リーガルエッセイ
公開 2022.08.04

日野自動車不正問題 社内不祥事を予防するために大切なこと

日野自動車不正問題 社内不祥事を予防するために大切なこと
記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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社内不祥事予防

先日、日野自動車が、エンジン開発において、排出ガス性能と燃費性能を偽って認証を取得したという問題が発覚し、この不正発覚を受け、エンジン供給を受けていた建設機械メーカーが新規受注を見合わせたり、対象となるおよそ2万台につき追加リコールを行うと発表されたりするなど影響が広がっています。

そして、この不祥事に関しては、特別調査委員会の報告書が公表され、会社も、これを踏まえた会見を行いました。

私もこの特別調査委調査報告書を読みましたが、その内容は、「自動車会社の特定部門で発生した、性能を偽って認証を取得したという不正」という枠を超え、どの会社においても共通する不祥事の本質に関わるものと感じられたので、その話を取り上げてみたいと思います。

ここで、その報告書の内容を網羅して説明することは難しいので、今回は、まず、その中の1つについて取り上げたいと思います。

不祥事が発生した部署における「局所的な問題に矮小化することは、問題の本質を見誤ることに繋がる」

この文言は、いくつかの報道の見出しとしても引用されています。

これは、ある不祥事が発覚し、その原因を探り、再発防止策を講じるにあたり、すべての出発点となる視点だと思います。
問題が発生し、その原因を探ろうというとき、どうしても、ある特定個人による失敗であるとして問題が矮小化されがちです。
なぜなら、そのように問題をある1点に集中したほうが、会社全体の評判を落とさずに済ませられるし、不祥事対応が圧倒的に楽になると考えられがちであるからです。

でも、実際は、ある特定個人による不正にも見える事象の背景に、組織全体が抱える問題が潜んでいることが多いと思います。

もちろん、不正を生じさせた個々の事象やそこに関わった人、部署固有の問題点を明らかにすることも重要ですが、それにとどまらず、その問題が発生した背景に組織の抱える問題が隠れているのではないかという視点で原因を深掘りすることが何よりも大事で、これを避けてしまうと、また、別の機会に、違う形で不祥事は発生するのだと思っています。

今回の報告書をもとに、もう少し具体的にお話しすると、今回、排出ガス性能を偽る行為は、主として、パワートレーン実験部が行っていた劣化耐久試験で発生したところ、なぜそのようなことが起きたかという背景を探っていく過程で、社内の他部署の人たちが、劣化耐久試験について、内容や手順、その試験に要する時間などを全く理解しておらず、パワートレーン実験部に丸投げしていたがために、他部署の管理職が、エンジンの燃費の実力や改善に必要なスケジュール等を全く無視して燃費改善を役員から安請け合いし、最終的に、その責任をパワートレーン実験部に丸投げしていたという実態が明らかになったとされています。

そして、報告書には、このような実態は、直接的に不正を行ったとされるパワートレーン実験部に限った問題なのではなく、組織が、「みんなでクルマをつくっていない」ことの象徴であると指摘されています。

その体質こそが今回の不正の一因になったのだと指摘しているのです。

この指摘は、自動車業界のみならず、業界の枠を超え、不祥事対応の本質として改めて認識する必要があると思っています。

また、少し視点は変わりますが、個人として何かミスをしてしまったというときも大事な視点になると思います。
私自身も、何か思いがけないミスをしたことに気づいたとき、そのミスが発生したおおもとを考える習慣を大事にしています。
そのおおもとにたどりつけないと、結局、また別の形で問題を一にするミス事象が発生し、いつか、それは、取り返しのつかないような致命的な失敗として顕在化すると思うからです。

そして、もっといえば、このことは、仕事においてのみならず、家庭での育児などにおいてもいえることだと痛感しているのですが、社内不祥事の話が育児にまで行ってしまうと少し本筋とずれてしまうようにも思うので、ここらへんにとどめたいと思います。

この報告書に関しては、また、別の角度から改めて取り上げてみたいと思います。

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