リーガルエッセイ
公開 2020.08.18 更新 2021.08.13

不同意堕胎致傷罪(ふどういだたいちしょうざい)で逮捕

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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先日、医師が、妊娠していた知人の女性に、診察するといって麻酔薬を投与して眠らせ、同意を得ずに堕胎手術をし、その際、女性に1週間のけがを負わせたとして、不同意堕胎致傷の罪で逮捕されたと報じられました。
報道では、この医師が胎児の父親であった可能性も報じられています。

どのような刑罰が?

不同意堕胎罪の成立が認められれば、その法定刑は、6月以上7年以下の懲役です。
そして、その際に傷害を負わせた場合は、「傷害の罪と比較して重い刑により処断」とされており、6月以上15年以下の懲役ということになります。
母である女性の同意を得ないままに、胎児の命を奪うとなれば、それは殺人罪に匹敵する重い処罰がなされるべきだという考え方もありそうですよね。
でも、母体内にいる2か月の胎児は、まだ、人として扱われず、殺人罪ではなく、堕胎罪の対象になり、その法定刑も殺人罪より軽いものとなっています。

10年くらい前になりますが、医師が、妻と入籍する直前に、別の交際女性から妊娠を告げられて、入籍する妻への発覚をおそれ、女性の同意を得ないままに堕胎させたことで不同意堕胎の罪で逮捕、起訴された事件がありました。
この事件の裁判では、妊娠を心から喜んでいた被害者が堕胎させられたことによる精神的苦痛の大きさ、医師として生命を尊重すべき立場にありながら、医師としての立場を利用して犯行に及んだことの悪質さを指摘しつつ、勤務先病院を懲戒解雇となり、自身で医師免許を返上したいと述べ、今後医師の業務に関わらないことを誓ったことなどを考慮して、執行猶予付きの懲役刑が言い渡されました。
執行猶予付きとはいえ、5年間の執行猶予期間でした。
実刑とのぎりぎりの判断だったのだと思います。
今回の事案では、今後の捜査で事実が明らかになっていくことと思いますが、捜査の結果、不同意堕胎致傷罪にあたる事実が認められるとして起訴され、証拠上、公訴事実が認められれば、先に挙げた過去の裁判例との比較でも、傷害結果を負わせた点、堕胎させた手段の点などでより悪質と評価され、実刑に処せられる可能性が高いのではないかと考えます。

今後の捜査、裁判に注目していきます。

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