厚生労働省は、ホームページで「どんなハラスメントかチェック」を公表しています。
これを「パワハラチェックシート」と呼ぶことがあります。
このチェックシートには、どのような内容が記載されているのでしょうか?
また、そもそもパワハラはどのように定義されているのでしょうか?
今回は、厚生労働省のパワハラチェックシートについて、弁護士がくわしく解説します。
目次
<メディア関係者の方>取材等に関するお問い合わせはこちら
パワハラの定義
はじめに、パワハラの定義を確認しておきましょう。
パワハラについて事業主が講じるべき措置を定めている「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(通称「パワハラ防止法」)」で、パワハラは次のように定義されています。
- 「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害される」もの(パワハラ防止法30条の2)
この定義を構成するそれぞれの要素について、もう少しくわしく解説します。
「職場」とは
パワハラの定義上の「職場」とは、勤務先のオフィスや店舗など一般的に意味する「職場」のほか、労働者が業務を遂行する場所はすべてこれに該当し得ます。
たとえば、次の場所も「職場」に該当する可能性があります。
- 出張先
- 業務で使用する車中
- 取引先との打ち合わせの場所や接待の席
- 懇親の場
- 社員寮
そのため、社内ではなく移動中の車内でなされた言動であるからといって、パワハラに該当しないわけではありません。
「優越的な関係を背景とした言動」とは
「優越的な関係を背景とした言動」とは、その言動を受ける労働者が、行為者に対して抵抗や拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるものを指します。
代表例は、上司から部下に対する言動です。
ただし、同僚や部下かからの言動であったとしても、次の場合は「優越的な関係を背景とした言動」にあたる可能性があります。
- 同僚や部下による言動で、その行為者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、行為者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
- 同僚や部下からの集団による行為で、これに抵抗または拒絶することが困難であるもの
「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」とは
「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」とは、次の言動などを指します。
- 業務上明らかに必要性のない言動
- 業務の目的を大きく逸脱した言動
- 業務を遂行するための手段として不適当な言動
- 行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動
これにあたるか否かは、言動が行われた経緯や状況、業種、言動の目的や頻度などから総合的に判断されます。
「労働者の就業環境が害されるもの」とは
「労働者の就業環境が害されるもの」とは、その言動により、労働者が身体的または精神的に苦痛を与えられ就業環境が不快なものとなったために、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指します。
この判断にあたっては、「平均的な労働者の感じ方」が基準とされます。
厚生労働省によるパワハラの6類型
厚生労働省が運営するホームページである「あかるい職場応援団」によると、パワハラは6つの類型に分類されます。※1
ここでは、それぞれの概要について解説します。
- 身体的な攻撃
- 精神的な攻撃
- 人間関係からの切り離し
- 過大な要求
- 過小な要求
- 個の侵害
身体的な攻撃
身体的な攻撃とは、殴る・蹴るなど、体に危害を加えるタイプのパワハラです。
相手に対して物を投げつけて威嚇する行為もこれに該当します。
精神的な攻撃
精神的な攻撃とは、脅迫や名誉毀損、侮辱、ひどい暴言など精神的な攻撃を加えるタイプのパワハラです。
相手の性的指向や性自認に関する侮辱的な言動も、これに該当します。
人間関係からの切り離し
人間関係からの切り離しとは、隔離や仲間外れ、無視など個人を疎外するタイプのパワハラです。
特定の労働者を仕事から外したり、別室へ隔離したりする行為がこれに該当します。
過大な要求
