コラム
公開 2024.03.18 更新 2024.03.19

傷害致死罪とは?逮捕後の流れや対応を弁護士がわかりやすく解説

人の身体を傷害し、その結果、人を死なせてしまった場合は、傷害致死罪に該当します。
傷害致死罪の容疑で逮捕されると、その後はどのような流れになるのでしょうか?

また、傷害致死罪に問われると、どのような刑罰の対象となるのでしょうか?
今回は、傷害致死罪の概要や逮捕後の流れ、殺人罪との違いなどについて弁護士が詳しく解説します。

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
第二東京弁護士会所属。同志社大学法学部法律学科卒業、東洋大学法科大学院修了。これまで数百件を担当してきた建物明渡請求の分野を主軸に、離婚などの家事事件についても豊富な解決実績を有する。刑事事件も積極的に取り扱っており、訴訟対応も得意としているほか、企業不祥事や従業員による犯罪行為など、企業が関わる刑事事件への対応にも強い意欲を持つ。
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傷害致死罪の基本的な概要

傷害致死罪とは、どのような罪を指すのでしょうか?
はじめに、傷害致死罪の概要について解説します。

傷害致死罪とは

傷害致死罪とは、「身体を傷害し、よって人を死亡させた者」が問われる罪です(刑法205条)。
たとえば、相手を突き飛ばした結果相手が倒れ、打ちどころが悪く死亡した場合などがこれに該当します。

また、ここでいう「身体を傷害」はいわゆる怪我に限られず、病気に罹患させることなども含まれます。
そのため、相手を故意に病気にかからせた結果、意図せず相手が死亡した場合も、傷害致死罪に該当する可能性があります。

傷害罪とは

傷害致死罪と似たものに、「傷害罪」があります。
傷害罪とは、「人の身体を傷害した者」が問われる罪です(同204条)。

また、これとよく比較されるものに「暴行罪」も存在します。
これは、「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」に該当する罪です(同208条)。

傷害致死罪と傷害罪、暴行罪は、行為そのものに大きな違いはありません。
しかし、相手にもたらした結果によって、どの罪に該当するかに違いが生じます。

たとえば、相手を殴った場合、その結果によって該当する罪はそれぞれ次のとおりです。

  • 相手が怪我などをしなかった場合:暴行罪
  • 相手が怪我をしたり病気やPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症したりした場合:傷害罪
  • 相手が死亡した場合:傷害致死罪

このように、相手にもたらした結果が甚大となったことによって結果的により重い罪に該当することを「結果的加重犯」といいます。

なお、暴行罪と傷害罪は、傷害という結果に対する故意の有無によって分類されるわけではありません。

たとえば、相手を殴ったことで結果的に相手が怪我をした場合、「怪我をさせるつもりまではなかった」としても、これによって暴行罪に該当するわけではないということです。
たとえ怪我をさせるつもりがなかったとしても、殴るという不法な有形力の行使によって結果的に相手が怪我をした以上は、傷害罪の対象となります。

一方で、暴行罪と傷害罪、傷害致死罪はいずれも相手にした行為(相手を殴ることや石を投げつけることなど)自体への故意は必要です。
そのため、たとえば自分がよろけて意図せず相手にぶつかった結果、相手が転倒して怪我をしたり死亡したりしたとしても、原則としてこれらの罪には該当しません。
この場合は、相手にもたらした結果に応じて「過失傷害罪」や「過失致死罪」などに該当します(同209条、同210条)。

傷害致死罪と殺人罪との違い

相手を殴るなどした結果、相手が死亡した場合、傷害致死罪に該当する場合もあれば殺人罪に該当することもあります。
殺人罪とは「人を殺した者」が該当する罪です(同199条)。

では、傷害致死罪に該当するか殺人罪に該当するかは、どこで線が引かれるのでしょうか?

人を死亡させた場合、傷害致死罪に該当するか殺人罪に該当するかの最大の分かれ目は、「殺意があったかどうか」です。
相手への殺意があったと判断されると、殺人罪に該当します。

殺意とは、「相手を殺してやろう」という意思です。
また、そこまでの明確な意思でなくとも、「結果的に相手が死んでも構わない」と考えていて行為に及んだ場合も殺意が認定されます。

ただし、人の頭の中を見ることができない以上、犯人がどのようなつもりで犯行の及んだのかを正確に知っているのは、犯人しか存在しません。
そのため、犯人が「殺すつもりでやった」などと明確な自白をするのであればともかく、それ以外の場合には殺意の認定が困難となり殺人罪に問うことが事実上できなくなってしまうでしょう。

