、もっともっと活躍してほしいよ」
「多様性って大事だね」
そんなことを常日頃言っている人たちの、無自覚な女性蔑視発言。
私は、それは、あからさまな女性蔑視と違って、全く笑えないし、滑稽だと思っています。

昔、女性活躍を声高に謳っていた上司から「いやあ、仕事できて助かるよ。下手な男性なんかより、よっぽど女性のほうが優秀だ」と言われたことがあります。

もちろん、それに対しては、即座に「どういう意味なのか?それは私を褒めようとしているのか?」と質問した上で、それは全く褒め言葉になっておらず、いかに無自覚に女性をばかにしている言葉になるのかということを丁寧に説明したのですが、それでも、褒めてやったのにこの女性部下は何をいったい怒っているのか、というポカンとした表情をされたことを鮮明に思い出します。

私は、別に、納得していないなら、わざわざ「ダイバーシティ」なんて言う必要はないと思うし、「女性がすごい」なんて言う必要もないと思います。

腹落ちしていないことを、時勢に即して無理に言おうとするから、その発言との間に齟齬が生じるのだと思うのです。

実は、こういう事象は、日常的に起きていると感じます。

私は、女性活躍だとか、管理職登用だとか、そんな話をし始める前に、その必要性について、性別など問わず、まずは腹落ちさせることこそが重要だと思っています。
そこが抜けていると、どうにも表面的な議論になって、やれ、管理職割合を何パーセントアップさせようだとかいう不毛な話になるし、それによって、本来だったらその実力や適性や意欲もないのに数字合わせで登用されるような人まで出てくるかもしれない。

感情的な話になってしまいました。
今さらフォローしても遅いかもしれませんが、過去に違和感を感じた場面についても、その職場全体がそうだとは思わないし、属人的な問題でもあったと思うし、何より、それを許す甘さが私自身にあったのだと思うし、何より、すでに大昔の話で、今はそんなことないと思っています。

今後も、少しずつ、そんな話をしていきたいなと思います。

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