過大な要求とは、業務上明らかに不要なことや遂行不可能な業務を押し付けるタイプのパワハラです。
新卒で入社したばかりであるにもかかわらず、必要な教育がないまま到底対応しきれないレベルの業績目標を課され、達成できなかったことに対して厳しく叱責される場合などがこれに該当します。
過小な要求
過小な要求とは、業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じたり、仕事を与えなかったりするタイプのパワハラです。
管理職であるにも関わらず、誰にでも遂行可能な業務を命じられる場合などがこれに該当します。
個の侵害
個の侵害とは、私的なことに過度に立ち入るタイプのパワハラです。
職場外で労働者を継続的に監視することや個人の私物を写真で撮影すること、上司との面談等で話した機微な個人情報(性的指向、病歴、不妊治療など)を本人の了解を得ずに、他の労働者に暴露することなどがこれに該当します。
厚生労働省のパワハラチェックシートの概要
厚生労働省が運営する「あかるい職場応援団」では、パワハラチェックシートである「どんなハラスメントかチェック」が公表されています。※2
これは、「足で蹴られたり、殴られたりしたことがある」など複数の項目の中から実際に起きている事態について項目にチェックを入れていくことで、該当する可能性のあるハラスメントの種類が自動的に表示される自己診断シートです。
無料であるうえ、氏名やメールアドレスなどの個人情報を入力することなく気軽に活用できます。
そのため、「ハラスメントかな?」と悩んだら、まずは厚生労働省のチェックシートを試してみるとよいでしょう。
ただし、あくまでも簡易的な自己診断用のシートであるため、パワハラについて実際に法的措置を講じようとする際は改めて弁護士へご相談ください。
パワハラチェックシートには、立場に応じて次の3つが設けられています。
- 「ハラスメントで悩んでいる方」用チェックシート
- 「ハラスメントって言われた!管理職の方」用チェックシート
- 「社内でハラスメント発生!人事担当の方」用チェックシート
それぞれの概要は、次のとおりです。
「ハラスメントで悩んでいる方」用チェックシート
「ハラスメントで悩んでいる方」用チェックシートは、パワハラを受けている方のためのチェックシートです。
次の各設問について該当する項目にチェックを入れることで、受けている行為が該当する可能性のあるハラスメントの種類が表示されます。
- 設問1:どんな嫌がらせを受けていますか?
- 設問2:過去に受けた嫌がらせは?
- 設問3:毎日、恐れていることは?
- 設問4:ミスをしたとき、こんな仕打ちを受けたことは?
- 設問5:日常化している、嫌な行為は?
- 設問6:こんなことを言われたことはありますか?
診断結果とともに、ハラスメントに関する「相談窓口のご案内」が表示されます。
これをクリックすると、ハラスメントに関す公的な相談窓口が一覧で表示されます。
「ハラスメントって言われた!管理職の方」用チェックシート
「ハラスメントって言われた!管理職の方」用チェックシートは、自身の行為がパワハラにあたるか不安に感じている者のためのチェックシートです。
次の各設問について該当する項目にチェックを入れることで、自身の行為が該当する可能性のあるハラスメントの種類が表示されます。
- 設問1:こんな嫌がらせをしていませんか?
- 設問2:過去に、受けた嫌がらせをしていませんか?(オーセンス様へ:文章おかしい気がしますが、もとの記載がこうなっております)
- 設問3:毎日の、日課になっていませんか?
- 設問4:部下がミスをしたとき、こんな対応をしませんでしたか?
- 設問5:無意識のうちに、こんな行為をしていませんか?
- 設問6:こんなことを言ったことはありませんか?
「社内でハラスメント発生!人事担当の方」用チェックシート
「社内でハラスメント発生!人事担当の方」用チェックシートは、自社で起きている行為がハラスメントに該当するか確認したい人事担当者のためのチェックシートです。
次の各設問について該当する項目にチェックを入れることで、社内で起きている事案が該当する可能性のあるハラスメントの種類が表示されます。
- 設問1:社内に、こんな嫌がらせはないですか?
- 設問2:過去にあった嫌がらせはどれ?
- 設問3:社内で、こんな噂を聞きませんか?
- 設問4:部下がミスをしたとき、こんな対応をした上司はいませんか?
- 設問5:知らないうちに、社内で普通に行われていませんか?
- 設問6:社内で、こんなことを普通に言われていませんか?