実際には、犯人による自白のほか、次の状況などからも殺意の有無が判断されます。

  • 犯行の動機
  • 凶器の種類や用法
  • 相手が創傷を負った部位や創傷の程度
  • 犯行後の救護措置の有無

たとえば、鋭利な刃物で相手の首や心臓付近を深く切りつけておきながら「殺すつもりはなかった」とするのは無理があるなど、犯行の状況から殺意が認定されることとなります。

傷害致死罪の刑罰

過失致死罪に問われた場合、どのような刑罰の対象となるのでしょうか?
ここでは、過失致死罪の刑罰と執行猶予の可能性について解説します。

傷害致死罪の法定刑

傷害致死罪の法定刑は、3年以上の有期懲役です。
懲役とは刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる刑罰であり、このうち「有期懲役」とは1か月以上20年以下の懲役を指します(同12条)。
つまり、傷害致死罪の法定刑である「3年以上の有期懲役」とは、3年以上20年以下の懲役刑ということです。

傷害致死事件で執行猶予になることはある?

執行猶予とは、所定の期間を問題なく過ごすことで、刑の言い渡しの効力が消滅することです。

たとえば、「懲役3年、執行猶予5年」とは、「原則として懲役3年の刑に処するけれど、5年の期間を問題なく過ごすことで懲役刑に処されることがなくなる」ということです。
つまり、執行猶予が付いた場合は、刑務所に収容されることなく通常の社会生活を送ることが可能となります。

そのうえで、所定の期間中に事件を起こすことなく過ごすことで結果的に刑務所に拘置される事態を避けることが可能となり、執行猶予期間の満了とともに前科もなくなることとなります。

そのため、犯人側としては執行猶予を得たいと考えることでしょう。
では、傷害致死事件で執行猶予が付くことはあるのでしょうか?

結論としては、傷害致死罪で執行猶予が付くことはあります。
なぜなら、刑法では「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金の言渡しを受けたとき」は執行猶予を付けることが可能とされており、先ほど解説したとおり傷害致死罪の法定刑は「3年以上の有期懲役」であるためです(同25条)。

つまり、傷害致死罪で3年を超える期間の刑罰が課されるケースでは執行猶予が付けられない一方で、ちょうど3年の懲役刑を言い渡された場合は執行猶予が付く可能性があるということです。

ただし、過去5年以内に前科がある場合は原則として執行猶予がつかないほか、執行猶予はあくまでも「情状」で付されるものであり一定の要件を満たすことで必ず付されるものでもないことに注意が必要です。

傷害致死罪で逮捕されるとどうなる?

傷害致死罪で逮捕されると、その後はどのような流れとなるのでしょうか?
ここでは、逮捕から刑事裁判までの流れについて解説します。

逮捕される

傷害致死の罪に問われると、原則として逮捕されます。
逮捕とは、逃亡や証拠隠滅を防ぐため、警察署などに身柄が留め置かれることです。

比較的軽微な事件では逃亡や証拠隠滅のおそれがないと判断されると逮捕されず、在宅のまま起訴されることもありますが、傷害致死は重大な事件であるため逮捕されることが一般的です。
ただし、被疑者(犯行を疑われている者)が高齢であるなど逮捕による影響が過大となりやすい場合は、在宅のまま(逮捕されずに)捜査が進むこともあります。

逮捕されると、最大48時間身柄が拘束され、警察での捜査が進行します。

検察に送致され勾留される

逮捕から48時間以内に、検察に身柄が送致(「送検」といいます)されます。
検察でもまずは24時間身柄が留め置かれ、捜査が進行します。

この24時間以内に検察が裁判官に対して勾留請求を行い、この請求が認められると、そこからさらに最大20日間(原則10日間。最大10日間の延長が可能)身柄が拘束されます。
つまり、逮捕から最大23日間(警察2日間+検察1日間+勾留20日間)身柄が留め置かれることとなります。

起訴・不起訴が決まる

捜査の結果を踏まえ、検察が「起訴」か「不起訴」か決定します。

起訴とは、刑事裁判にかけることを決めることです。
日本では起訴された場合の有罪率は99.9%以上とされており、起訴された場合に無罪となる可能性はほとんどありません。
裏返すと、検察が有罪とするために十分な証拠があると判断した場合に、起訴されるということです。

一方で、不起訴とは刑事裁判にかけないことを決め、釈放されることです。
不起訴となった場合、その事件で罪に問われることはないこととなります。

刑事裁判で有罪・無罪や量刑が決まる

起訴されるとその後刑事裁判が開始され、有罪・無罪や量刑などが決まります。
起訴前に勾留されている場合、基本的に裁判手続の間も身柄拘束が続くことになります。

ただし、保釈請求が認められた場合には、所定の保釈金を納めることで、釈放されることになります。
傷害致死罪や裁判員制度の対象です。

裁判員制度とは、一般市民から選ばれた裁判員が裁判に参加し、裁判官とともに有罪・無罪や量刑を決める制度です。
裁判員裁判では、裁判を開く前に争点を整理するための「公判前整理手続」に付されるため、裁判が開かれるまでに通常の刑事裁判より相当程度の期間を要します。
裁判員裁判は裁判が連日で開かれ、通常の刑事裁判よりも短期で判決が出る傾向にあります。

