パワハラの被害を訴えようにも、証拠がない場合もあるでしょう。
そもそも、パワハラの証拠としてはどのようなものが有用なのでしょうか?
また、パワハラの証拠がない場合は、どのように対処すればよいのでしょうか?
今回は、パワハラの証拠がない場合の対処法などについて、弁護士がくわしく解説します。
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パワハラで訴えるには証拠があったほうがよい
パワハラの被害に遭った場合、会社に相談して対応してもらったり、相手に対して損害賠償請求をしたりするなどの対処法が検討できます。
このように、パワハラ被害を訴える際は、あらかじめ証拠を確保しておいた方がよいでしょう。
証拠を提示することで、パワハラがあったことの信憑性が高まるためです。
パワハラの証拠がない場合に想定されるリスク
パワハラ被害を訴えた場合、相手がパワハラを否定する可能性があります。
この場合、パワハラの証拠がなければ、第三者がパワハラの有無を正確に判断することはできません。
証拠がない以上、虚偽のパワハラ被害を訴えている可能性や、正当な業務指導をパワハラ捉えている可能性はゼロではないためです。
この場合に生じるリスクは次の2つです。
相手がパワハラを否定すると損害賠償請求が困難となる
パワハラの証拠がない場合、相手がパワハラを否定すると、損害賠償請求が困難となるおそれがあります。
パワハラは、加害者や会社に対する損害賠償請求の原因となります。
しかし、損害賠償を求めて裁判所に訴訟を提起しても、証拠が一切なければ裁判所はパワハラの存在を肯定できず、損害賠償請求が認められない可能性が高くなります。
会社にいづらくなる
パワハラの証拠がない状態でパワハラ被害を訴えた場合、会社にいづらくなるおそれがあります。
証拠がない状態でパワハラ被害を訴え、加害者がパワハラを否定すると、告発が真実であったか否かを会社が判断することは困難です。
そのため、加害者に対して何ら処分が下されない可能性があります。
結果的に、「虚偽のパワハラ告発をした」「正当な指導をパワハラだと訴えた」などの噂が広まり、会社にいづらくなる可能性があるでしょう。
なお、パワハラの相談をしたことで、相談者を会社が不利益に取り扱うことは禁止されています(労働施策総合推進法30条の2)。
パワハラの主な証拠
パワハラの証拠には、どのようなものが挙げられるでしょうか?
ここでは、パワハラに関する主な証拠を紹介します。
- 音声の録音データ
- 動画データ
- メールやチャットのやり取りの記録
- 医師の診断書
音声の録音データ
暴言を吐かれたり脅迫されたりしている場合、音声の録音データが有用な証拠となります。
小型のボイスレコーダーやペン型のボイスレコーダーなどは、相手に気付かれにくいでしょう。
また、スマートフォンのボイスメモで録音する場合もあります。
なお、無断で音声を録音した場合、これが証拠として認められるのか不安に感じる人も少なくないようです。
相手や会社の承諾を得ずに録音したからといって、証拠力がなくなるわけではありません。
ただし、録音しないよう会社から再三にわたって注意されても録音を続けた場合や、機密情報を扱うなど就業規則で録音を禁じられている執務室において録音を繰り返した場合は、解雇など懲戒処分の対象となる可能性があります。
音声を録音する際は、次の点に特にご注意ください。
- 編集せず、そのままの状態で提出する
- 相手が怒鳴った瞬間だけではなく、前後関係が分かるように録音する
- 複数回の録音の方が信憑性が高い
- 音声だけから読み取れない事情は、メモなどで捕捉する
- 日時がわかるよう、ボイスレコーダーの日時を正しく設定する
録音に不安がある場合は、あらかじめ弁護士へご相談ください。
動画データ
殴る・蹴るなどのパワハラの場合は、動画データが有用な証拠となります。
とはいえ、音声とは異なり、相手にわからないように録画することは容易ではないでしょう。
そのため、同僚などに撮影を依頼したり、パワハラが予見される場合にあらかじめカメラを設置したりするなどの対策が必要となります。
