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リコカツ第5話を見て~夫婦は同居しなければいけない?~
「夫婦は同居し、互いに協力し扶助(ふじょ)しなければならない」
これは、「至誠に悖る(もとる)なかりしか」から始まるあの緒原家家訓ではありません。
今なお生きている民法の条文です。
民法は、夫婦は同居し、互いに協力して助け合わなければいけないということを夫婦の基本的義務として定めているのです。
いやいや、当たり前でしょう、法律で定めるまでもないでしょうと思うかたもいるかもしれません。
でも、夫婦のあり方が多様化する現代社会で、法律が、夫婦は同居すべしと定めているということに違和感を感じるかたも多いのではないかなと思うのです。
第5話は、恋愛ドラマ的要素は少なく、夫婦が直面することが多い問題に切り込んでいて、他人事とは思えないという気持ちで見たかたもいるのではないでしょうか?
今回は、夫婦の同居問題を取り上げてみたいと思います。
二人が夫婦関係をやり直そうと思ったところに同居問題が勃発します。
現在はさきさんの職場から近い都内に住んでいる二人。
でも、その自宅から緒原さんの勤務地に行くには、車で1時間半くらいかかり、任務への影響も懸念されることから、勤務地に近い場所に引っ越すか、今の自宅に近い勤務地に異動するかという選択を迫られることになったのです。
緒原さんの勤務地に近い場所というのは、さきさんの職場からは遠くなり、特に新しい仕事が始まったさきさんにとっては通勤可能な場所とはいえない。
そんな状況で、緒原さんが、さきさんに、仕事を辞めて、今の緒原さんの勤務地に近い場所に一緒に引っ越してくれないかと伝えます。
さきさんの答えはノー。
お互い、自分にとって仕事は大事。だから、それを捨てて相手の都合に合わせることなんてできないようです。
そんなお互いの気持ちが分かったとき、緒原さんは、離婚しかないと言います。
さきさんが、離れて暮らしながら夫婦としてやっていくこともできるんじゃないかと言うと、緒原さんは、「同居していないなんて夫婦とはいえない」と言うのです。
ここで、まず、緒原さんの価値観はいったん置いておくとして、冒頭に挙げた民法の条文について考えてみたいと思います。
法律で、夫婦の同居が基本的な義務として定められているのだとしたら、さきさんの提案は夫婦の同居義務に違反する内容です。
でも、周りを見てみても、いろいろな事情で夫婦が離れて住むことってありますよね。
家を買ったのに、通勤できない場所に異動することになって、仕方なく夫だけが単身赴任するとか、親の介護のため、親と同居することが必要になったものの、学校に通う子どもの意思もあり、家族で引っ越すことはできないから、親の介護をする一方だけが家族と離れて住むとか。
これらの場合は、夫婦が話し合って、そのように生活することを選択したといえるでしょうから、現実的に、どちらかが「同居義務違反だ!」と言い出すことは想定されず、問題は生じないものと思います。
では、夫婦の一方だけが離れて住むことを望み、家を出て行ってしまったら、残されたパートナーは、相手と再び同居するために何かできることがあるのか?
いくら戻ってきてほしいと訴えかけても戻ってきてくれないという場合、残されたパートナーは、出て行った相手に対し、同居を求める調停を申し立てて、裁判所で話し合いをするという方法をとることが考えられます。
でも、実際、話し合いの場が裁判所になったところで、相手の気が変わることはあまり期待できないですよね。相手との間で同居の合意ができないときは、裁判所が審判という形で判断することになります。
では、裁判所は、夫婦に同居義務がある以上、どんなケースでも同居しなさいという判断をするのか?というとそうではありません。
過去の例を見ると、裁判所は、夫婦である以上、同居義務は負っているが、だからといって、結婚している以上同居を拒めないというのは相当ではないとしています。
そして、裁判所は、「同居義務というのは、そもそも、夫婦として共同生活を維持するためのものなのだから、共同生活を営む夫婦の間の愛情とか信頼関係を失われた結果、仮に裁判所が同居を命じて同居生活が再開しても、夫婦はお互いの人格を傷つけてしまうだろう」などとして、そういうケースでは、同居を命じることは相当でないと説明しました。
裁判所は、そのような、同居を命じることが不相当なケースでは、仮に同居義務があったとしても、裁判所が審判で同居の時期や場所や態様などを決めて言い渡すべきではないという考えを示しました。
つまり、こういう形で同居せよ、と言い渡すかどうか決めるために、まずは、この二人について詳細な事実関係を見て、この二人は夫婦として今後信頼関係を築いてやっていけそうか?それとも互いに傷つけあったりしてしまいそうか?などというかなり夫婦の関係に踏み込んだ検討をして結論を出すのです。
ドラマではこんな展開にはなりませんが、仮に、緒原さんが、今の勤務地に近い場所への引っ越しを強行し、これについてこなかったさきさんに、同居せよという調停を申し立てたらどうでしょう?