傷害致死以外の罪も含めての平均ではありますが、公判前整理手続を含めた審理期間の現状は平均13か月程度とされています。

傷害致死罪で逮捕された場合の対応

傷害致死の容疑で逮捕された場合、どのような対応をとればよいのでしょうか?
ここでは、罪を認めている場合と罪を認めていない場合とに分けて概要を解説します。

罪を認めない場合

傷害致死事件について無実を主張する場合は、できるだけ早期に弁護士へご相談ください。

拘留中に度重なる取り調べを受けると精神的に疲弊してしまい、やってもいない罪を認めて冤罪が生まれてしまうかもしれません。
いったん罪を認めてしまうと、その後自供を覆すことは困難です。

そのため、国選弁護人が選任されるのを待たず、特に早期に弁護士へコンタクトをとるとよいでしょう。
本人が逮捕されている場合は本人からの相談は難しいため、家族が弁護士に連絡をとることが一般的です。

罪を認める場合

傷害致死による罪を認める場合も、弁護士への早期の相談をおすすめします。
弁護士へ相談することで、たとえ犯行が事実であっても、早期の釈放や罪の軽減を目指せる可能性があるためです。

傷害致死罪で逮捕された場合に弁護士がすること

傷害致死事件で逮捕され、弁護士へ依頼した場合、弁護士は何をするのでしょうか?
最後に、傷害致死事件で弁護士が行う主な対応を解説します。

なお、刑事事件では私選で弁護士を依頼しなくても、勾留後や起訴後には国選弁護人がつくこととなります。

ただし、国選弁護人を自分で選ぶことはできないうえ、必ずしも刑事事件に強い弁護士が選任されるとは限りません。

そのため、弁護士による手厚いサポートを必要とする場合は国選弁護人の選任を待たず、刑事事件に強みを持つ弁護士を自分で見つけて依頼するとよいでしょう。

被害者遺族と示談交渉をする

弁護士へ依頼した場合、被害者遺族との示談交渉を目指します。
示談交渉がまとまれば、刑罰が軽くなる可能性が見込めるためです。

ただし、通常の傷害事件とは異なり被害者が亡くなっている傷害致死事件では、示談交渉がまとまる可能性は高くありません。
また、示談金も高額となる傾向にあります。
そのような中でも、弁護士は過去の経験を活かし示談交渉へ向けて尽力します。

不起訴処分や刑の軽減を目指す

弁護士は、刑罰の軽減を目指して弁護活動を行います。
この場合は、示談交渉の成立を目指して活動することもあります。

また、例えば、正当防衛の主張をすべき場合には、正当防衛が成立することを主張し、不起訴処分や無罪判決を得ることを目的として活動することもあります。

さらに、逮捕されてしまった場合には、弁護士が証拠隠滅や逃亡のおそれがないと主張することで、早期に釈放を受けられる可能性も生じます。

なお、先ほども解説したとおり、傷害致死事件は裁判員制度の対象です。
裁判員は裁判官とは異なり、法律の専門家ではありません。
そこで、裁判員の理解が得やすいよう主張や証拠をまとめるなど、裁判員制度に備えた準備も必要となります。
Authense法律事務所では、裁判員裁判の対策についても、全面的にサポートいたします。

具体的な弁護活動や事件の内容や状況によって大きく異なるため、傷害致死の罪を犯してしまった場合や家族が傷害致死容疑で逮捕されてしまった場合などには、早期に弁護士へご相談ください。

まとめ

傷害致死罪とは、身体を傷害したことによって人を死亡させた者が該当する罪です。
傷害致死罪の刑罰は重く、3年以上の懲役刑とされています。

なお、傷害致死罪と殺人罪とは、殺意の有無によって区別されます。

傷害の結果として人を死亡させてしまった場合や、傷害致死の容疑を掛けられている場合、傷害致死容疑で家族が突然逮捕されてしまった場合などには、弁護士へ早期にご相談ください。
弁護士が被害者遺族と示談交渉をしたり正当防衛の主張をしたりすることで、不起訴処分や刑罰の軽減を受けられる可能性が高まるためです。

Authense法律事務所では刑事事件の弁護に強い弁護士が多数在籍しており、裁判員裁判の対象となる事件についても数多くの対応実績があります。
傷害致死事件を起こしてしまった場合や家族が傷害致死の容疑で逮捕されてお困りの際などには、Authense法律事務所までできるだけお早めにご相談ください。

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