リーガルエッセイ
公開 2021.01.21 更新 2021.07.18

航空機内でのマスク着用を拒否した男性を逮捕

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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マスク拒否の乗客逮捕

昨年、航空機内でマスク着用を拒否したことが端緒となって航空法に基づき降機指示が出たと報じられた事案。
このたび、マスクを拒否した男性が、威力業務妨害罪、傷害罪、航空法違反の被疑事実で逮捕されたと報じられました。
このマスク拒否の事案が報じられたのが昨年9月。
なぜ3か月以上も経って、今、逮捕になるのか?と疑問に思ったかたもいませんか?
当時、男性が指示に基づき降機する場面をテレビで見たことがありますが、その映像には、臨場したと思われる警察官の姿も映っていました。
たしかに、なんでこのときに現場で逮捕しなかったんだろうと思われるかもしれませんね。
事実はわかりませんが、おそらく、裏付け捜査に時間がかかったのだろうなと思います。
威力業務妨害罪が成立するには、威力を用いて業務を妨害する危険性のある行為を行う必要があります。
威力を用いるというのは、相手の意思を制圧するようなことをするということ。
どのような行為態様をもって「相手の意思を制圧する」といえるのか、解釈の幅は広いといえますし、また、当時の男性の具体的言動が録音等で残っていないのだとしたら、事実認定をするにも、周囲の複数の乗客、乗務員らから事情聴取する必要があるでしょう。
傷害罪、航空法違反についても同様に慎重な捜査を要するといえます。

今回の事件の現場は航空機内。
普段は遠く離れた場所で生活しているかたが、今回たまたまこの航空機に乗り合わせたのだとすると、改めて警察が接触して事情聴取する機会を設けるのも大変です。
しかもこのコロナ下。
移動が制限されたり、感染予防の措置をとる必要があったりして、なかなかスムーズに捜査を進めることも難しかったかもしれません。
それでも警察は逮捕に踏み切った。
航空機に乗車していた多くのかたに甚大な影響を及ぼしたことは無視できなかったはずです。
今後の捜査によって事実関係が明らかになりますが、逮捕を報じるニュース映像においても男性はマスクをしていなかった様子。
取調べ、処分によっては公判において、男性がマスク着用を拒否したとしたら、警察、裁判所はどのような対応をとるのかも気になるところです。

最近、またマスクをめぐる事件がしばしば報じられています。
受験の際、鼻を出した状態でマスクを着用して不正行為とされた男性が、退室を求められた後トイレ内にこもり、不退去罪で逮捕されたという報道もありましたし、また、マスクの中でも飛沫感染を防ぐのに特に効果的であると報じられた不織布マスク以外のマスクをかけている人に対して暴言を吐くという不織布マスク警察なる人も出現したとの報道もありました。
「ただでさえこんな大変な状況なんだから、もうトラブルやめて穏やかに過ごそうよ・・・」というのが私の率直な気持ちです。
でも、人にはいろいろな背景があって、何を正しいと考えるか、何を心地よいと考えるか、考え方はいろいろあることを考えると、この情勢でいろいろな考え方がぶつかりあってトラブルに発展してしまうこともあるのだろうなと思います。
いろいろな考え方があって、それがぶつかり合うことも避けられない、でも、そんな中でも超えてはいけない一線を冷静に判断することは必要ですよね。
その一線を越えてしまうことにより刑事事件に発展したケースの立件は今後も積極的に進められるのだろうなと考えます。

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