リーガルエッセイ
公開 2021.04.27 更新 2021.07.18

誕生日を偽り、複数女性からプレゼント詐取疑いで逮捕された男の報道を見て

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
<メディア関係者の方>取材等に関するお問い合わせはこちら

これって詐欺?

先日、ある報道に目が留まりました。
たぶん、とても怖い顔で報道を見ていたはず。
先日、ある男性が詐欺の被疑事実で逮捕されたというのです。
どうだましたのか?
複数の女性に、それぞれうその誕生日を告げて、女性らからプレゼントとして電子マネーやスーツなどをだまし取ったとの疑いがかけられているとのこと。
そして、その男性は、マッチングアプリで出会った、少なくとも35人の女性と同時に交際していたと見られているというのです。

まだ逮捕されて間もないため、事実関係はわかりません。
ただ、この件、その内容が衝撃的だったこともあり、被害に遭ったと訴える複数の女性の声がいろいろなメディアでとりあげられていました。
それを見ていて、ちょっと気になったことをとりあげてみます。

まず、「うその誕生日を言って、プレゼントをもらうという詐欺を繰り返していた」という内容。
果たして、これは犯罪になるのか?
AさんがBさんに、「わたし、1月1日が誕生日なんだ」とうそを言った。
本当は3月1日なのに。
でも、Bさんは、Aさんの誕生日が1月1日だと信じた。
そこで、お付き合いしたてのAさんに、何か喜んでもらえるプレゼントをあげようと思って、ネクタイをプレゼントした。
Aさんは、しめしめ、うまくだまされた、と思ってネクタイを受け取り、その後、行方をくらました。
Aさんの行為は詐欺罪?
これだけだと、私は、Aさんには詐欺罪は成立しないと思います。
詐欺罪が成立するには、単にうそをついた、というだけでなくて、物とか金とかを交付させるという行為に結び付くようなうそをつく必要があるからです。
こう言うと、「誕生日だっていえば、だからプレゼントくれっていうことになるんじゃないの?だから、物とか金とかを交付させる行為に結び付くようなうそって言えるんじゃないの?」という意見もあるかもしれませんね。
たしかに、二人の間でどんなやりとりがされたかによっては成立することもあるかもしれません。
でも、誕生日と言われたからって、それを聞いた相手がプレゼントを渡すという行為に必ずしも結び付くわけではありません。
詐欺罪が成立するためには、ほかの要素が必要だと思います。
たとえば、ダイレクトな要求行為。
「この日が誕生日なんだ。プレゼントとして〇〇を買ってほしい」など。
でも、これだけでも、詐欺罪が成立するために必要な、物などの交付行為に向けたうそというのは足りない場合もあるかもしれない。
そもそもの土台として、Aさんは自分の真剣な交際相手であるとか、将来の結婚の約束をした婚約者であるとか、そのような関係性であったら、うその誕生日を告げられてプレゼントを求められたら、普通プレゼントをあげるでしょう、という事情があると詐欺罪の成立に近づくのではないかと思います。

今回のケースではどのような事情であったかはまだわかりませんが、報じられているプレゼントが、電子マネーやスーツであることからすると、「何も言われずに自分からプレゼントを電子マネーにはしないだろうし、スーツだって、相手のサイズに合うかよくわからないままに買ってしまうことはないだろうから、男性がプレゼントを指定して、具体的に購入を求めたのかな」などと想像してしまいます。
そして、これに加え、男性と女性が出会って以降どのようなやりとりをしたのかということを丁寧に追っていき、関係性を明らかにする必要がありそうですね。

また、別の報道で、被害を訴える女性が、だまされていると知った後も男性と会い、だまされていると知っていたのに、男性から言われるままに物を購入したという話が掲載されていました。
これについても詐欺罪が成立するのか?
「だまされていると知った」というのが、具体的に何を指すかわからないので、断定はできません。
仮に、男性が、自分と結婚する気などなく、ほかにもたくさんの女性にうそを言って金品を貢がせており、自分もそのようなだまし相手の一人であると知っていた、そして、今回購入を求められている件も、そのようなうそを踏まえたものだということを知っていたのだとしたら、少なくとも詐欺の既遂罪は成立しません。
詐欺罪が成立するには、うそを言って、そのうそを信じてだまされた状態にある相手が、うそを信じたからこそある物や金を交付したといえることが必要だからです。
うそだと見破っていたら、せいぜい、詐欺の未遂罪の成立にとどまってしまいます。

今回は、報道を見て気づいたことを淡々ととりあげてみたのですが、ちょっと温かみのない内容になってしまったかもしれません。
今後の捜査に注目します。

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