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先日、汚職事件をめぐる証人買収事件で、買収するために提供されたとされる現金から被疑者の指紋が検出されたとの報道がありました。
この報道を見て、もしかすると、「指紋が一致したなら、それはもう決定的だな」などという印象を持たれたかたもいるのではないでしょうか?
本件に関しては、指紋が検出、という報道が出たばかり。
何も事実関係はわかりませんので、直接のコメントはできませんが、今回は、「指紋」についてお話ししたいと思います。
私は、昔から刑事もののドラマが大好きなのですが、被疑者の取調べ中に、別の警察官が入ってきて、取調べ中の警察官に耳打ちし、それを聞いた警察官が「弁解はそこまでだ!お前の指紋が被害者の家のドアノブから出たそうだ」と自信満々に被疑者に告げ、それを聞いた被疑者ががっくりうなだれるなどというシーンを見たことはありませんか?
私は、学生時代、あまりに刑事ドラマが好きすぎて、私が刑事役、知人に被疑者役を務めてもらい、この指紋一致の事実を突きつけるシーンなどを何度もロールプレイさせてもらうという、今思えばかなり迷惑かつ非生産的なことをしていた経験があります。
指紋が出たら勝負あり、というような印象を持つかた、多くいらっしゃるのではないかと思うのです。
でも、実は、そう簡単な話ではありません。
「指紋が出たら勝負あり」ではない理由
裁判で、被告人と犯人の同一性が争われるケースがあります。
そして、そのようなとき、検察官が、被告人が犯人であることを立証するための証拠として、指紋に関する証拠を請求してくることがあります。
たとえば、車の中から物が盗まれたという窃盗事件で、被害車両のドアノブから被告人の指紋が検出されたとして、その鑑定書を証拠請求してくるということが考えられます。
そのようなとき、弁護人の立場からすると、実はいろいろ疑うべきポイントがあります。
まず、私がそのような事件の弁護人だったら、その指紋は、果たして、本当に、その被害車両から検出されたものなのか?鑑定に持ち込まれるまでの過程でほかの試料が混入してしまっている可能性はないかという点などを疑ってかからなくてはいけないと思います。
指紋採取過程に疑わしい点がないかを調べるのです。
過去の裁判例でも、指紋採取過程の信用性を争われる場合に備え、指紋採取の状況を写真撮影するなど証拠保存しておくべきだったのに、そのような客観的な証拠が一切提出されていないとして、その指紋をもって被告人を犯人と認定する材料として使うことができないと判断しているものがあります。
また、指紋採取過程に問題がなかったとしても、鑑定結果を疑う余地もあります。
採取された指紋と被告人の指紋が同一人のものかどうかという照合過程を争うのです。
人の指先には特徴点が平均で100点くらいあると言われている中、それぞれの指紋の特徴点をピックアップして照合し、12点の特徴点が一致すると同一指紋という判断をされます。
2つの指紋を照らし合わすその照合過程は信用できるものか、という点を問題にする場合があり、その点を争うため、鑑定人の証人尋問が行われることがあります。
さらに、仮に、そこに被告人の指紋があったということは認められるとして、「その指紋が、犯行時以外の機会に付着した可能性はないのか」という点も疑う必要があります。
たとえば、先程の例で、被害車両のドアノブに被告人の指紋が残っていたとしても、被告人と被害者が知り合いで、被告人は、犯行日とされる前後に、その車に、ドアを自ら開けて乗り込んだことがあったというなら、そこに被告人の指紋があることはむしろ当たり前です。
そうなると、ドアノブに被告人の指紋があったという事実は、被告人と犯人の同一性を立証するにあたり、何も意味を持たなくなるといえます。
つまり、犯行時以外に被告人の指紋がそこに付着する機会はなかったといえるのか、という点も非常に大事なポイントになるといえます。
指紋が検出されたとなると、そのインパクトはとても大きいのですが、実際は、その採取過程、鑑定方法、犯行機会以外に付着した可能性の有無など争われる可能性のある点があり、当然、警察も検察も、慎重に捜査を進めます。
本件についても今後の捜査に注目していきます。
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