また、会社がパワハラ撲滅に積極的である場合は、会社が設置した監視カメラの映像を入手することも一つの手でしょう。
ただし、会社が必ずしも協力してくれるとは限らないため、初めから会社が保有する証拠をあてにすることはおすすめできません。
メールやチャットのやり取りの記録
メールやチャットなどでパワハラをされた場合は、その記録が有用な証拠となります。
不愉快なメールや削除したいかもしれませんが、証拠となり得るため保存しておきましょう。
また、チャットなどでは、相手方だけの操作でメッセージが消えるおそれがあります。
相手が都合の悪いメッセージを消して証拠隠滅をしないよう、あらかじめスクリーンショットなどを残しておくとよいでしょう。
スクリーンショットを撮る際は、メッセージの内容のみならず、前後のやり取りや送信日時などまでがわかるように撮影してください。
医師の診断書
医師の診断書もパワハラの証拠となり得ます。
とはいえ、これはパワハラがあったことそのものの証拠ではなく、「パワハラによって負った損害の程度」を示す証拠であることに注意してください。
特に、精神的な苦痛は外部からは見えづらいため、医師の診断書を受け取ることをおすすめします。
なお、パワハラの時期と診断書の日付が遠い場合は、パワハラと診断内容との因果関係が否定されるおそれがあります。
パワハラの被害に遭って怪我をしたり苦痛を感じたりしたら、できるだけ早期に診断を受けて診断書をもらっておくことをおすすめします。
パワハラの証拠がない場合に追加で証拠を集める方法
パワハラの決定的な証拠がない場合、追加の証拠はどのように確保すればよいのでしょうか?
ここでは、パワハラの証拠がない場合や足りない場合に、追加で証拠を集める主な方法を解説します。
パワハラにまつわる相手の言動などのくわしいメモや日記を残す
1つ目は、パワハラにまつわるメモや日記を残すことです。
他の客観的な証拠と比較すればやや弱いものの、被害者の日記やメモも積み重なれば証拠となり得ます。
日記やメモには、いつ、誰から何をされたのか、またそのときどう感じたかなどを、詳細に記載してください。
なお、一般的にはパワハラだけについて書いたメモや日記よりも、他の事柄も継続的に書いている日記やメモの中にパワハラのことも書かれている方が信憑性が高くなります。
同僚などに証言を依頼する
2つ目は、同僚などに証言を依頼することです。
同僚など他にもパワハラに困っている人がいる場合、パワハラについて証言してもらえる可能性があります。
パワハラの目撃者がいる場合は、証言を依頼してみるとよいでしょう。
なお、同じようにパワハラを受けていても、同僚がその会社に残ることを希望している場合は証言を拒絶されることがあります。
証言することで、同僚が会社にいづらくなるおそれがあるためです。
すでに退職を決めている同僚や退職済の者の方が、証言を引き受けてくれやすいでしょう。
録音や録画を試みる
3つ目は、新たに録音や録画を試みることです。
パワハラが継続している場合は、この方法が有力な選択肢となります。
なお、先に会社へパワハラについて相談をすると会社から加害者にヒアリングなどがなされ、加害者が警戒して証拠を得にくくなるおそれがあります。
そのため、可能な限り、証拠を確保してから会社に相談したほうがよいでしょう。
メールなどの履歴を改めて確認する
4つ目は、メールやチャットなどの履歴を改めて確認することです。
改めてメールやチャットを見返すことで、パワハラの証拠が見つかるかもしれません。
「この内容は証拠になるのか」など判断に迷う場合は、弁護士へご相談ください。
医師の診断を受ける
5つ目は、まだ医師の診断を受けていない場合、早急に診断を受けることです。
先ほど解説したように、パワハラの発生日と診断書の日付とが離れていると、因果関係が否定されるおそれがあります。
しかし、時間が戻ることはないため、現在も心身の不調がある場合はできるだけ早期に診断を受けて診断書を受け取るとよいでしょう。
パワハラの証拠がない場合の対処法
パワハラの証拠がほとんどなく、自身の日記程度しか証拠が確保できない場合はどのように対応すればよいでしょうか?
