リーガルエッセイ
公開 2020.04.02 更新 2021.07.18

競走馬のたてがみを切って「器物損壊罪」で逮捕

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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競走馬は「器物」?

牧場で育てている競走馬のたてがみを刃物で切ったことを理由に、警察が、女性を逮捕したというニュースが報じられました。
まだ、逮捕されたという事実しかわかりませんので、具体的事件のコメントは控え、ここでは、器物損壊罪についてとりあげてみます。

たとえば、駐車中の他人の車にわざと傷をつけた、というケースを考えたとき、このようなことをしたら器物損壊罪になるというイメージがわきやすいですよね。
でも、牧場で育てられている競走馬のたてがみを切る行為が器物損壊罪にあたる、というと、ちょっとピンとこないかたもいらっしゃるのではないでしょうか?
おそらく、競走馬が「器物」にあたる、というところにひっかかりがあるのだと思います。
まずは、器物とはどんなものを指すのか、見ていきたいと思います。

器物には、他人が飼っている動物も含まれる!

「器物」とは、文書や建造物等を除く有体物一般を言います。
なんだか難しい表現ですが、簡単に言えば、他人の持ち物のうち、文書や建造物等を除く物すべてといえます。
ですので、他人の飼っている動物も「器物」に含まれます。
自分のペットが物として扱われ、器物損壊罪の対象になるということに抵抗を感じるかたは多いと思います。
でも、刑法では、物として扱われ、その物の持ち主の持つ所有権という権利が保護されているという位置づけになるのです。

たてがみを切る行為は「損壊」?

ここで、器物損壊罪で、どのような行為が犯罪として定められているか見てみましょう。

条文には、「…他人の物を損壊し、又は傷害した者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する」とあります。
犯罪として定められている行為は、「損壊」と「傷害」です。

他人の飼っている動物に対する行為が犯罪になるケースとしては、この「傷害」にあたる場合です。
「傷害」とは、動物の価値をさげる行為を指します。
代表的な例としては、動物にけがをさせたり、病気にしたり、命を奪ったりすることがあげられます。

今回報じられた競走馬のたてがみを切ることについては、たてがみを切るにあたり、馬の体を傷つけることがあったら、もちろん「傷害」にあたりますし、傷つけることがなかったとしても、競走馬のたてがみを切るということが、その馬の価値をさげる行為にあたると評価できる場合には、「傷害」にあたると考えられるでしょう。

報じられている件については、今後、警察により、被疑者と本件との関係についての裏付け捜査、本件と関わりが認められる場合は、その犯行動機、切ったたてがみの保管、処分状況などについての捜査が進められていくものと考えられます。
今後の捜査の進捗が注目されるところです。

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