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INNOVATORS
公開 2024.11.27

中小監査法人という「選択肢」。
パートナーが語る、業界のトレンドと監査法人の選び方(後編)

昨今、監査業界に大きな再編の動きが進んでいる。監査報酬の高額化、業務 のマニュアル化、小規模監査法人の淘汰などの動きは企業にとっても他人事ではありません。現在、監査業界にどのような動きが見られるのか、トレンドと企業が自 社に合った監査法人をどのように選べばよいのか、東光監査法人パートナーの 安彦潤也氏(公認会計士・税理士・認定IFRSスペシャリスト)に話を伺いました。

マニュアル化が進む監査業界

中小と大手の監査法人の違いについては前回、お話しさせていただきました。では、中規模の監査法人のなか東光監査法人がどのようなポジションにあるかというと、当所は歴史があるのでお客様から安心されるという点が挙げられます。

昨今、新興の監査法人が増えています。大手の監査法人を退所して独立し、IPO専門の監査法人を作ったりという動きが多く見られるなか、当所は30年の歴史があります。新興の監査法人は、やはり実績や経験が多くありませんから、内部の体制は大丈夫なのか、所内の規定も実態に即していないものを特急で作ったのではないかといった不安の声をお客様からお伺いしたこともあります。

前回もお話しさせていただいた、顧客対応の柔軟さについてもお客様から喜んでいただけるポイントです。中小監査法人の中でも大きな組織では、マニュアルに則って業務を進めざるを得ず、臨機応変な顧客対応が難しいジレンマがあります。
当所は、実績・経験を重ねたスタッフがお客様の問題や課題に対してフレキシブルに対応できる規模を保っており、それでいてある程度の規模はありますので所内全体で応対もできる、一番良いサイズ感ではないかと思っています。

絶妙なバランスですね。

プロジェクトごとに専任のチームを作って対応もできるし、プロジェクトにアサインされた会計士たちはしっかり知識も経験もある人ので、マニュアルに縛られずにクライアント・ファーストで対応できる、ちょうどいい感じと言えるのではないかと思います。

東光監査法人がお客様とご契約する際のルールのようなものはあるのでしょうか?

当所の方針として、ご契約させていただく際、上場企業の場合には現場にパートナーを2名付けます。その2名が見切れない業務量のお客様とは、申し訳ないのですがご契約はしないと決めています。

この方針は他の監査法人さんとは違うだろうと思います。年間の監査報酬が1億円といった大クライアントの案件となると、人海戦術で若い会計士を現場で狩りだしてパートナーは案件の細かい部分にまでは目が届かないといったことが起こり得ます。そうなると、若い会計士でもミスを起こさないように決められたマニュアル通りに監査を進め、場合によっては不必要と思われるような作業も行わざるを得なくなります。

当所では、経験を積んだパートナーが作業の全体を把握できる案件のみに絞って対応させていただくことで、準大手〜大手ほどガチガチにマニュアル化せずに、フレキシブルにお客様に応対できています。

パートナーが現場にいるだからできる「即断即決」

お客様の事業規模としてはどのあたりが多いのですか?

売上規模で見ると小さいなお客様で10億円から大きい企業様で数百億円、そのくらいの規模に留めています。

より大きな企業の場合は他の監査法人をおすすめしているということですね。

自分たちで見切れる範囲内の案件しか受けない、丁寧に一件一件当たれるところが他の監査法人と異なるところであり、強みでもあると思います。

特にここが強い業種はありますか?

監査において、あまり業種は関係ないのですが、パートナーはみんな経験がありますから、どんなお客様の案件でも誰かが過去に手掛けたことがあります。◯◯の業界からご依頼が来たが、誰かやったことはない? と聞くと誰かいますので、その人間をアサインして進めています。
たとえば銀行からご依頼が来れば金融の経験があるパートナーを、IT系が来ればIT業界に造詣の深いパートナーなど、そのようにアサインしていくので、当所で業界の得意不得意といったことはありません。

東光監査法人がお様に提供している価値やサービスではどのあたりに強みを感じていらっしゃいますか?

