コラム
公開 2024.09.02

パワハラの裁判例を紹介!パワハラ認定された訴訟の事例を弁護士が解説

パワハラは不法行為であり、慰謝料請求の原因となり得ます。

そもそもパワハラとは、法令でどのように定義されているのでしょうか?
また、パワハラにまつわる裁判例には、どのようなものがあるのでしょうか?

今回は、パワハラの概要を解説するとともに、パワハラの裁判例を態様別に紹介します。

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)

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パワハラとは

はじめに、パワハラの定義を確認します。
パワハラは、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(通称「パワハラ防止法」)」で、次のように記載されています(パワハラ防止法30条の2)。

  • 「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害される」もの

この定義に記載されている用語の意味について、掘り下げて解説します。※1

「職場」とは

ここでいう「職場」とは、事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指します。
オフィスや店舗など労働者が通常就業している場所はもちろん、次の場所など、労働者が業務を遂行する場所も「職場」に含まれます。

  • 出張先
  • 業務で使用する車中
  • 取引先との打ち合わせの場所、接待の席

そのほか、実質上業務の延長と考えられるものであれば、社員寮や通勤中、懇親の場なども「職場」に該当する可能性があります。

なお、パワハラ防止法はあくまでも事業主の義務に主眼を置いた法律であるため、職場外の行為は対象から除かれています。
そのため、たとえば上司から業務とは関係なく休日に呼び出されて暴言を吐かれたり殴られたりした場合には、事業主の責任は薄いでしょう。

しかし、だからといって上司の行動に問題がないわけではなく、別途慰謝料請求や刑事告訴などが検討できます。
職場外でされた行為であるからといって加害者に法的措置がとれないわけではないため、お困りの際は弁護士へご相談ください。

「労働者」とは

ここでいう「労働者」とは、いわゆる正社員だけではなく、パートタイム労働者や契約社員など事業主が雇用するすべての労働者を指します。

なお、自社で働いている派遣労働者は、事業主が直接雇用しているわけではありません。
しかし、パワハラを予防する措置などは派遣元事業主のみならず、派遣先事業主も講じるべきとされています。

「優越的な関係を背景とした」言動とは

「優越的な関係を背景とした」言動とは、業務の遂行にあたって、その言動を受ける労働者が行為者に対して抵抗や拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景に行われるものを指します。
この典型例は、上司から部下に対する言動です。

ただし、次の場合などには、同僚や部下からの言動であってもこれに該当する可能性があります。

  • その言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、その者の協力を得なければ業務の円滑な遂行が困難であるもの
  • 集団による行為で、これに抵抗や拒絶をすることが困難であるもの

加害者が同僚や部下であるからといってパワハラにはあたらないわけではありません。
誤解のないようご注意ください。

「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動とは

「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動とは、次の言動などを指します。

  • 業務上明らかに必要性のない言動
  • 業務の目的を大きく逸脱した言動
  • 業務を遂行するための手段として不適当な言動
  • その行為の回数や行為者の数、その態様や手段が、社会通念に照らして許容される範囲を超える言動

これに該当するか否かは画一的に判断するのではなく、業種や業態、言動の目的、経緯などさまざまな要素を総合的に考慮することが適当とされています。

「就業環境が害される」とは

「就業環境が害される」とは、その言動により労働者が身体的または精神的に苦痛を与えられて就業環境が不快なものとなったために、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指します。
この判断にあたっては、「平均的な労働者の感じ方」を基準とすることが望ましいとされています。

パワハラの6類型

素材_法律
パワハラは、6類型に分類されます。
ここでは、パワハラの6類型についてそれぞれ概要を紹介します。
なお、実際のケースでは複数の類型に該当する場合も多く、必ずしもいずれか一つに分類できるとは限りません。

身体的な攻撃型

身体的な攻撃型とは、身体に攻撃を与えるタイプのパワハラです。
蹴ったり殴ったりすることのほか、物を投げつける行為もこれに該当します。

なお、この類型のパワハラでは、刑法上の「暴行罪」や「傷害罪」などの罪にあたる可能性もあります。

精神的な攻撃型

精神的な攻撃型とは、精神的なダメージを与えるタイプのパワハラです。
脅迫や名誉毀損、侮辱、ひどい暴言などがこれに該当します。
相手の性的指向や性自認に関する侮辱的な言動も、これに該当すると考えられます。

