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先日、性犯罪の被疑者が逮捕されたというニュースを見ました。
見た限りでは、いつ逮捕されたのかという日は特定できませんでしたが、逮捕されて間もない時期だということはうかがわれました。
ニュースでは、その人の氏名、年齢、職業、顔写真が公開されていました。
顔写真は、その人の勤務先のホームページから引っ張ってきたそうです。
また、被疑者は犯行を否認し、自身の言い分を主張しているとの説明も報じられていました。
このように、逮捕直後に被疑者の氏名、年齢、顔写真が報じられること、日々のニュースでもめずらしいことではありません。
でも、私は、少し違和感を感じます。
みなさんはどうですか?
無罪推定 それなのに?
「無罪推定の原則」、聞いたことがあると思います。
刑事裁判で有罪判決が確定するまでは、被疑者、被告人は、「罪を犯していない人」として扱われなければならないという原則です。
たしかに、ある特定の人が逮捕されたという報道で、その人が有罪であると報じられているわけではなく、単に、逮捕されたという客観的事実が報じられたまでです。
被疑者が罪を認めていないということも報じられていますから、「逮捕されたけれど、本人は認めているわけではない」ということがわかるようにはなっています。
でも、この情報の受け手は、どう受け止めるでしょうか?
ネットニュースのコメント欄は、この被疑者が犯人であることを前提として、常習犯なのではないかなどという憶測であふれかえっていました。
ネット上には、「現在、本人のSNS調査中」などという記載もありました。
これって、「罪を犯していない人」に対する扱いといえるのでしょうか?
実名報道のありかた
本件について、事実関係はわかりません。
被害者のかたが存在する犯罪で、事実関係も知らずに何も具体的なコメントはできません。
でも、一般的に考えて、逮捕直後、今後捜査により事実関係を明らかにしていくという状況で、会社のホームページから顔写真を引っ張ってきて、氏名、年齢を公開するということで得られるものはなんなのか?失われるものはなんなのか?
公共の利害のため、逮捕された時点でその客観的事実を報じるべき事案があることは理解できます。
でも、公開により失われるであろうものがなにか、十分に検討の上、公共の利害のためという目的の有無は慎重になされるべきです。
私も、以前、ある事件の弁護人を務めた際、公益目的の名のもとに逮捕直後に事件の報道がなされたことがあり、警察署に抗議したことがあります。
その時、警察としては、逮捕の時点で報道機関に情報を提供するのであり、その後報道価値を認めて報じるかどうかは各報道機関の判断であると説明を受けました。
たしかに、報道機関が、被害者側の視点から被疑者、被告人の実名等報道をあえて控える事案はあります。
つい先日もありましたが、被告人と被害者とが親族関係にあるなど一定の関係性があるために、被告人側の実名等を開示することで被害者の名前等もわかってしまうという場合は被害者保護のために被告人側の実名等を報じないという対応がとられているようです。
いろいろな考え方があると思います。
実名報道をすることで犯罪自体を抑止できるのだという声を聞くこともあります。
でも、実名等を報じられた被疑者、被告人が、その後の裁判で無罪であるとわかったら?
仮に有罪認定されたとして、刑に服し、更生の道を歩もうとしたときに、実名報道された事実が検索され、更生の道を閉ざされてしまったら?
先日、18歳以上の少年についても、起訴されたら実名報道可能となる答申案が法制審議会で承認されたそうです。
弁護士として、実名報道のありかたについて考えなければならないときだと改めて感じています。
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