リーガルエッセイ
公開 2021.03.04 更新 2021.07.18

保護責任者遺棄致死罪。幼い子どもが犠牲になる事件をなくすために

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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5歳の男の子が餓死 母親と「ママ友」が逮捕

いったい何が起きていたのか?
まるで、どこか自分とは遠い世界で起きた出来事のように受け止めたかたも多いのではないでしょうか?

昨年4月ころ、5歳の男の子が自宅マンションで亡くなっていたと報じられました。
死因は餓死とのこと。
亡くなった当時、男の子の体重は10キロ前後だったそうです。
文科省の学校保健統計によると、5歳の男の子の平均体重は18.9キロとのことですから、平均体重の約半分。
男の子の母と、その「ママ友」の女性が、一緒になって、2019年8月ころから8か月にわたって男の子の食事の量や回数を減らし続けたことが餓死の原因になったとされていて、そのことについて、母と「ママ友」女性が保護責任者遺棄致死罪で逮捕されたと報じられています。

このたび報じられた件については、捜査は進んでいるはずですが、まだどんな証拠があってどんな事実が認められるのか全くわかりません。
ですので、軽率なコメントは控えなければなりません。
ただ、この報道を見て、「保護責任者って親じゃないの?他人であるママ友にも成立するなんてことあるの?」と思ったかたもいるのではないでしょうか?
たしかに、幼い子どもが犠牲になる事件で保護責任者遺棄致死罪に問われるのは、一緒に住む親であることが多いですよね。
でも、この犯罪は、必ず親が加害者で子が被害者というわけではありません。
刑法では、保護責任者遺棄罪が成立する場合について「老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったとき」と定めています。
つまり、このような「保護する責任のある者」といえれば、加害者が親でなくとも、被害者が子でなくとも犯罪が成立しうるわけです。
じゃ、具体的にどういう人が、この「保護する責任のある者」といえるかについてはいろいろな考え方があります。
そのひとつとして、危険な結果につながるような行為に自ら及んでいた人、他者の介在を排斥するような支配をしていた人、そんな人については、被害者に危険な結果が発生することを避けるために積極的な行為を求められるのに、そんなこともせずに放置したということが保護責任者遺棄罪にあたるという考えかたがあります。
ちょっとイメージしにくいですね。
極端な例に感じるかもしれませんが、過去の裁判例では、被告人が、ホテルの客室に連れて行った少女に覚せい剤を注射した後、少女が苦しみだし、錯乱状態になったのに何もせずに放置して死亡させたとして裁判になっていた事件で、密室といえるホテル客室内で自ら少女に覚せい剤を注射し、その後の少女の容態の悪化をそばで詳しく見ていた被告人については、すぐに外部に連絡して少女の生存に必要な措置をとるべき刑法上の義務があったと判断したものがあります。

被害者との関係性、置かれた状況(ときには自ら設定した状況)などからして、被害者の状態を知り得る人がいないような状況が作り出されてしまっていて、そして、その被害者の生存がまさにこの人にかかっているというようなときは、保護する責任のある者と評価されることがあるといえそうです。

このたび報じられた事件についても、「ママ友」だったという女性は関与を否定していると報じられていますので事実はわかりませんが、一部には、その女性が、亡くなった男の子の家庭を「支配」していたなどという報道も。
この女性が、いかに男の子の母やその家族と関わっていたのか、今後の捜査に注目していきます。

この事件、事実関係はまだわかりません。
でも5歳の男の子が十分な食事をとれない状態で餓死したのは事実。

冒頭で少し触れましたが、今回の報道を見て、何か自分とは関わりのない、どこか遠くの世界で起きた出来事のように感じたかたもいたかもしれません。
でも、このご家族、周りに誰一人存在しない場所で生活していたわけではありません。

報道からははっきりしませんが、もしこの男の子が食事を十分に食べられなかったころも幼稚園に通っていたのなら、男の子の周りにはたくさんの大人や子どもたちがいたわけだし、もし途中で幼稚園に行かなくなっていたのだとしたら、急に幼稚園に来なくなったのはなぜだろうと感じる人もいたかもしれない。
男の子には小学校に通う二人のお兄ちゃんがいたとも報じられていて、しかもそのお兄ちゃんたちが長期休み明けに極端にやせていたことをきっかけに一家が児童相談所などの見守り対象になっていたというのだから、現に、「なにか問題があるんじゃないか」とみるだけの十分すぎる兆しがあった。
報じられているだけでも、関係機関が子どもたちの助けを求める声をすくいあげるきっかけがこんなにもあったのに、どうして?と思いませんか?
報道を聞いているだけでも子どもたちの悲鳴が聞こえてくるのに、近くにいた関係機関には聞こえなかったのか?
児童相談所は「結果として子供が亡くなったことを重く受け止めている」とコメントしたとのこと。
結果として?
この言葉の裏に「すべきこと、できることはすべて尽くしたので結果に至る経過に非はなくやむを得ないことだったと思う」というニュアンスを読み取ってしまうのは、少し感情的、一方的かもしれません。
でも、こうして、救いを求める子どもたちの声がちゃんと発せられていたのに、その声に気づいたはずなのに、最悪の結果を生じさせてしまうといういたましい事件を見聞きするのは今回ばかりではありません。
何も知らない立場で言うべきことではないことは重々承知の上で、それでもやはり、対応にいかなる不備があったか、十分な検証がなされるべきだと思います。

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