コラム
公開 2024.06.11

パワハラとモラハラの違いは?被害に遭った際の対処法を弁護士がわかりやすく解説

昨今、さまざまなハラスメントが社会問題となっています。
しかし、ハラスメントはまだ至るところで行われており、パワハラやモラハラの被害に遭っている人も少なくありません。

では、パワハラとモラハラの違いは、どのような点にあるのでしょうか?
また、パワハラやモラハラの被害に遭ったら、どのように対処すればよいのでしょうか?

今回は、パワハラとモラハラの違いや被害に遭った際の対処法などについて、弁護士がくわしく解説します。

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
第二東京弁護士会所属。同志社大学法学部法律学科卒業、東洋大学法科大学院修了。これまで数百件を担当してきた建物明渡請求の分野を主軸に、離婚などの家事事件についても豊富な解決実績を有する。刑事事件も積極的に取り扱っており、訴訟対応も得意としているほか、企業不祥事や従業員による犯罪行為など、企業が関わる刑事事件への対応にも強い意欲を持つ。
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パワハラとは

パワハラとは、「パワーハラスメント」の略称です。
パワハラは、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(通称「パワハラ防止法」)」で、次のように定義されています。

「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害される」もの(パワハラ防止法30条の21項)

定義の中のそれぞれの要素は、次のように考えられます。※1

「優越的な関係を背景とした言動」とは

「優越的な関係を背景とした言動」とは、業務を遂行するにあたって、その言動を受ける労働者が行為者に対して抵抗や拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるものを指します。
この典型的な例は、上司から部下に対する言動です。
ただし、次の場合であっても「優越的な関係を背景とした言動」に該当する可能性があります。

  • 同僚や部下による言動で、その言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、その者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
  • 同僚や部下からの集団による行為で、これに抵抗または拒絶することが困難であるもの

「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」とは

「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」とは、社会通念に照らし、その言動が明らかに業務上必要性のないものや、態様が相当でないものを指します。
たとえば、次のものなどがこれに該当します。

  1. 業務上明らかに必要性のない言動
  2. 業務の目的を大きく逸脱した言動
  3. 業務を遂行するための手段として不適当な言動
  4. 当該行為の回数、行為者の数など、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える言動

これに該当するか否かは、次の要素などを総合的に考慮したうえで判断するのが相当とされています。

  • その言動の目的
  • その言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度など、その言動が行われた経緯や状況
  • 業種・業態
  • 業務の内容・性質
  • その言動の態様・頻度・継続性
  • 労働者の属性(経験年数や年齢、障害がある、外国人であるなど)
  • 労働者の心身の状況(疾患の有無など)
  • 行為者との関係性

なお、労働者に問題行動があったからといって、必ずしもパワハラに該当しないわけではありません。
たとえ労働者の問題行動に起因したものであっても、人格を否定するような言動など業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動がなされれば、パワハラに該当し得ます。

「労働者の就業環境が害される」とは

「労働者の就業環境が害される」とは、その言動によって労働者が身体的または精神的に苦痛を与えられて就業環境が不快なものとなったために、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、その労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指します。

この判断にあたっては、「平均的な労働者の感じ方」を基準とすることが適当とされています。
つまり、同様の状況でその言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかが基準になるということです。

モラハラとは

モラハラは、「モラルハラスメント」の略称です。
モラハラについては、法律上の定義はありません。
一般的には、倫理や道徳に反した嫌がらせを「モラハラ」といいます。

なお、働く人のメンタルヘルスをサポートしている「こころの耳」では、モラハラを「言葉や態度、身振りや文書などによって、働く人間の人格や尊厳を傷つけたり、肉体的、精神的に傷を負わせて、その人間が職場を辞めざるを得ない状況に追い込んだり、職場の雰囲気を悪くさせること」と定義しています。※2
「こころの耳」は「働く人」を対象としているため職場であることを前提として定義されていますが、モラハラは家庭内なども起こり得るものです。

