リーガルエッセイ
公開 2022.06.06

わら人形を、神社境内の樹木にくぎで打ちつけたら器物損壊罪?

わら人形を、神社境内の樹木にくぎで打ちつけたら器物損壊罪?
記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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わら人形を神社境内の樹木にくぎ付けしたら犯罪?

先日、ある国の大統領の写真付きわら人形が、神社境内の樹木にくぎで打ちつけられていたのが発見され、警察が器物損壊罪の被疑事実で捜査中であるとの報道がありました。

この報道に、ネット上で「いったい何をもって器物損壊といえるのか?」というコメントが書かれているのを見つけました。

たしかに、器物損壊罪というのは、「人の物を壊す」というイメージがあると思うので、今挙げたような事例で、いったい何が壊されたのかと思うのももっともですね。

でも、樹木にくぎ打ちをすることで、樹木に傷がついていたら、それは他人の物を壊したと評価できるはずです。

では、仮に、くぎ打ちされてはいたが、樹木には傷がついているとまではいえない状態だったら?

器物損壊罪でいう「損壊」というのは、その物の効用を喪失させるような行為をいいます。
簡単に言うと、その物を本来予定されている使い方で使えない状態にしてしまう行為。
過去の裁判例では、食器に放尿した行為がこれにあたると判断したものもあります。
わら人形を樹木にくぎ打ちした行為はどうか?
仮に、くぎ打ちで樹木に傷がついたとまでいえる状態でなかったら、神社境内の樹木にくぎ打ちをする行為が、それ自体、境内の樹木として使えない状態にしてしまうようなものといえるか、ということを考えることになるでしょう。
そもそも、境内の樹木にはどのような役割があると考えるのか。
そして、その役割が、わら人形のくぎ打ちで果たせなくなるようなものといえるのか。
このあたりを検討することになるのだと思います。

ところで、ここでくぎ打ちされたものがわら人形だというところにも注目が集まっていますよね。

わら人形って怖い話では読んだことがあるかもしれないですが、実物を見たことがあるかたはあまりいないかもしれません。
私は、詳細は語れませんが、検察官時代、犯罪に利用されたわら人形を証拠品として見たことがあります。
いざこれが自分のもとに送られてきたら、さぞかしぞっとするだろう、命の危険を感じておそろしいだろうと思われました。
当時、わら人形が何度も夢に出てきて、眠れない日々を過ごした記憶があります。
わら人形を、自分が恨みに思う人に向けて送り付けたりしたら、それは、脅迫罪に当たり得ます。

今回の報道。
樹木にくぎ打ちされていた物が、ちょっとした貼り紙だったとしても、もちろん、樹木を傷つけたことにより器物損壊罪が成立し得ます。
でも、それが特定の顔写真付きわら人形だったことで、捜査機関にとって、より、その被疑者の動機解明や他犯罪へエスカレートする危険性排除の必要性が高まっているように感じます。
今後の捜査に注目します。

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