「ハラスメントで悩んでいる方」用チェックシートから見るパワハラの例
先ほど紹介した厚生労働省のパワハラチェックシートの項目を確認することで、ハラスメントに該当し得る行為が理解しやすくなります。
これによると、たとえば次の行為などがパワハラにあたる可能性があります。
- 足で蹴られたり、殴られたりした
- 上司から同僚の前で、無能扱いする言葉を受けた
- 他の社員との接触や協力依頼を禁じられた
- 終業間際に過大な仕事を毎回押し付けられる
- 営業職なのに、倉庫整理などを必要以上に強要される
- 休みの理由を根掘り葉掘りしつこく聞かれる
- 皆の前で、些細なミスを大声で叱責された
- 陰口を言われ、悪い噂を流された
- 一人ではできない量の仕事を押し付けられた
- 与えられる仕事の件数が他の社員よりも著しく少なかった
- 不在時に机の上や鞄の中を勝手に物色された
- 物を投げつけられて、身体に当たった
- 先輩・上司に挨拶しても無視され、会話してくれない
- 上司から誤った指示があったのに、始末書を書かされる
- 与えられる仕事は、掃除や草むしりだけ
- GPS付きの携帯電話で行動を監視される
- 襟首・腕をつかまれ、説教される
- 「会社に何しに来てるの?帰れ」と言われる
- 達成不可能なノルマを与えられる
- 家族や恋人のことをしつこく聞かれる
- 髪を引っ張られる
- 毎日「ブス」「ハゲ」と呼ばれる
- 一人だけ仲間はずれにされる
- 連日、徹夜仕事を強要される
- お酒のお酌や隣の席に座ることを強要される
- 職場で上司に性的な事を話題にしてからかわれたことがある
- 上司に「どうして結婚しないのか」としつこく聞かれた
職場でこのような行為を受けてお困りの際や、自身が受けている行為がパワハラにあたるかわからずお悩みの際には、弁護士へご相談ください。
パワハラの被害について弁護士へ相談するメリット
職場でパワハラの被害に受けたら、一人で悩まず弁護士へご相談ください。
最後に、パワハラについて弁護士に相談する主なメリットを3つ解説します。
状況に応じて適切な法的措置のアドバイスが受けられる
パワハラの被害を受けた場合、その内容や態様によっては法的措置を講じることができます。
パワハラに対して想定できる主な法的措置には次のものがあります。
- 相手や会社に対して損害賠償請求を行う
- 侮辱罪や名誉毀損罪、暴行罪、脅迫罪などの罪で相手を刑事告訴する
とはいえ、とり得る法的措置の内容や損害賠償として請求できる金額は事案ごとに異なっており、一概にいえるものではありません。
弁護士へ相談することで、具体的な状況に応じてとり得る法的措置の内容を知ることができます。
会社との交渉を代理してもらえる
パワハラについて会社に対応や損害賠償の支払いを求めようにも、会社がこれに応じない場合もあるでしょう。
その場合は、弁護士に依頼することで、弁護士に代理で交渉してもらうことが可能となります。
法的手続きを代理してもらえる
パワハラに対して慰謝料請求などの法的措置をとれる可能性が高い場合でも、自分で法的措置をとるハードルは低くありません。
弁護士へ依頼することで、損害賠償請求や刑事告訴など具体的な法的措置を代理してもらうことが可能となります。
まとめ
パワハラの定義を確認するとともに、厚生労働省が公開している「パワハラチェックシート(どんなハラスメントかチェック)」を紹介しました。
自身が職場で受けている行為がパワハラかどうか悩んだら、まずはこのチェックシートを活用するとよいでしょう。
そのうえで、パワハラに該当する可能性がある場合は、早期に弁護士へご相談ください。
弁護士へ相談することで、その事案に応じてとり得る具体的な法的措置を知ることが可能となります。
Authense法律事務所では、パワハラの被害に遭っている方のサポートに力を入れており、多くの解決実績があります。
厚生労働省のパワハラチェックシートを使った結果、パワハラの被害に遭っていることがわかったら、Authense法律事務所までお気軽にご相談ください。
初回相談60分無料※ ※ ご相談の内容によっては、有料となる場合もございます
-
電話でご相談予約
-
メールでご相談予約
平日:10:00~最終受付18:00 /
土日祝:10:00~最終受付17:00