パワハラとモラハラの主な違い

素材_悩んでいる人
パワハラとモラハラは重なる部分もある一方で、異なる部分もあります。
ここでは、パワハラとモラハラの主な違いについて解説します。

モラハラには法律上の定義はない

先ほど解説したように、パワハラはパワハラ防止法で定義されています。

一方で、モラハラには、法令に明確な定義はありません。
そのため、使う場面や人によって、「モラハラ」の指す意味合いが多少異なる可能性があります。

パワハラは原則として職場だけ、モラハラは場所を問わない

パワハラは、原則として職場内で起きるものです。
なぜなら、先ほど紹介したように、パワハラの定義に「職場」が含まれているためです。

一方で、モラハラは発生場所を問いません。
そのため、職場で起きる可能性があるほか、家庭内などさまざまな場所で起きる可能性があります。

パワハラは暴力もあり得るが、モラハラは暴力を含まないことが多い

パワハラは、暴言や過大な要求などのほか、身体的な暴力をも含む概念です。
一方で、一般的にモラハラは言葉や態度でのハラスメントを指し、暴力は含まないことが多いでしょう。
特に、家庭内で起きる暴力行為は「モラハラ」ではなく、「DV(ドメスティック・バイオレンス)」と呼ばれることが一般的です。

モラハラは優越的地位を前提としない

パワハラは、行為者が優先的地位にあることを前提としています。

一方で、モラハラは必ずしも優先的地位にある者からなされるとは限りません。
たとえば同僚間や夫婦間のように、対等な間柄であっても起こり得るものです。

パワハラやモラハラが起きやすい職場環境

ここからは、職場でのパワハラやモラハラに絞って解説を進めます。

人が集まる職場では、人間関係のトラブルを完全に避けることは困難でしょう。
しかし、パワハラやモラハラが繰り返される職場には、一定の傾向があることが少なくありません。

ここでは、パワハラやモラハラが起きやすい職場環境の例を紹介します。

ノルマが厳しい、業務量が多いなど各従業員に余裕がない

各従業員に余裕がない状態が継続している職場では、パワハラやモラハラが起きる可能性があります。

たとえば、ノルマが厳しい場合や、慢性的に業務量が多い場合などです。
このような職場環境では他者を思いやる気持ちや時間の余裕が生まれにくく、パワハラやモラハラが起きやすくなります。

失敗への許容度が低い

失敗への許容度が低い職場では、パワハラやモラハラが起きる可能性があります。
失敗が許されない環境では常に張り詰めた空気となりやすく、精神的なストレスが大きくなりやすいためです。

また、部下が失敗した場合に連帯責任を取らされる事態を避けたいとの思いから、度を越えた叱責などが起きやすくなります。

上下関係が厳しい

上下関係が厳しい職場では、パワハラやモラハラが起きる可能性があります。

上下関係が厳しい場合、部下や後輩は否応なく上司や先輩に従うべきとの風潮が強くなります。
その結果、パワハラやモラハラが起きやすくなるおそれがあります。

社内の風通しが悪い

社内の風通しが悪い職場では、パワハラやモラハラが繰り返されやすくなります。
たとえ一部の従業員がパワハラやモラハラを行っても、風通しのよい職場であれば社内の相談窓口などに相談しやすく、その結果対策が取られることが多いでしょう。

一方、パワハラやモラハラの被害を受けても社内の窓口に相談しづらい場合や、相談をしても改善されない場合には、パワハラやモラハラが繰り返されやすくなります。

パワハラやモラハラへの2つの法的措置

素材_法律
パワハラやモラハラの被害に遭った場合には、法的措置をとれる可能性があります。
ここでは、2つの法的措置を紹介します。

なお、法的措置をとろうとする際は自分一人で動くのではなく、あらかじめ労働法務に強い弁護士に相談することをおすすめします。

労働局に相談する

1つ目は、都道府県労働局(総合労働相談コーナー)に相談する方法です。

パワハラ防止法により、会社はパワハラを防止したり相談窓口を設置したりする責務を負っています(パワハラ防止法30条の2)。
また、労働契約法でも、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする」旨が定められています(労働契約法5条)。