即断即決ができる点はひとつの強みかと思います。クライアント先にチームで行くときにパートナーがほぼ必ず同行しますので、お客様の抱えている不安や悩みもチーム全体で共有できます。

他の監査法人のケースだと、パートナーではなく現場監督のような立ち位置のスタッフがいて、現場で問題が起きると現場監督からパートナーにお伺いが行き、パートナーで判断できない大きな問題は本部の会議に上げて検討するといったフローを敷いていることがあります。このような場合、回答が下りてくるまで1ヵ月以上掛かるといったケースも珍しくありません。当所にも本部審査はありますが、本当に重要なことだけに限っています。基本的にはプロジェクトを取りまとめているパートナーが即断即決し、お客様に負担を掛けないフローを構築しています。

スピード感にあふれているというのは大きな魅力ですね。

また、チームメンバーは会計士経験10年以上の経歴を持つスタッフが、プロジェクトごとの固定でチームを形成します。それも監査が終わる1年間限定ではなく、数年間にわたって固定しますので、お客様企業の抱える問題やご担当者様の不安もしっかりと把握しているという点も強みではないかと思います。
私が今日、お邪魔したお客様も今年で7年目になりますが、プロジェクトをスタートした当初のスタッフが現在でも担当しています。

7年もの期間、同じスタッフが対応していれば現場の方々ともツーカーになりますね。

ツーカーです。お客様とツーカーになりますので、お打ち合わせでも「資料ここですよね」といった感じで進められるので、お客様も気楽だと思います。

お客様も安心だし、監査法人側も安心だし、もちろん勉強中の会計士はプロジェクト・チームには入れませんので、質の高い監査サービスを提供できます。

しかもパートナーが現場にいるわけですから、スピード感や安心感、豊富な経験といった点は大きな価値であり強みですね。
業界内の最新テクノロジーの点で、電子監査調書のお話しが前回ありました。こちらはどのような形で導入されているのでしょうか。

現在パイロットテスト中なのですが、今後は必須になるので最低限の機能を備えたシステムを導入する予定です。電子監査調書に関しては、お客様に提供する価値を向上するもの、お客様の手間を簡易にするものというわけではなく、監査法人を守るために必要なシステムと言うだけですので、この部分に多額の資金を積極的に投資するつもりはありません。最低限の目的が達せればそれでよいという考えです。

コロナ禍以降、一般企業ではビデオ会議システムを活用した遠隔ミーティングが爆発的に普及しました。監査業界ではいかがですか?

請求書などの監査依頼資料などを電子でもらえるようになりましたね。基本的には送られた請求書のPDFなどで監査して、現場は何回か行くだけといったケースも増えています。

遠隔で打ち合わせや資料のやり取りができるようになって、資料もメールないしはSlack等のチャットシステムでやり取りができるようになってというのは、2020年以降、急激に増えました。ビデオ会議のシステムTeamsなどを活用しています。

コロナ禍がなければ普及していなかったかもしれませんね。行かなければならない、失礼だといった同調圧力もあったでしょうし、これは双方にとって良かったですね。

いまでも紙の資料をやり取りしていた可能性が高いですよね。

成長しながら大手は目指さず、今後も品質の高いサービスを

安彦 潤也 氏

最後に今後の展望や目標について教えて下さい。

お客様としっかりと向き合うという点は変えずに、でも規模はある程度拡大していくというのは、上層部のみんなが考えています。
しかし、メガ監査法人、いわゆるビッグ4のようなありようは目指していません。そこを目指してしまうと、全体の管理コストや固定費も上がって、その結果、監査報酬も上がってしまうといった本末転倒が起こってしまいます。なので、今のスタンスは変えずに成長を続けていくということを目指しています。

ポリシーは変えずに成長を進めていくイメージですね。

成長は続けていきながら、大手監査法人が構造的に抱え込みがちなデメリットは排除したいと思っています。組織が成長しても、ガチガチで身動きが取りづらい組織になってしまっては意味がありませんので。

ちなみに大手監査法人に入所した会計士の退所理由にはどのようなものが多いのでしょうか?

大手は人数が多いですよね。何万人ものスタッフがいます。その人数を動かすためにはマニュアルや規定をガチガチに固める必要があります。そうすると、毎日行う作業も単純化してしまいがちなんです。全体の業務は見えづらく、2〜3年経験すると先々も含めて見えてきてしまいます。だから独立したり他の面白そうな監査法人に移るわけです。

最後に、どのような企業に東光監査法人が向いているか、教えて下さい。

グローバル展開は行っておらず、、国内市場である程度の規模を展開している企業は大手ではなく当所にご依頼いただくとよろしいかと思います。また、監査報酬に数千万円といったコストを掛ける必要のない企業様もご検討いただけるとよいかと思います。

監査報酬にコストを大量に掛けても売り上げ上がるわけじゃないですからね。

はい。監査報酬のコストを減らせば良いということではありませんが、無駄に大金を払う必要もありません。

ありがとうございました。

<前編はこちら>

Profile

安彦 潤也 氏

公認会計士・税理士・認定IFRSスペシャリスト
2002年、公認会計士の2次試験合格、新日本監査法人非常勤入所。2003年に同所常勤入所。2006年に公認会計士登録。東光監査法人代表社員、Authense税理士法人代表、ジール・チャイルドケア株式会社設立代表取締役など要職を務める。「中小企業のがんばる社長のパートナー」をモットーに、会計士、税理士として厚い信頼を寄せられている。