リーガルエッセイ
公開 2023.05.24

警察の「相当処分」という意見について

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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警察の「相当処分」って?

ある野球選手が女性に対する強制性交等の罪で書類送検されたと報じられました。
その報道では、警察が「相当処分」という意見を付しているようだとも報じられていました。
このような警察の意見というものは、普段、あまり報じられることがないように思いますので、今回は、このような警察の意見について取り上げてお話ししてみたいと思います。

まず前提として書類送検について。
ニュースを見ていると「被疑者〇〇が書類送検!」などと大々的に報じられることがあり、それを見た人が「やっぱりやっていたのか!」などとあたかも有罪に傾いたかのように受け止めることがあるように感じます。
でも、それは不正確です。
書類送検というのは、被疑者の身柄拘束をせずに事件を捜査した警察が、事件を検察庁に引き継ぐ手続き。
刑事訴訟法では、警察は、犯罪の捜査をしたときは、一部の例外を除いて、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならないと定められています。
つまり、犯罪の捜査をした結果、仮に、被疑事実となっている事実を認めるのは証拠上なかなか難しいなと判明したケースであっても、警察は、事件を検察庁に送致するのが原則となっているのです。
ですから、「書類送検された」ということだけをもって、有罪に傾いたかのように評価することは誤りです。

冒頭で取り上げた警察による「相当処分」などという意見は、この書類送検をされるときの事件記録の表紙に書かれています。
「犯罪の事実及び情状等に関する意見」という欄があり、そこに、「本件は〇〇という事情があり、厳重処分を求めます。」とか「本件は〇〇という事情があり、相当処分を求めます。」などと記載されているのです。
これは、捜査した警察官が、事件を引き継ぐにあたり、引き継ぎ先の検察官に処分に関する警察の意見を伝えるためのもの。
通常、厳重処分というのは「この事件については公判請求すべきですよ」を意味し、相当処分というのは「この事件については、警察として必ずしも公判請求を求めるものではなく、処分は検察官にお任せしますね」を意味します。

このような意見は、「事件を送致又は送付するに当たっては、犯罪の事実及び情状等に関する意見を付した送致書又は送付書を作成し、関係書類及び証拠物を添付するものとする。」と定める犯罪捜査規範に基づき記載されています。
ただ、公判請求をするのか否か決めるのは検察官の仕事です。
検察官が、処分を決めるにあたり、この警察による処分意見に拘束されることはありません。
とはいえ、警察において慎重な捜査をした結果、警察が、この事件についてどう見ているのか、ということは非常に重要な情報です。
検察官時代、法定刑が重い犯罪で、ざっと記録を確認する限りでは公判請求の上で厳重処罰を求めるべき事案だと思えるのに、警察の意見としては「相当処分」意見が記載されているといったことがまれにありました。
この処分意見の欄は、(もちろん事案や担当警察官にもよりますが)比較的簡潔に書かれていることが多く、それを読んだだけでは、書かれている意見のもとになる背景事情が必ずしも読み取れないこともあります。
ですから、そんなときは、担当警察官に連絡し、どのような事情があっての意見なのかということを丁寧に確認した上で捜査にあたるようにしていました。
そのような警察の見立てを踏まえつつも、検察官として、まっさらな視点で捜査を尽くし、処分を検討することになります。
結果として、警察意見と一致する処分となることは多いですが、警察意見は「厳重処分」であっても、捜査の結果や事情の変化に伴い、不起訴処分にすることもありましたし、まれにではありますが、警察意見は「相当処分」であっても、捜査の結果、公判請求するということもありました。

今回の報道によれば、警察が、捜査の結果、「相当処分」という意見を付したとのこと。
つまり、警察としては、必ずしも公判請求されるべきと考えているものではなく、処分は検察官にお任せします、と考えているということ。
強制性交等事件は重い犯罪です。
にもかかわらず、それに関し厳重処分ではなく相当処分という意見を付しているという背景にどのような事情があるのかは現時点でわかりません。
一般論で考えると、警察として、公判請求するには十分な証拠が足りないのではないかと考えている可能性はあります。
この点、事件送致を受けた検察官が捜査の結果どう判断するか。
捜査の進捗に注目します。

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