パワハラは、ときに人の命や健康をも奪うことがあります。
では、パワハラは何かの罪に該当するのでしょうか?
また、パワハラ加害者を罪に問いたい場合は、どのように対応すればよいのでしょうか?
今回は、パワハラが該当する可能性のある罪や加害者を罪に問うまでの流れなどについて、弁護士がくわしく解説します。
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パワハラの基本
はじめに、パワハラの定義と6類型について解説します。
パワハラの定義
パワハラは、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(通称「パワハラ防止法」)」によって、次のように定義されています(パワハラ防止法30条の2)。
- 「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害される」もの
ここでいう「優先的な関係を背景とした言動」の典型例は、上司から部下に対する言動です。
ただし、その言動に抗うことが難しい事情がある場合は、同僚や部下からの行為であってもこれに該当する可能性があります。
「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」といえるか否かは、業態や業種、言動がなされた背景、言動の頻度などを総合的に判断することとされています。
「労働者の就業環境が害される」か否かは、その実際の結果だけで判断するのではなく、「平均的な労働者の感じ方」を基礎として判断します。
自身が受けている行為がパワハラかどうか判断に迷う場合には、弁護士へご相談ください。
パワハラの6類型
厚生労働省が運営するホームページ「あかるい職場応援団」には、以下のとおりパワハラの6類型が掲載されています。※1
- 身体的な攻撃:蹴ったり、殴ったり、体に危害を加えたりするパワハラ
- 精神的な攻撃:脅迫や名誉毀損、侮辱、ひどい暴言など精神的な攻撃を加えるパワハラ
- 人間関係からの切り離し:隔離や仲間外れ、無視など個人を疎外するパワハラ
- 過大な要求:業務上明らかに不要なことや遂行不可能な業務を押し付けるパワハラ
- 過小な要求:業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じたり、仕事を与えなかったりするパワハラ
- 個の侵害:私的なことに過度に立ち入るパワハラ
この分類を知っておくことで、自身が受けている言動がパワハラに該当するか否か判断する際の参考となるでしょう。
パワハラに対してとり得る2つの法的措置
パワハラの被害を受けた場合は、主に2つの法的措置がとれる可能性があります。
ここでは、2つの法的措置について概要を解説します。
- 加害者や会社に慰謝料請求をする
- 加害者に刑法上の責任を追及する
加害者や会社に損害賠償請求をする
1つ目は、損害賠償請求をすることです。
損害賠償請求とは、相手の不法行為によって受けた精神的または財産的な損害を償うだけの金銭を支払うよう、相手に対して請求することです。
なお、精神的損害についての損害賠償請求は、慰謝料請求ともいわれます。
あくまでも民事上の話であり、警察や検察が介入する話ではありません。
損害賠償請求が認められたからといって相手に前科が付くわけでもありません。
混同しないようご注意ください。
パワハラの場合、加害者に対して損害賠償請求ができる可能性があることはもちろん、会社に対しても請求できる可能性があります。
なぜなら、労働安全衛生法により、会社は職場における労働者の安全と健康を確保する責務を負っており、パワハラに対して適切に対処しなかったことはこの義務に反したこととなるためです(労働安全衛生法3条)。
損害賠償請求は、まずは弁護士から内容証明郵便を送るなどして裁判外で行うことが一般的です。
会社や相手が裁判外での請求に応じない場合は、裁判上での請求などへと移行します。
加害者に刑事責任を追及する
2つ目は、加害者に対して刑事責任を追及することです。
次で解説しますが、パワハラはその態様や内容などによって刑法上の罪にあたる可能性があります。
この場合は、刑事責任の追及が一つの選択肢となります。
パワハラを受けた被害者が加害者の刑事責任を問うためには、警察などの捜査機関に対して被害届を提出したり、刑事告訴を行う必要があります。
刑事告訴とは、犯罪行為の事実を申告し、加害者の処罰を求める意思表示です。
被害届や刑事告訴が受理されると、その後の捜査の結果、加害者が逮捕されることもありますが、在宅のまま(逮捕されることなく)捜査が進むこともあります。
警察や検察が捜査した結果、刑事裁判にかける(「起訴」といいます)か、刑事裁判にかけずに事件を終結させる(「不起訴」といいます)かが決まります。
起訴されると刑事裁判が開始され、加害者の有罪・無罪や具体的な量刑が決まるという流れです。
こちらは刑事上の話であり、たとえ有罪になっても加害者から被害者に賠償金などが支払われるわけではありません。
民事と刑事は別の手続きです。
いずれの法的措置をとるのか(または、両方の法的措置をとるのか)は、弁護士へ相談したうえで慎重に検討してください。
パワハラは何の罪にあたる?