結論として、裁判所は、さきさんが、緒原さんの引っ越し先で同居せよ、などという審判は出せないのだろうと思います。
その同居場所というのは、緒原さんが一方的に、自分の都合で設定した場所。
二人で合意した同居場所から、勝手にさきさんが出て行ったというものではありませんし、裁判所としても、都内で仕事をしているさきさんの気持ちを無視して、通勤圏とはいえないような場所での同居を命じるなどということはできないはず。
では、それ以外の第三の場所を裁判所が見つけ出し、その場所での同居を命じるということはあり得るか?
まさに、仕事を大事にしたい二人が、お互いの住みたいという場所からだと自身の職場通勤に支障が出るという、同居場所を巡って離婚話まで出ているというケースなのに、裁判所がそう簡単に第三の場所を決めてそこでの同居を命じるというのも難しいだろうなと思います。
結局、緒原さんがそのような調停を申し立てたとして、調停や審判の手続きを通じて同居が実現するということはないでしょう。
第5話を見ていて、法律そのものとはちょっと離れた部分で気になったことがありました。
まず、二人が、お互いが仕事を続けるためには、一方が仕事を辞めてもう一方についていくか、または、別居するかという2つの選択肢しかないという前提で争っている点。
もちろん、ドラマの設定なんだから、そんなことあれこれ言っても…と思うかもしれませんが、実は、離婚のご相談を受けていると、「なぜその二択しかないという前提で二人は争っているのかな」と思える場面がしばしばあるのです。
自分がこうしたい、という意向があって、相手がそれと違う意向を示してきたとき、その解決にあたって、自分の意見を聞いてくれるか、相手の言いなりになるか、という二つに一つという見方になってしまい、視野が狭くなってしまうことってあるように思います。
でも、ちょっと冷静になったり、第三者の意見を聞いてみたりすると、実は、二択ではなくて、ほかにもとり得る選択肢があるのかもしれないのです。
たとえば、ドラマの例でいうと、お互いの職場の中間地点に住むという選択肢はないのか?さきさんの仕事については、必ずしも会社に通勤せずに在宅でこなせる仕事もあるかもしれないから、必ずしも職場の近くに住むことにこだわらなくていいかもしれず、まずは会社に相談してみるのはどうか(これを実現するためには、いちいち電話で呼び出すあの作家に詰め寄り改心させる必要がありますね)?緒原さんについても、今の職場に勤務することが前提で話が進んでいたものの、異動することはできないのか?
さらに、話し合いの仕方として気になるところとして、二人が、夫婦というものは同居すべきなのか、同居にこだわる必要がないのか、というところについて意見が対立したとき、お互い、その結論だけを言い放って、「私たち、全く考え方が違うから離婚」と結論づけてしまっている点。
これも、相談を受ける中でよく聞くところです。
こういうとき、それぞれの最後の結論だけを取り上げるのでなく、「どうしてそう思うの?」と言うところを掘り下げて話してみたら、お互いの考えへの理解が深まることもあるかもしれないし、それを踏まえた解決法を見いだせるかもしれません。
たとえば、なぜ、同居していないと夫婦とはいえない、と考えるか、そのように緒原さんが考える理由が、「うちの両親がそうだったから当然そう思っていた」だとしたら、世の中には、いろいろな事情があって、一定の時期、同居していなくても協力しあって愛情を深めている夫婦がいる実例を探して教えてあげるとか。
その上で、金曜日の夜から月曜日の朝まではどちらかの家で過ごしたり、時々金曜日や月曜日に休みをとって、一緒に過ごせる時間を増やしたりしてみようと提案してみるとか、離れて過ごす日も、朝と夜はオンラインでゆっくりその日にあったことを話す時間を作ってみないかと提案してみるとか。
実際どんなものなのか体感するために、お試しで1か月間やってみないかと提案してみるとか。
お互いの思いを実現するために、どんな案があるかを二人で前向きに考えられる過程って、きっとクリエイティブで楽しい時間になるのではないかとも思いますし、それによって直ちに離婚するのでなく、もう一度関係を再構築しようという考えになることもあるので、大した経験もない立場で、ご相談者のかたに、そんな話をすることもあります。
このドラマ、離婚に至る過程にどんな問題がひそんでいるのかを見るという以上に、こうした、夫婦の話し合いを客観的な立場から見ることで、話し合いのコツとか工夫のようなものも発見できるという楽しみもありますね。
第6話視聴後、また更新します!
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