リーガルエッセイ
公開 2021.05.24 更新 2021.08.13

離婚にあたり、住んでいた家やマンションはどうすべき? ドラマ「リコカツ」第6話

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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リコカツ第6話を見て~一緒に住んでいたマンションをどうする?~

第6話を見た知人から、「今回は泣けたね~」と連絡がありましたが、「え?なんで?」という違和感が残ってしまったのは私だけだったのでしょうか?
さきさんは、離婚すると思ったら気を遣わなくなったようで、緒原さんに、冗談めかして緒原さんのダサさを指摘し、それをおもしろおかしく受け止める緒原さんにもなんだか余裕があり、二人ともとてもいい雰囲気。
お互い、両親が離婚したことによる思いも共有し、癒しあう。
最後の場面で、お互い、離婚したい理由を挙げていくのだけど、結果5個しかあがらないし、あがった理由も取るに足らないものばかり。
離婚の理由が全然思いつかないということもお互いわかったはず。
そして、緒原さんも、さきさんがこだわりをもったインテリアに敬意を示したり、自分は感情を言語化するのに時間がかかり、なかなか素直に気持ちを表現できないことを涙ながらに伝え、それをさきさんも泣きながら受け止めたのに、なぜか、さきさんは、「もう遅い」と言い、緒原さんもそのまま家を出て離婚届を提出する。
私の頭では、「よし、離婚やめよう!」の一言で解決と思える状況なのに、いったい何が遅いのか?なぜこの状況で離婚を選択しようという発想が出てくるのか、どうしても理解できませんでした。
ドラマの展開がちょっと不自然?と思ってしまったのですが、恋愛の達人を自称する知人が「泣けた」と言っているところをみると、不自然などということはないのかも。
私は、プライベートにおける男女の機微という分野が絶望的に苦手なので、そんな私の理解を超える男女の世界があるのかもしれず、いまだにこうして恋愛ドラマを見ては、ドラマで繰り広げられている彼らの行動の意味が読み取れず一日中頭を悩ませてしまう自分の未熟さが嫌になります。

そんなわけで、今回は、私生活上の悩みも相まって、「恋愛ってもんはよくわからん」と思いながらただただ悩みながらの視聴となってしまったのですが、一瞬だけ弁護士としての頭が働いた場面がありました。
それは、緒原さんが、ようやく取り付けたカーテンによって完成した新居をうれしそうに見るさきさんを見て、「家を売るのをやめよう」と言った場面。
緒原さんは、自分は離婚して家に住み続けられないものの、家が人の手に渡ってなくなってしまうのは寂しいから、さきさんに住み続けてほしいと言い出すのです。
「自分もローンを払い続けるから」とも言います。
ドラマでは、さらっと書かれていましたが、実は、この「夫婦がこれまで一緒に住んでいた家を離婚にあたってどうするか」問題は、とても大きな問題で、よくこの点をめぐって紛争が長引くことがあります。
結婚して少し経つと、家族で住む家を買うことがありますよね。
その際、一括で買うのでなく、住宅ローンを組むことは多いと思います。
お互い仕事をしているか、収入がどの程度あるかによっても、購入のしかたは違ってきますが、たとえば、夫名義でマンションを購入し、夫が債務者となって住宅ローンを返済する契約を締結したと仮定して考えていきたいと思います。

離婚にあたり、このマンションをどうするか?
選択肢として、売ってしまうことと残すことが考えられます。
そして、マンションを売らずに残すとした場合は、どちらがマンションに住み続けるのかが問題になります。
緒原さんたちが当初しようとしていたように、離婚に際して、家族で住んでいたマンションを売ってしまうという場合は、比較的話はシンプル。
残ローンの額よりも売ったことで得られる額の方が大きい場合を想定して考えると、その場合は、マンションを売って得られた金額から残ローンの額と売却にあたって必要になった諸費用(たとえば不動産業者に払う費用や登記に必要となった費用など)を引いた金額を夫婦で半分ずつ分けるのが通常です(夫婦の間にマンション以外の財産がないという前提)。
もちろん、夫婦で話し合って、合意することができれば、必ず半分にわけなければいけないわけではなく、一方がすべてを取得してもいいし、たとえば3:7の割合で取得してもいい。
この、離婚に際して夫婦の財産をわける話は、財産分与というものなのですが、原則として、半分ずつわけるというのが実務です。