パワハラは、何の罪にあたる可能性があり、どのような刑罰の対象となるのでしょうか?
ここでは、順を追って解説します。
「パワハラ=〇〇罪」とする規定はない
まず、パワハラを刑罰として直接規定している法令はありません。
そのため、「パワハラ=〇〇罪」と断定できるものではなく、パワハラの内容や態様によって該当し得る罪が異なります。
パワハラが該当し得る主な罪
パワハラは、その内容によってさまざまな罪にあたる可能性があります。
ここでは、パワハラに関連する主な罪を紹介します。
なお、実際のケースではどの罪に該当するのか判断が難しい場合も多いでしょう。
その際は、一人で悩まず弁護士へご相談ください。
傷害罪
パワハラによって身体を傷害した場合は、傷害罪にあたる可能性があります(刑法204条)。
「傷害」には身体的な外傷(切り傷や打撲、骨折など)はもちろん、うつ病の発症など精神疾患の発症も該当します。
傷害罪の刑罰は、15年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
暴行罪
パワハラで暴行を加えたものの傷害までには至らなかった場合は、暴行罪に該当する可能性があります(同208条)。
わかりやすく言い換えると、殴る・蹴るなどの暴行の結果として怪我をした場合は傷害罪、怪我をしなかった場合は暴行罪にあたるということです。
暴行罪の刑罰は、2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留若しくは科料です。
なお、拘留とは1日以上30日未満の期間刑事施設で身柄を拘束される刑罰であり、科料とは1,000円以上1万円未満の金銭納付を命じられる刑罰です。
名誉毀損罪
公然と事実を摘示して人の名誉を毀損した場合は、その事実の有無にかかわらず、名誉毀損罪に該当する可能性があります(同230条)。
ここでいう「事実」とは、「本当のこと」という意味ではありません。
本当のことではなかったとしても、人の評価を低下させるだけの具体的な事実を摘示した場合には、名誉棄損罪が成立することになります。
たとえば、「会社の金を横領している」や「社内不倫をしている」など具体的な事実を摘示してこれを触れ回った場合は、実際に横領や不倫をしていなかったとしても、名誉毀損罪に該当し得るということです。
一方で、単に「バカ」や「ブス」など抽象的な悪口は、次で挙げる侮辱罪の範疇となります。
名誉毀損罪の刑罰は、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金です。
侮辱罪
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した場合は侮辱罪に該当する可能性があります(同231条)。
侮辱とは、先ほど触れたように「バカ」や「ブス」などの抽象的な悪口です。
侮辱罪の刑罰は、1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料です。
以前は拘留または科料のみであったものの、インターネット上での侮辱が社会問題となったことを受け、2022年7月から法定刑が引き上げられています。
脅迫罪
生命、身体、自由、名誉または財産に対して害を加える旨を告知して人を脅迫した場合は、脅迫罪に該当する可能性があります(同222条)。
脅迫罪の法定刑は、2年以下の懲役または30万円以下の罰金です。
パワハラで加害者を罪に問いたい場合の対応の流れ
パワハラの被害に遭い、加害者を罪に問いたい場合は、どのような流れでことを進めればよいのでしょうか?