このような規定があるにもかかわらず、会社がパワハラに対して適切に対処しない場合は、都道府県労働局への相談が選択肢の一つとなります。

都道府県労働局は、厚生労働省の地方機関です。
都道府県労働局に相談することで解決方法の助言が受けられるほか、会社に法令違反がある場合は会社への助言や指導がなされることもあります。

ただし、労働局はあくまでも会社が法令遵守をするために監督や指導を行う立場であり、パワハラやモラハラについて会社に法令違反がない場合には対応してもらうことは困難です。

相手や会社に損害賠償請求をする

2つ目は、パワハラなどの加害者や改善対応をしなかった会社に対して、損害賠償請求をする方法です。

パワハラなどによって精神疾患を発症した際や、暴力を伴うパワハラによって怪我をした場合などには、相手方や会社に対して損害賠償請求ができる可能性があります。

損害賠償請求の可否や適正額は具体的な事案によって異なるため、損害賠償請求をご検討の際はあらかじめ弁護士へご相談ください。

職場でパワハラやモラハラの被害に遭った場合の対処法

職場でパワハラやモラハラの被害に遭った場合、そのまま我慢することはおすすめできません。
なぜなら、我慢をしたからといってパワハラやモラハラが収まる可能性は低いうえ、エスカレートするおそれもあるためです。

最後に、職場でパワハラやモラハラの被害に遭った場合の対処法について順を追って解説します。

パワハラやモラハラの記録を残す

パワハラやモラハラの被害に遭ったら、まずはその記録を残しましょう。
記録を残す方法としては、次のものなどが挙げられます。

  • 録音データ
  • 相手方から送られたメールやLINE
  • 相手方の言動を記録した日記やメモ
  • 病院を受診した場合は診断書

記録が残っていなければ相手方に法的措置をとることが困難であるうえ、会社に対応を求めることも難しくなるおそれがあります。
そのため、まずはパワハラやモラハラがあったことがわかる証拠を残してください。

上司や社内の窓口に相談する

次に、社内に設置された「パワハラ相談窓口」や上司に対して被害に遭っている事実を伝え、相談します。
会社がパワハラなどの事実に疑いを持っている場合は、証拠を一部提示することも検討してください。

会社がパワハラやモラハラを問題視していれば、会社が加害者を指導したり配置転換をしたりするなど、再発防止策を講じてくれる可能性が高いでしょう。

弁護士へ相談する

会社へ相談しても何ら対処がされない場合や、パワハラなどについて相談したことで被害者側が閑職への異動など不利益な取り扱いを受けた場合、そもそも相談に応じてもらえない場合などには、できるだけ早期に弁護士へご相談ください。

弁護士へ相談することで、状況に応じた具体的な対処方法のアドバイスが受けられます。
また、弁護士へ依頼する場合、相手方との交渉や損害賠償請求などの法的措置についても任せることが可能です。

まとめ

パワハラとモラハラの違いや、パワハラなどを受けた場合の対処法などについて解説しました。

パワハラには法律による定義があり、職場における優先的な地位をベースとして起こるものです。
一方、モラハラには法律による定義はなく、職場のほか家庭内などで起きるものも対象となります。
また、モラハラには暴力は含まれないことが多く、必ずしも優先的な地位であることを前提としません。

職場でパワハラやモラハラの被害に遭ったら、言動の証拠を残したうえで上司や相談窓口へ相談するとよいでしょう。
それでも改善されない場合や、相談したことによって不利益な取り扱いをされた場合などには、弁護士へご相談ください。

Authense法律事務所では、パワハラやモラハラ被害者のサポートに力を入れています。
職場でパワハラやモラハラの被害に遭ってお困りの際や、会社や相手方に損害賠償請求をしたい際などには、Authense法律事務所までご相談ください。
状況に応じて、適切な対応方法をアドバイス致します。

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