リーガルエッセイ
公開 2020.05.08 更新 2021.08.13

「9月入学」が議論されています

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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多くの都道府県で公立学校の休校が5月6日までとされていましたが、休校期間延長の決定が次々に発表されています。
都道府県によって差はあるものの、5月末までという決定も多く見られます。
2月下旬から休校になった公立学校もありますので、3か月近く休校になるという事態も。

これに伴い、今、「9月入学」の議論が急浮上していますね。
休校期間が長引き学習の遅れを不安視する声が高まる中、これまで検討されながら踏み切られずにきた9月入学を今こそ検討すべきなのではないか、というものです。

9月入学については、秋入学が標準的な海外に合わせた制度になれば、海外留学もスムーズになるし、企業が、海外留学している学生と国内の学生を同じタイミングで採用できるなどというメリット、なにより、休校が長引き今後学習の遅れをどうやって取り戻すかという不安な状態への解決策になるというメリットが主張される中、入学が遅れることによる保育園の待機児童問題、就職や国家試験の時期にも影響するのではないかなどというデメリットも懸念されています。

政府でも9月入学についての勉強会が設置され、9月入学を導入する場合の手続について意見交換が交わされているとのこと。
今後議論がなされていくのだと思いますが、今回は、9月入学というものを法律の面から見ていきたいと思います。

「4月入学」は法律で決められているの?

4月に新しい学年が始まり3月に終わる。
このことは、もはや私たちにとって当たり前のことですよね。
その根拠になる法律があるのか?などと考えたことはありますか?
実は、私は、今回初めて条文を確認しました。

学校教育法施行規則に「小学校の学年は、4月1日に始まり、翌年3月31日に終わる。」と定められていて、中学校、高校についてもこれが適用されると定められているのです。

この「施行規則」というものは、法律とは違います。

少し固い話になってしまいますが、これは、「省令」という各省庁の大臣が発する命令のことなのです。
そして、省令は、法律の効果を発動させていくために必要な細かい決まりを定めたり、法律や政令(政令というのは内閣が制定する命令のことです)に委ねられた事項を定めることがその役割です。
簡単に言うと、国会で決まる法律では決めきれないような細かいことなどを各省の大臣が決めたもの、といえるでしょう。

学校教育法施行規則は、学校教育法(法律)には決めきれない細かい決まりなどを定めた、文部科学大臣が発する命令です。
「学年は4月1日に始まり翌年3月31日終わる」ということは、法律ではなく、文部科学大臣が制定する命令の中に書かれているということになります。

9月入学にするためには、法律の改正は必要ない?

学年が4月1日から始まることを定めているのは省令。
そうなると、9月入学を導入するために、新たに省令を変える必要はあっても、国会で法律の改正をすることまでは必要ないのではないか?とも思いませんか?

でも、法律の改正は必要になります。
ここではその詳細をとりあげませんが、義務教育期間を定めている学校教育法は改正が必要になってくるでしょう。
そのほかにも、年度制を定める地方地自法なども改正の対象になるのではないかと言われています。

どこまでの法改正が必要になるかは置くとしても、文部科学大臣が省令を改める、というだけで済む話ではなく、多岐にわたる法改正を検討しなければならないのではないかと見込まれます。

以下、つぶやき

ここから先は、法律そのものの話とは違って、私の個人的なつぶやきです。

私自身、9月入学のメリット、デメリットについて勉強が不足しているので、9月入学を推進すべきかどうかについて今はまだしっかりと意見を持ち合わせていません。
この機会に改めて9月入学について検討するということ自体はいいと思いますし、法律も関わる話であるため、弁護士として、勉強し、自分なりの意見を言えるようにならなくてはいけないと思っています。

でも、9月入学の導入は、こんなにも考えるべきことが山積みになっている今、時間と人員を割いて検討すべきことなのか?休校が続くことに伴う子どもたちの学習の機会不足への解決策となるのか?疑問に思います。

「海外では秋入学の国が多く、国際人材育成の追い風になる」などという意見もとりあげられる中、子どもたちや子どもたちを見守る保護者の不安が置いてけぼりになっているような気持ちになります。

いつ学校がこれまでのような形で再開できるのかという明確な見通しもない状態、しかも、学校の再開が全国的に同じペースで進むとも限らない状態です。
そのような中でまず検討すべきなのは、これまでどおりの学校生活が送れない今この状態で子どもたちに学習の機会を作ることだと思います。

実際、NPO法人や民間の塾の中には、動画による授業を配信したり、オンラインで子どもたちが話し合いをしたり、先生に質問したりすることが可能な場を提供しているところもあります。
休校の今、子どもたちがいかに不安な思いをしているか、という声もありますが、たとえば、学校の先生やクラスのお友達などと1日1回オンラインで顔を見ながら話ができるだけで1日のペースができたり、元気が出てきたり、意欲的になったりすることもあるかもしれません。

ネット環境などにも差がある中で諸々の課題があることは間違いありませんし、学校も先生方も未曽有の事態に直面し、試行錯誤されていることも間違いありませんので、そのような実情を知らずに軽率に物を言うことはできません。

でも、休校になって早2か月経つ学校もある中、宙ぶらりんな状態にある子どもたちのことを考えると、9月入学の議論で限られたリソースを割くのでなく、何よりも今の子どもたちにもっと効果的に学習機会を提供する方法を最優先で考えたいなと思うのです。
みなさんはどうお考えになりますか?

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