では、マンションを売らずに残すことにし、夫がそのまま住み続け、住宅ローンも払い続ける場合はマンションの財産分与はどうなるか?
夫が、そのマンションの評価額から残ローンの額を引いた金額の半分を妻にお金などで払うという形で財産分与を行うことになるでしょう。

逆に、離婚後、夫名義のマンションに、妻が住み続ける場合はどうでしょう?
この場合は、いろいろ考えなければいけないことがあります。
まず、マンションの名義を妻に移すことを考えると思います。
ただ、住宅ローンの契約をした銀行に相談もなく勝手に名義を移してしまうと、もともとの契約に違反してしまう可能性があり、住宅ローンの一括返済を求められることになるリスクがあります。
とすれば、住宅ローンの債務者も妻にすればいいのでは?
しかし、債務者を変更するには、審査があり、一定の収入がないと難しいといえます。

名義や住宅ローンの債務者を妻に変えるということなく妻が住み続ける方法は?
たとえば、夫婦の間に子どもがいて、離婚に伴って妻が子どもの親権者になるという場合、妻が、子どもが高校を卒業するまでの数年間だけ今のマンションに子どもと住み続けたいと希望する場合もあります。
そんなときは、離婚の際、今後、〇年間は、妻と子どもがこのままマンションに住むことを認める、などという約束を交わすというのも選択肢。
話し合いによって、その間、妻が夫に住宅ローン相当額の金額を賃料として払うという約束をすることもあれば、その間は妻と子どもが無償で住むことを認めるという約束をすることもあります。

家の問題は、実はもっと複雑で、たとえば、購入にあたって、どちらかの親が頭金の一部を払ってくれていたら、財産分与にどう影響するか、という問題があったり、残ローン額のほうが家の評価額より大きい場合は、マイナス分を夫婦間で分担できるのか、という問題があったりします。
また、家の評価額についても争われることが多く、家に住み続ける代わりに相手にその分のお金を払う側からしたら評価額は低く見積もりたいでしょうし、逆に、家を出て、代わりにお金をもらう側からしたら評価額はできる限り高く見積もって多くのお金を払ってもらいたいと思いますよね。

ドラマの中で、緒原さんが「ローンは自分も払い続けるから」というような発言をされていたことからすると、ペアローンの契約となっているのかもしれませんね。
さきさんは、これまでどおり、自分が債務者となっている金額を払う。
そして、緒原さんも、自分はマンションから出ていくにもかかわらず、自分が債務者となっている金額を払う。
名義はどうするのかわかりませんが、共有名義になっているとしたら、そのままの状態を維持するのかもしれません。
私は緒原さんの大ファンですから、この人は間違いなく誠実なかたで、間違いなく一度約束したことを最後まで守ってくれるかただと信じているので、今後、言ったとおりに住宅ローンを払ってくれるのだろうなと思いますし、ご自身の持ち分もさきさんに譲渡するつもりなのだろうと思います。
ただ、一般論で考えると、やはり、安易に、相手が約束を必ず守ってくれるはずと信じたり、期待したりしてしまうと思い通りにならないこともあると思います。
今後、相手の状況だって変わります。
新しい家庭を築くかもしれないし、収入が激減するかもしれない。
そんなときに、相手が払うと約束していた分の支払いがストップしてしまったらどうなるか?
ペアローンの場合、お互いの債務分について相互に連帯保証人になっているでしょうから、相手が払わなくなった分について連帯保証人としての負担がのしかかり、結局二人分の負担が一方にのしかかることになるのです。
ですから、離婚を考えているかたで、購入した自宅があるという場合は、その自宅を売るのか、売らずにどちらかが住むのか、ローンの支払いをどうするかについて、パートナーとの間で特に争いがなくても、一度弁護士に相談し、将来にわたり、リスクを負うことのない約束になっているか、確認するのが安全です。

第6話は、緒原さんが、離婚届を出し終わったとさきさんに告げ、さきさんが泣き崩れる場面で終わりました。
離婚協議書を作った形跡がないけど大丈夫だろうか?
そもそも、これで離婚成立してしまったら、離婚準備のための活動というリコカツはすでに終わったことになるけど、タイトルとドラマの内容とが今後整合しなくなってしまうのでは?
などといちいち気になってしまうのですが、なるべくそういう細かいことを考えずに第7話を見て、また更新します!

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