人間関係からの切り離し型

人間関係からの切り離し型とは、個人を疎外するパワハラです。
隔離や仲間外れ、無視などがこれに該当します。

過大な要求型

過大な要求型とは、業務上明らかに不要なことや遂行不可能な業務を押し付けるパワハラです。
たとえば、新卒で入社したばかりであるにもかかわらず、必要な教育がないまま到底対応しきれないレベルの業績目標を課され、達成できなかったことに対して厳しく叱責される場合などがこれに該当します。

過小な要求型

過小な要求型とは、業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じたり仕事を与えなかったりするパワハラです。
たとえば、管理職であるにも関わらず誰にでも遂行可能な業務を命じられる場合などがこれに該当します。

個の侵害型

個の侵害型とは、私的なことに過度に立ち入るパワハラです。
たとえば、次の言動などがこれに該当します。

  • 労働者を職場外でも継続的に監視する
  • 個人の私物を写真で撮影する
  • 上司との面談などで話した性的指向や性自認、病歴、不妊治療などの機微な個人情報について、本人の了解を得ずに他の労働者に暴露する

パワハラにまつわる主な裁判例

パワハラにまつわる裁判例には、どのようなものがあるのでしょうか?
ここでは、パワハラの類型ごとに裁判例を紹介します。

身体的な攻撃型の裁判例

身体的な攻撃型の裁判例には、「他の従業員からの暴行などが不法行為にあたると判断された事案」があります。※2
これは、小売店店長代理であるX氏による不備の指摘に店長であるYが激高し、Xに暴力をふるった事例です。
その後、X氏は一連の報告書の開示を求める中で、管理部長であるA氏からも「ぶち殺そうかお前」などの暴言を受けています。
この事案では、Y氏による暴行とA氏による発言が不法行為にあたるとされ、慰謝料請求が認められました。

精神的な攻撃型の裁判例

精神的な攻撃型の裁判例には、「上司が送ったメールの内容が侮辱的言辞として、損害賠償請求が認められた事案」があります。※3
これは、A社のサービスセンター(SC)で勤務するX氏が、上司であるY氏から「やる気がないなら、会社を辞めるべきだと思います。当SCにとっても、会社にとっても損失そのものです」などと書かれたメールを送られた事例です。
このメールはX氏のみならず、同じ職場の従業員十数名にも送信されています。

この事案では不法行為が認定され、5万円の慰謝料請求が認められました。

人間関係からの切り離し型の裁判例

人間関係からの切り離し型の裁判例には、「罵倒、のけ者にするなどといった行為が不法行為にあたると判断された事案」があります。※4
この事例の前提として、Y社は問題のあるセールストークマニュアルを従業員に配布するなどし、国民生活センターに多数の苦情が寄せられていました。
これはY社に勤務するX氏がセールストークに疑問を抱き上司に質問を行うなどしていたことから新人をX氏に近づけさせない、挨拶しても返さないなどの行為をしたうえで、退職強要をした事例です。
この事案では、Y社の専務や上司らによる一連の行為が不法行為にあたるとして、慰謝料請求が認められました。

過大な要求型の裁判例

過大な要求型の裁判例には、「教員の精神疾患が増悪し自殺したのは、校長らのパワーハラスメントが原因であるとして損害賠償を請求した事件」があります。※5
これは、精神疾患を有する市立中学の教員X氏に対して校長や教育委員会等がパワハラしたことで精神疾患が増悪し、X氏自殺したことを受け、遺族が県と市に対して損害賠償を求めた事案です。
校長は精神疾患による病気休暇明け直後であるにも関わらず業務量を増加させたほか、県教育委員会等に対してX氏には指導力が不足しているとの報告を行い、X氏に対して指導力向上特別研修の受講が命じられるなどしています。

