リーガルエッセイ
公開 2022.08.01

弁護士が反省しない被告人にセリフを暗記させても意味がない?「石子と羽男―そんなコトで訴えます?―」第3話

弁護士が反省しない被告人にセリフを暗記させても意味がない?「石子と羽男―そんなコトで訴えます?―」第3話
記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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ファスト映画を作って投稿したら犯罪?

「石子と羽男」3回目を視聴しました。
今回は、正直、大好きなはずの中村倫也さんにあまり目がいきませんでした。
というのも、映画監督役のでんでんさんの存在感があまりにも大きかったからです。
まだ3回目を視聴されていないかたもいるかもしれませんから、詳細は言えませんが、私は、ファスト映画を作った男性が、でんでんさんに謝罪したのに対し、でんでんさんが放った言葉が本当にリアルだなと感じました。
  
今回のトピックは、ファスト映画ですが、その前に気になることもありました。

被告人の第1回公判期日前に、弁護士と被告人が打ち合わせをした場面のこと。
自分がしたことのなにが悪いかわからないために、反省もしていないという被告人。
そんな被告人に対し、第1回公判期日で、どう発言すべきか台本を書き、接見の際に一言一句覚えさせようとする弁護人。
 
でも、多くの弁護人は、そのようなことをしていないはずだと思うのです。

当然のことではありますが、法廷で、こういうセリフを言いなさい、などと教え込んでも、何の意味もないばかりか、かえって有害だと思うからです。

以下、そんな話をしてみたいと思います。

刑事法廷では、冒頭で、被告人が、裁判官から問われ、検察官から読み上げられた起訴状の内容に間違いなかったか、それとも何か違う点があったかという点について答えることになっています。
罪状認否と言います。
たしかに、そこでどのように答えるか、ということは事前に入念な打ち合わせをします。
なぜかというと、被告人にとっても、人生初めてということも多い法廷での第一声(その前に、自分の名前や職業などについては問われ、答えますが、実質的な、事件の内容に関する最初の言葉、という意味です)となるこの場面、緊張のため、頭が真っ白になってしまい、どう説明していいかわからなくなってしまうというかたもいるからです。
ですから、私は、事前の打ち合わせで、この罪状認否の手続きの持つ意味をお伝えした上で、起訴状の内容に対する率直な思いを話してもらいます。
そして、その時点で、被告人の口から、「何が悪いのかわからない」とか「自分は何も知らない」とかいう言葉が出てくることももちろんあります。
そんなときに、今回、ドラマの中の弁護士が最初したように、反省しているかのようなセリフを覚え込ませ、そのとおり発言するように言うことは意味のないことだと思っています。
なぜなら、たとえ、罪状認否の段階では、覚えたままに発言できたとしても、終盤の被告人質問の中で、その化けの皮がはがれてしまうと思うからです。
被告人質問という手続きは、被告人が、弁護人、検察官、裁判官からの質問に対し、答えていく手続きです。
弁護人との問答は練習通りにうまくいったとしても、弁護人から教え込まれた表面的な謝罪や反省の言葉は、次の検察官による質問のターンで簡単にぼろぼろにされてしまうことが多いと思うのです。
本人の腹に落ちていない暗記しただけの言葉は、ちょっと質問のされ方を変えられると、言葉に詰まってしまったり、別の角度からの質問に対し、暗記した答えとは矛盾する答えをしてしまったり、という事態を引き起こすこともあります。
なにより、そんな表面的な反省をさせて、仮に刑が軽くなったとして、それが将来的に被告人のためになるとは到底思えません。
真の反省がなければ、また同じことをしてしまうかもしれない。
弁護人としても、「今回刑が軽くできれば、自分の役割は終わり!あとはどうなろうが関係ない!」などと考える人はたぶんいないはず。
そう考えてくると、弁護人の立場で、自分のしたことの重みを理解できておらず、反省もしていない被告人に対し、ただただ反省の言葉を暗記させて公判に臨むということはちょっと考えられません。

じゃあどうするかというと、とにかく、じっくりと被告人と話し合います。
被告人が、自分のしたことがなぜ悪いのか理解できないと言えば、弁護人としては、(もちろん、事実、犯罪を犯したという場合であることは前提として)その点が理解できるように、具体的な事例を挙げてみたり、たとえ話をしてみたり、登場人物を被告人に身近な人たちに置き換えてみたり、被害者のかたの生の言葉を伝えたり、いろいろな手段で、被告人の心に訴えかけます。

もちろん、一方的に、「あなたのしたことは悪であるから、すべてを思い直すように」などという乱暴な話をしても意味がありません。
被告人には、被告人が犯行に至ったという経緯があるはず。
そこも丁寧に丁寧に聞いていきます。
その中で、被告人にとって酌むべき事情というものが発見されることもあります。

その上で、いろいろな経緯があったにせよ、それでは、当時に時が戻ったら、自分はどうしたらよかったのか、ということも一緒に考えていきます。
にもかかわらず、なぜ、当時はそれができなかったのか。
 
今回の事件を経て、今後は、もう大丈夫だと言えるのだとしたら、それはなぜなのか。
 
「気を付ける」という自分の意思だけに頼るのは危険で、自分の意思でコントロールできなくなったときに、再犯を抑止する仕組みをどう作ったらよいか。
そんなことをしつこいほど、何度も何度も質問し、どこかにうそやごまかしがないか、話し合う中で確認しあうのです。

そこまで時間をかけて徹底して考え、話し合うと、公判廷でのセリフなどを暗記しなくても、質問などに対して、自分の言葉で答えることができるようになると思っていますし、一今後の被告人にとっても絶対に必要なことなのだと思っていますし、そのようなことをせずに、反省などということはなしえないと思っています。

そんな前置きの話をしていたら、ファスト映画までたどり着くことができませんでした。
次回、ドラマで取り上げられていたファスト映画についてお話ししたいと思います。

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