リーガルエッセイ
公開 2020.11.05 更新 2021.07.18

言葉の暴力と傷害罪

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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パワハラで相手をうつ病にしたとして逮捕

先日、ある男性が、仕事で関わりのあった被害男性に対し、電話やSNSを通じて「申請を間に合わせることがお前の仕事だろ。間に合わなかったら殺すぞ」などと言って、被害男性に著しい不安感を与え、うつ病や自律神経失調症の傷害を負わせたとして傷害の被疑事実で逮捕されたと報じられました。
報道によれば、逮捕された男性は被疑事実を否認しているとのこと。
どのような事実があったのかは、今後の捜査で明らかになっていくことなので、事案への直接のコメントは控えますが、この報道を見たとき、「殴ったり蹴ったりといった暴力を振るっていないのに傷害罪が成立するの?」「けがをしていないのに傷害罪が成立するの?」と思われたかたもいるのではないかと思います。
今回は、傷害罪はどんなときに成立する犯罪なのかということを取り上げてみます。

傷害罪は、直接手を出さなくても、けがをさせなくても成立する

刑法には、「人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」と定められています。
「傷害」の結果を生じさせるための手段として、殴る蹴るなど直接力を加えることが条件になっているわけではありません。
そして、この「傷害」の意味は、人の生理的機能を害することと解釈されており、ここには、けがを負わせることだけでなく、精神的な疾患を負わせることなども含まれます。
過去の裁判例でも、たとえば、自宅から隣家の被害者に向けて連日連夜ラジオの音声等を大音量で鳴らし続けるなどして被害者に精神的ストレスを与え、慢性頭痛症等を生じさせたことが傷害罪にあたるとされた事例や、連日、深夜から早朝にかけて被害者の自宅に電話をかけ続け、被害者が電話に出ると無言、電話にでないといつまでも電話を切らないといった対応をしたことにより、被害者に著しく精神的不安感を与え、不眠状態にさせ、精神衰弱症にさせたことが傷害罪にあたるとされた事例があります。

ですので、言葉によるパワハラ行為がなされ、その結果、被害者をうつ病等にさせたと場合には、傷害罪が成立する可能性があります。

ただ、一般論でいえば、暴力を振るってけがをさせる、という事案を比べると、立証はそう簡単ではないのだろうと思います。
大前提として、どのような暴言等があったのか、ということが明らかになる必要があります。
暴言等が、一定期間、複数回にわたるというのであれば、いつごろからいつごろまでの間に、具体的に何という言葉が、どのような口調で、どのような状況で言われたのか、ということを明らかにする必要もあるでしょう。
また、被害者の病状を医師の診断書により明らかにする必要がありますし、その病状が発症したのは、被疑者による暴言等が原因であって、他の原因によるものではない、ということも明らかにする必要があるでしょう。

今後の捜査に注目していきます。

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