リーガルエッセイ
公開 2021.06.28 更新 2021.07.18

個人で「特定代行」とうたい、依頼のあった人物の調査をすることの危険性

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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「特定代行」

先日、ある記事で、「特定代行」という言葉が取り上げられていました。
たぶん、一言で「特定代行」などといっても、その実態はいろいろなのだろうと思います。
その記事では、ある特定の人物の名前や住所などを知りたいという依頼を受け、SNSなどを駆使して、特定の人物の名前や住所などを調べ、判明したら依頼主に報告すること、成果があった場合の報酬約束もあることなどがその特徴であると書かれていました。

何のために特定の人物の名前や住所などを調べる必要があるのか?
被害に遭った人が、その加害者に復讐するため、その一歩として、加害者について情報を集めるケースが考えられますね。
その場合の「被害」にもいろいろあるかもしれません。
実際に何らかの被害に遭ったものの、相手につながる情報がないため、警察にも相手にされず、民事上の手続きもとれず、困り果てての依頼ということもあるでしょうし、「被害」とはいっても、客観的に見れば、それは逆恨みではないか?ととらえられるようなケースもあるでしょう。
ほかにも、ストーカー行為の一環であるケースもあるでしょう。
たとえば、街でみかけた相手に好意を持ったものの、どこのだれだかわからないから、名前や住所を知りたいというケース。
相手の情報を知ったら、相手の家に行ってみたり、出入りを確認したり、相手が捨てたごみをあさってみたりなどという行為につながったり、凶悪事件に発展するという最悪の事態を招くことも考えられます。

そして、こういった仕事、一昔前は、調査会社などが職業として請け負うというのが通常だったのだと思います。
素人だとなかなか依頼にこたえるスキルがありませんものね。
でも、SNSが身近な存在になり、多くの人が、自分の日常を投稿するなどSNSが一般に普及した今、個人であっても、SNS上にあふれる情報をもとに、特定の人物の名前や住所などを調べることが容易になっています。
そんな中で、個人が、「特定代行」などとうたって、依頼のあった人物について調査をすることがあるそうなのです。

もしかしたら、この仕事、SNSさえ利用できれば手軽にできて、しかも、依頼人にも喜んでもらえるいいお小遣い稼ぎだというとらえかたをする人もいるかもしれません。
でも、どこか、「この仕事、大丈夫なのかな?」というリスクも感じませんか?
たとえば、Aさんが、Bさんからの依頼を受けて、Cさんという人物の氏名、住所を特定し、報告し、報酬をもらったとします。
その後、Bさんが、Aさんにより特定されたCさんの自宅に行って、Cさんに抱いていた逆恨みの感情から、Cさんを殺害したら?
Aさんは、「いやいや、自分は名前と住所を調べて報告しただけだから知らないよ」で済まされる場合ばかりではないはず。
殺害した本人であるBさんは、殺人罪で逮捕され、警察の取り調べを受けます。
警察は、そもそも、どうやってBさんが、Cさんの氏名と住所を突き止めたのかということを必ず調べます。
そこで、捜査線上にAさんが浮かんできます。
Aさんは、警察の取り調べ対象になるでしょう。
Bさんが何のためにCさんの名前や住所を調べようとしているかということについて、どこまで認識していたのか?
Aさんは、「何も聞いていませんでした。頼まれたから調べて報告しただけ」と説明するかもしれない。
でも、報酬の額、Bさんとの関係性、Bさんからはどんな説明を受けたのか?仮にBさんから詳細な説明を受けていなかったとしても、断片的な説明を総合すると、Bさんが、Cさんを逆恨みしていること、その人物を殺害しようとしていることが容易にわかったのではないか?これまでに、得た情報が悪用されて凶悪な犯罪につながったという報道を見聞きしたことがあるのではないか?そんな追及を受けることになるでしょう。
証拠によって認められる事実関係によっては、Aさんは、Bさんの犯行を助けてCさん殺害を容易にしたという事実が認められ、共犯として認定される可能性もあります。
仮に、Aさんについては刑事責任を問うに十分な証拠はなかったという結果になったとしても、社会的な制裁を受ける可能性はありますし、何より、「自分がBさんにCさんに関する情報を提供しなかったら、Cさん殺害という結果も避けられたのではないか」という思いは残り続けることになるはず。

実態はいろいろだと思うので、一概に、こうすべき、などということは言えませんが、少なくとも、「SNSさえ利用できれば手軽にできて、お金を稼げる仕事」と考え、簡単に足を踏み入れるのは少し安易かもしれません。
その情報がどのように利用されるのか、と一歩先を想像し、その使われ方によっては、人の命に関わる事件に発展するということ、自分もその片棒をかつぐ結果になるリスクがあることを考える必要がありそうです。

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