リーガルエッセイ
公開 2021.04.28 更新 2021.07.18

府知事が説明した「条例は法律を超えてはならないというルール」について

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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路上飲み禁止条例

一部都府県について3回目の緊急事態宣言が発令されましたね。
お店でお酒の提供ができなくなったことで、今、路上飲みなるものが急増していて、これが問題視されているとのこと。
私自身はお酒を飲む習慣もないし、潔癖症で路上に座るなどということももってのほかだし、そもそも、この情勢下で、わざわざ人と集まってお酒を飲もうという発想が皆無なので、正直、この現象は全く理解できません。
お酒との付き合い方にしても、ストレスの解消の仕方にしても、人との付き合い方にしても、また、コロナ対応についての考え方にしても、人によっていろいろなのだと思います。
置かれた環境(高齢、基礎疾患を持つご家族がいるか、自分が万一感染したとして守らなくてはいけない存在があるか、感染したとして休養可能な環境にあるかなど)やこれを踏まえたそれぞれの価値観によっても全然違うのだろうなと思います。
それを自分基準であれこれジャッジすることのないように気を付けなくてはいけないなと思いながらも、私にとって、この件は最近特に考えさせられることが多い問題です。

さて、この路上飲みについて、先日、「路上飲みを禁止する条例を制定したらどうか」と意見があがったことに対し、大阪府知事が、「条例は法律を超えてはならず、法律で許されていること以上を条例で取り締まってはいけないというのが大きなルール」と説明したという記事を見つけました。
全体のやりとりをすべて確認したわけではないので、もしかしたら、全体としてはもう少し違うニュアンスだったかもしれませんが、「条例は法律を超えてはならないというルール」と府知事が説明したことについて、一歩踏み込んでとりあげてみたいと思います。

少し前になりますが、京都府亀岡市でプラスチック製レジ袋禁止条例が制定されたと報じられた際にも実は同じ問題を取り上げたことがあります。
そこでもお話ししたのですが、条例は、「法令に違反しない限りにおいて」定めることができるとされているのです(地方地自法14条1項)
今回の府知事の発言は、このルールを説明したものだと思います。
ただ、法令で規制していない内容を条例が規制したら、ただちに、「法令に違反しない限りにおいて」のルールにひっかかるかというとそうではない。
法令と条例の関係が争点になった過去の裁判では、条例が国の法令に違反するかどうかは、単純に、何を規制しているか、ということや、その規制の文言の対比によってではなく、規制の趣旨、目的、内容、効果を比較して両者に矛盾抵触があるかどうかで判断しなければならないとしています。
ですから、法令が、ある事項について規制していないとしても、そのことだけをもって、条例でそのことを規制してはいけないわけではない。
まず、法令が、ある事項を規制していない趣旨を考えるべきなんです。
そして、法令が、ある事項を規制するのはNGである、規制の対象外にして各自の自由にすべきであると考えてあえて規制していないというケースなのに、そのことを条例で規制すると、それは「法令に違反しない限りにおいて」に反することになる。
逆に、法令が、ある事項を規制していないのは、国としての一律の規制は不要だと考えただけで、各自治体が地方の実情に合ったそれぞれの規制をすることを許す趣旨だと考えられる場合は、条例を制定することも違法にならないというわけです。

その考え方からすると、路上飲みを禁止する法令がない中で、自治体が、路上飲みを禁止する条例を制定することが許される場合もあり得るはずです。
国として一律に規制していなかったとしても、地方の実情に照らすと、路上飲みを規制することが必要だといえる場合は路上飲み禁止条例を制定することが法令に違反しないといえるでしょう。
地方の実情に照らすと路上飲みを規制することが必要だといえる場合とはどんな場合か?
たとえば、コロナウイルスの感染が拡大している状況下、発令された緊急事態宣言の内容から、飲食店での酒の提供が禁止されることにより、路上で飲酒する人が増えている実情があり、物理的に立ち入り禁止の措置をとってこれを抑止することができない範囲に及び、これにより感染が拡大しつつあり、今後も拡大が懸念されるなどの場合などでしょうか。
そういえば、現に、2年前ころ、渋谷区が、場所と期間を限定して、路上飲酒禁止条例を制定したことがありましたよね。
10月のハロウィーンの時期、渋谷駅周辺では、多くの人が集結し、酒に酔った人によるトラブルが続発するという実情があった。
そこで、特定の場所の特定の時期の実情に照らして、法令では禁止していない路上飲酒を禁止する条例を制定したのです。

比較的近いうちに、飲食店での酒の提供は許されることになったとしたら、それに伴い路上飲みという問題自体が少なくなってくるかもしれず、そうなるとこの間に条例制定の動きとまではならないかもしれませんが、現状を考えると、緊急事態宣言がいつ解除されるのかもわかりません。
今後の動きに注目していきます。

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