ここでは、対応の流れの一例を紹介します。
- パワハラの証拠を残す
- 弁護士へ相談する
- 法的措置の内容を検討する
- 刑事告訴をする
パワハラの証拠を残す
加害者を罪に問うためには、パワハラの証拠が必要です。
そのため、はじめにパワハラの証拠を残してください。
必要な証拠はパワハラの態様などによって異なりますが、次のものなどが証拠となり得ます。
- パワハラに関連する音声の録音データ
- 防犯カメラの映像など問題の行為が記録された動画
- 関連するメールやチャットなどのやり取りの記録
- 会社に相談した記録
- 病院の診断書
- 被害者の日記やメモ
弁護士へ相談する
証拠を残すことと並行して、弁護士へ相談します。
弁護士へ相談することで、そのパワハラに対してとり得る法的措置などについてアドバイスを受けられ、対応の見通しが立てやすくなります。
また、その時点で不足している証拠の収集についても助言を受けられるでしょう。
法的措置の内容を検討する
弁護士からのアドバイスを踏まえて、法的措置の内容を検討します。
民事上の責任だけを追及するのか、刑事上の責任だけを追及するのか、これらの両方を追及するのかなどです。
多くの法的措置を講じれば、それだけ時間やコストがかかります。
そのため、各法的措置のゴール地点を理解したうえで、希望する手続きを慎重に選択してください。
刑事告訴をする
刑事上の責任を追及することが決まったら、告訴状を作成して刑事告訴を行います。
告訴には本来、形式の決まりはありません。
ただし、実際には警察に対して告訴状を提出する形で告訴をすることが一般的です。
パワハラ被害を弁護士に相談する主なメリット
パワハラの被害に遭っており、会社に相談しても適切な対処をしてもらえない場合には、弁護士へご相談ください。
最後に、パワハラについて弁護士に相談する主なメリットを3つ解説します。
具体的な状況に応じてとり得る法的措置のアドバイスが受けられる
1つ目は、具体的なパワハラの内容や状況に応じて、とり得る法的措置のアドバイスが受けられることです。
自身が受けているパワハラに対して法的措置がとれるのか否か、自身で答えを出すことは容易ではありません。
また、一人で悩んでいるうちに、より鬱々とした気分になってしまうこともあるでしょう。
弁護士へ相談することで、そのパワハラに対してとり得る法的措置についてアドバイスが受けられ、今後の見通しを立てやすくなります。
会社との交渉を代理してもらえる
2つ目は、相手方との交渉を代理してもらえることです。
パワハラ問題では、具体的な法的措置を講じる前に、その後の対応について会社と協議や交渉をすることがあります。
しかし、この交渉を自分でまとめることは容易ではないでしょう。
また、パワハラについて対応してくれなかった会社に対して、自身で再度交渉を挑むことに不安を感じることも多いと思います。
弁護士に依頼することで、会社や相手方との交渉を弁護士に任せることが可能となります。
刑事告訴や損害賠償請求を実現しやすくなる
3つ目は、刑事告訴や損害賠償請求を実現しやすくなることです。
自身で刑事告訴をしようにも、告訴状を受理してもらえないケースは少なくありません。
また、自分で相手方や会社に対して損害賠償請求をしても、真剣に取り合ってくれないこともあるでしょう。
弁護士が代理して刑事告訴や損害賠償請求をすることで、法的措置が実現しやすくなる効果を期待できます。
請求に応じなければ訴訟にまで発展する可能性が高いと相手方が考えることから、結果的に裁判外で解決できる可能性も高くなります。
実際に訴訟にまで発展したとしても、安心して対応を任せることが可能です。
まとめ
パワハラが何の罪に該当する可能性があるのか解説しました。
本文で解説したように「パワハラは〇〇罪になる」などと定めた法令はなく、パワハラの内容や態様から該当する罪を個々に検討することとなります。
どのような罪に該当し得るのか自身で判断することは容易ではないため、お困りの際は弁護士へご相談ください。
弁護士へ相談することで、そのパワハラに対してとり得る法的措置を判断でき、その後の対応の見通しを立てやすくなります。
Authense法律事務所ではパワハラ被害者からのご相談や加害者の刑事告訴などについて、多くの実績がございます。
パワハラの被害に遭ってお困りの場合や、自身が受けているパワハラが何の罪に該当するのか知りたい場合などには、Authense法律事務所までお気軽にご相談ください。
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