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「ビニ本」販売会社の摘発
中学生時代の私は、猛勉強をする日々でしたが、そのかたわら、ひそかな楽しみの時間がありました。
それは、妄想することです。
当時、特に私がはまっていたのは、「もし、世の中に人間が私一人になったら何をするか?」を考えることでした。
当時、たしか10個くらい、やりたいことが思い浮かびました。
「学校に行き、先々の試験問題をすべて暗記する」とか「その上で、誰もいない間に、人一倍勉強を進め、みんながふとこの世界に戻って来たときには、もう高校生くらいの学力を身に着けておく」とか、それはそれは本当にくだらないものでした。
そして、それらと同様、私が、世の中に私一人になったら絶対に遂行しなければならないと固く決意していたことが、「レンタルビデオ店の奥にある、あのひらひらしたのれんのようなものの向こうにはどんなビデオが陳列されているのか見る」「子どもや女性が決して入店しない、ちょっと不思議な雰囲気の書店の中にはどんな本が陳列されているのかを見る」というものでした。
その妄想を、一度、クラスの男子に打ち明けたことがあったのです。
そして、「あなたは、あの奥に何が隠されているか知っているか?」と質問したのです。
その時の答えが「ああ、ビニ本だろ」だったことを鮮明に記憶しています。
それに続けて、「ビニ本とは何なのか?」と質問することができなかったのは、その男子の答えにただならぬ雰囲気を感じ、この点をこれ以上追及してはいけないと察知したからでした。
そんな妄想にふけっていた私の疑問が、これ以上ないくらいに解明されたのは私が検察官になってからのことでした。
私が検察官としての仕事の中で、いわゆるわいせつDVDや本と出会う場面は大きく2つありました。
1つが、性犯罪の被疑事実で逮捕された被疑者の自宅を捜索した際に発見されたDVDや雑誌の内容を確認する場面。
被疑者が視聴していたDVD等は、被疑者の性的な嗜好につながることもあるため、逐一、その内容を確認します(直接的には、警察官がその内容をチェックし、検察官は、警察官が内容についてまとめてくれた報告書を確認することが多いかもしれません)。
もう1つが、「わいせつ図画有償頒布目的所持」などの罪の捜査にあたる場面。
多かったのは、わいせつDVDを売っている業者の摘発をした際、売るために保管されていたDVDが「わいせつ」DVDといえるかの確認をするという捜査でした。
ここで、「わいせつ」ってなんだろうと思いませんか?
刑事裁判の実務で、わいせつの定義は、『「いたずらに性欲を興奮または刺激せしめ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」」となっています。
司法試験を受験するにあたって、少なくとも、私の世代の受験生はほぼすべてが、この定義を暗記していたと思われるものです。
ただ、この定義をもって、一義的に、わいせつか否かの区別ができるかというと、非常に難しいと思いませんか?
当然、時代によっても変遷があるところです。
ただ、性器を露骨に撮影してあるものについては、このわいせつの要件を満たすことが多いと言えるでしょう。
モザイクの状態や撮影の角度などによっては、わいせつ性が否定されることもあり得ます。
ですから、私が検察官だった当時、本来わいせつの定義に当たらないものを所持していたのに、間違って起訴してしまうことがないように、夜を徹して、大量のDVDを1つ1つ視聴して、わいせつの要件を満たすものか否かをチェックするということもありました。
このような過去を久しぶりに思い出したのは、先日、ビニ本販売会社の社長等がわいせつ図画有償頒布目的所持等の被疑事実で書類送検されたとのニュースを見たからでした。
もちろん、私のもとには、数人の知人から、一般論として興味があるとのまわりくどい言い訳とともに「ニュースを見たが、わいせつの定義やいかに」という問い合わせが入りました。
たしかに、今の世の中、一般的な感覚で「わいせつ」と感じられるものがあふれているがために、その線引きがどこでなされているのかという疑問を持つのはもっともだと感じます。
私は、このたび摘発のあった「ビニ本」の中身を知らないため、それがわいせつ図画に当たるのか否かについて責任をもったコメントができません。
ただ、性器を露骨に撮影したものであるなら、わいせつ図画にあたる可能性は高いといえるでしょう。
今後の捜査に注目します。
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