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先日、こちらのエッセイでも取り上げた、保護責任者遺棄致死罪の被疑事実で逮捕された女性に関し、勾留の執行停止が認められたと報じられました。
勾留の執行停止というのは、文字どおり、勾留がストップすることです。
勾留がストップするということは、身柄拘束されていたところ、一時的に、釈放されるということです。
「保釈のこと?」と思うかたもいるかもしれません。
勾留執行停止は、保釈とは違います。
保釈が認められるのは、起訴後です。
起訴されると保釈請求をすることが可能になり、裁判官が保釈を認めると、釈放されます。
そして、保釈されると、公判期日には、自宅など保釈決定のときに決められた場所から出頭してくることになります。
でも、勾留執行停止は、起訴される前にも可能です。
実際、今回報道された件も、起訴される前のタイミングで勾留執行停止が認められています。
保釈の時に必要な、保釈保証金を納める必要もありません。
勾留執行停止は、特定の目的のために、一時的に勾留がストップするのです。
〇月〇日〇時まで停止する、と厳密に決まります。
私が検察官のときに担当していた事件でも、起訴する前の捜査中の段階で、勾留執行停止が認められたことがあります。
そのときは、被疑者が病院で数日間入院治療を受ける必要があったのです。
風邪でちょっと通院するというくらいならわざわざ勾留執行停止をせずに警察官が病院に連れて行ってくれるのですが、数日にわたって入院治療が必要となると身柄拘束を続けたままでは対応できません。
このように、被疑者、被告人について入院や手術が必要な場合に勾留執行停止が行われることが多いと思います。
ほかにも、被疑者、被告人の親族に、勾留中不幸があって葬儀に参列したいという希望があるときなどに勾留執行停止が認められることがあるとも聞きます。
報道によれば、今回報じられた勾留執行停止は、被疑事実である保護責任者遺棄致死罪に該当するとして嫌疑のかかっている行為によって死に至らしめた二人の子のご遺体と対面するためのものであるとのこと。
このような目的での勾留執行停止はめずらしいなという印象です。
たしかに心情としてはわかります。
でも、まだ捜査は始まったばかり。
捜査がどの程度進んでいるかはわかりませんが、本件は、一般論で考えても、殺人罪適用の余地はないのかという視点を捨てずに、被疑者の当時の言動や犯行時以前の生活状況等について周囲のかたたちの事情聴取を重ねて慎重に捜査しなければならない事案だと思います。
そう考えると、万一にでも、釈放した被疑者が、周囲の人と接触し、口裏合わせを図ると、罪証隠滅につながり、そのようなことは断じて避けなければなりません。
一般的に考えるとそのリスクが決してないとはいえない状況でこのような勾留執行停止が認められることがあるのだな、と少し意外に感じました。
ご遺体と対面するということは、改めて子ども二人が亡くなったことと直面することになりますが、そのことが被疑者の気持ちに何か影響を及ぼすかもしれません。
勾留執行停止中の逃亡
今回報道された件とは離れますが、過去に、勾留執行停止中に逃亡したという事件がありました。
勾留執行停止中に逃走してしまっても、これは保釈中に逃走した場合と同じで、逃走したこと自体が逃走罪という罪に問われるものではありません。
逃走罪は、あくまでも身柄拘束されている人が、その拘束状態を妨害したことが犯罪になるところ、勾留執行停止の間は、身柄拘束を受けていないため、拘束状態を妨害する、といえないからです。
でも、勾留執行停止中に逃走したら、勾留執行停止が取り消される可能性があります。
また、逃走している間、誰かにかくまわせたりしたら、そのかくまった人は犯人蔵匿(ぞうとく)罪になり、かくまわせた被疑者は、犯人蔵匿の教唆(きょうさ)罪が成立する可能性があります。
勾留執行停止中に逃げられてしまうと、その後の捜査、公判が遅滞しますし、被疑者、被告人自身の刑事責任においてもいい影響はありません。
被疑者、被告人の主張する事実を認定してもらうとか正しい量刑を得るとかいうことは、適正手続きを経て獲得すべきものであり、その過程でルール違反がないように、ということは気をつけなければならないといえるでしょう。
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