この事案では、これらの行為とX氏の自殺との因果関係を肯定し、被告に対して全損害の半分の支払いが命じられました。

過小な要求型の裁判例

過小な要求型の裁判例には、「客室係から厨房洗い場係に配置転換する旨の配転命令が不法行為と判断された事案」があります。※6
これは、旅館Yの仲居として雇用していた従業員X氏について厨房洗い場係に配置転換する旨の配転命令が発せられ、これが原因でX氏が退職した事案です。

この事案では、違法な配転命令であり不法行為にあたると判断されました。

個の侵害型の裁判例

個の侵害型の裁判例には、「部下の私的な生活範囲に対する会社上司の関与が不法行為にあたると判断された事案」があります。※7
この事例の前提として、X氏が個人的にA氏から賃借していた住居について明け渡しにまつわるトラブルが生じたことがあります。
そこで、A氏の知人であるX氏の勤務先企業Y1の専務であるB氏がXに対して至急A氏と話し合いをするよう勧告したほか、別の上司であるY2が左遷など人事上の不利益取扱いもほのめかしたうえで建物の明け渡しを繰り返し迫った事例です。

この事案では、勤務先企業Y1と上司Y2が連帯して、30万円の損害賠償義務を負うこととされました。

パワハラの被害に遭ったらどうする?

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パワハラの被害に遭ったら、どのように対処すればよいのでしょうか?
最後に、パワハラの被害に遭った場合の初期対応について解説します。

パワハラの証拠を残す

パワハラの被害に遭ったら、パワハラの証拠を残してください。
なぜなら、証拠がなければ加害者がパワハラを否定した際に、パワハラの存在を第三者に信じてもらえない可能性があるためです。
慰謝料請求をしようにも、裁判所に証拠を提示できなければ、請求が認められない可能性が高くなります。

パワハラの証拠としては、たとえば次のものなどが考えられます。

  • 暴言を吐かれている際の音声
  • 暴力を振るわれている動画
  • 被害者の日記やメモ
  • 同僚など第三者の証言
  • パワハラの一環で異動を命じられた際の辞令
  • メールやLINE、チャットの履歴
  • 医師の診断書

集めるべき証拠はパワハラの態様や状況などによって異なるため、証拠集めでお困りの際はあらかじめ弁護士へご相談ください。

勤務先の窓口に相談する

パワハラを円満に解決するには、まずは会社に相談するとよいでしょう。

会社は労働者に対して安全配慮義務を負っているほか、パワハラ防止法の規定によりパワハラに関する相談に応じるなど適切な措置を講じることが義務付けられています(パワハラ防止法30条の2)。
そのため、まずは会社の相談窓口を確認したうえで相談することをおすすめします。
なお、パワハラの相談窓口は人事課などが兼務していることも少なくありません。
会社がパワハラに対して適切に対処し、パワハラが収まった場合は、これで一応の解決となります。

弁護士へ相談する

会社がパワハラに対して適切に対処しない場合や、会社ぐるみでパワハラをしている場合、パワハラによる被害の程度が大きいなど円満な解決を望まない場合は、弁護士へご相談ください。

弁護士へ相談することで、そのケースにおける法的措置の可否などが想定でき、今後の方針を定めやすくなります。
また、弁護士へ依頼した場合は弁護士が会社などと代理で交渉をしたり、代理で慰謝料請求をしたりすることが可能となります。

会社や加害者が慰謝料請求などに応じず訴訟へ発展した場合であっても、対応を任せられるため安心です。

まとめ

パワハラの定義を確認するとともに、パワハラにまつわる裁判例を紹介しました。

パワハラによる被害の程度が大きい場合は、裁判によって高額な慰謝料が認容される可能性が高くなります。
パワハラの被害に遭っている場合は、泣き寝入りせず早期に弁護士へご相談ください。
弁護士へ相談することで、法的措置の可否などの見通しが立てやすくなります。

Authense法律事務所では、パワハラ被害者のサポートに力を入れており、裁判への対応事例も豊富です。
パワハラの被害に遭っており裁判を提起したい場合や、法的措置の見込みなどを知りたい場合は、Authense法律事務所までお気軽にご相談ください。

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