最後に、パワハラの証拠がない場合の対処法を解説します。
- 会社に相談して解決を図る
- 労働局に相談する
- 弁護士へ相談する
会社に相談して解決を図る
パワハラの証拠が何もない場合、損害賠償請求などの法的措置をとろうにも、これが認められる可能性はほとんどありません。
裁判では証拠が重視され、証拠が何もない状態で損害賠償請求が認められる見込みは薄いためです。
そこで、できるだけ円満な解決を図ることが有力な選択肢となります。
具体的には、パワハラを辞めてほしいものの今後もその会社での勤務を続けたい場合は、会社のパワハラ相談窓口に相談することなどが挙げられます。
なお、労働施策総合推進法(通称「パワハラ防止法」)では、会社はパワハラの相談窓口を設けるなど適切な措置をとることが義務付けられています。
そのため、会社の規模に関わらず、パワハラ相談窓口は存在するはずです(労働施策総合推進法30条の2)。
相談窓口は独立して設けられている場合のほか、人事課や総務課などが窓口を担っている場合もあります。
なお、パワハラについて相談したことが原因で、会社が相談者を不利益に取り扱うことは労働施策総合推進法で禁止されています。
この場合は、加害者を罰するという目的ではなく、あくまでも「このようなことをされて困っている」という相談のスタンスを保つとよいでしょう。
証拠がない以上、加害者が反論すれば対処のしようがなく、会社側も強靭な態度には出られない可能性があるためです。
相談の結果、会社から加害者からのヒアリングや加害者からの指導がなされ、パワハラが収まる効果が期待されます。
万が一、加害者が相談したことを逆恨みしてパワハラを継続したら、その際は漏れなく証拠を残してください。
労働局に相談する
相談をしても会社が適切に対処してくれない場合や、相談したことで相談者を不利益に取り扱うような場合、そもそも会社ぐるみでパワハラがされている場合は、都道府県労働局(総合労働相談コーナー)への相談が選択肢に入ります。
相談することで、労働局側が会社にヒアリングをしたり、会社に対して指導や助言をしてくれたりする可能性があります。
予約不要で電話相談もできるため、まずは相談員に状況を伝え、解決の可能性を探ってみるとよいでしょう。
弁護士へ相談する
パワハラの証拠がないうえ、会社が適切に対処してくれずお困りの際は、弁護士へご相談ください。
弁護士へ相談することで、自分では気付かなかった証拠の存在に気付く可能性があります。
また、証拠を集めるアドバイスも受けられます。
会社が不利益な取り扱いをした場合は、会社に対する損害賠償請求も検討できるでしょう。
いずれにしても、弁護士に相談することで活路が見出せる可能性があります。
お困りの際は一人で長時間悩むのではなく、お早めに弁護士へご相談ください。
まとめ
パワハラの被害に遭っているものの、証拠がない場合の対処法や主な証拠の概要などについて解説しました。
パワハラは損害賠償請求など法的措置の原因となるものの、証拠がない場合は請求を認めてもらうことは困難です。
なぜなら、相手がパワハラを否定した場合、パワハラがあったか否かを第三者が判断することが難しいためです。
そのため、パワハラを訴えたいにもかかわらず証拠がない場合は、あらかじめ証拠の確保に努めましょう。
パワハラの有用な証拠としては、録音データや録画データ、メールのやり取り、被害者の日記、医師の診断書などが挙げられます。
必要な証拠は状況によって異なるため、証拠がなくてお困りの際もお早めに弁護士へご相談ください。
Authense法律事務所では、パワハラ被害者による法的措置に力を入れており多くの対応実績があります。
パワハラの証拠として何を集めるべきかわからない場合や、パワハラの証拠がない場合はAuthense法律事務所までお早めにご相談ください。
パワハラ相談への対応経験豊富な弁護士が、追加で集めるべき証拠などを状況に応じて具体的にアドバイスします。
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