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INNOVATORS
公開 2024.03.12

【連載】2023年は生成AIが大きく加速した1年

米OpenAIが提供するChatGPTはWeekly Active Usersが1億人を突破するなど生成AIを日々の仕事の中で活用する企業も増えてきました。一方で、生成AIのポテンシャルは生産性向上にとどまらず、既存産業へ応用することで、破壊的なイノベーションをもたらすとも予想されています。本記事では、医療・ヘルスケア業界、教育業界、金融業界、小売業界において、生成AIがどのように活用可能なのか、2023年末時点で見えている近い将来を整理します。

産業別「生成AIの具体的な既存産業への応用例」

2023年4月号にて「生成系AIが出来ること・出来ないこと」を執筆しましたが、その後も生成AIは急速な進化を続けています。米OpenAI が提供するChatGPT は、記録的なスピードで進化を遂げ、2023年11月時点で、Weekly Active Users が1億人を超えたと発表しました。

「生成系AIが出来ること・出来ないこと」では、生成AIが得意なタスクとして、文章理解・生成、プログラミング、画像生成、動画生成の4つを挙げました。
最近、これらのタスクやChatGPT ができること以外に、具体的に生成AIはどのように実ビジネスに影響を与えうるのかが分かりにくい、という声を日本企業の経営陣の方から聞くことも増えました。

そこで今回の記事では、2023年末の時点で見えている「生成AIの具体的な既存産業への応用」例を産業別にいくつか紹介します。これらの分野において、シリコンバレーを中心にした生成AIスタートアップがしのぎを削っています

医療・ヘルスケア業界

1.新薬の発見と開発の効率

生成AIアルゴリズムを活用して潜在的な新薬候補を見つけ、その効果をコンピュータシミュレーションでテストすることで、動物による前臨床試験から人間による臨床試験まで、新薬発見のプロセスを大幅に加速。

2.パーソナライズドメディシン

患者の医療履歴、症状などを学習し、個々に患者に最適な治療計画を作成。

3.医療画像の品質改善

機械学習と医療画像技術(CTスキャンやMRIスキャンなど)を組み合わせることにより、医療画像の精度を高める。

教育業界

4.パーソナライズされた学習プラン

個別にカスタマイズされた学習プランを提供し、生徒にとって最も効果的な教育を実現。これらのプランは、生徒の過去のパフォーマンス、スキルセット、カリキュラム内容に関するフィードバックなどのデータを分析して作成され、特に障害を持つ生徒を含む各生徒に、成功を最大化するためにデザインされる。

5.シラバス設計

シラバスや評価の設計から、生徒の個別のニーズに基づいた教材のカスタマイズに至るまで、教育をより効率的かつ効果的に改善。さらに、仮想現実技術(VR)と組み合わせることで、学習者をさらに引き込むリアルなシミュレーションを作成可能。

6.教育コンテンツの作成

教師が迅速に大量のユニークな教材を開発するための実用的かつ効果的な支援。クイズの質問、概念のレビュー、説明など、この技術は既存の情報から新しいコンテンツを生成し、教育者がクラス用の多様な教材を容易に作成可能。
また、ビデオ講義やポッドキャストのスクリプトを生成し、オンラインコースのマルチメディアコンテンツ作成を効率化。

ファッション・アパレル業界

7.ファッションデザイナーのための創造的デザイン

革新的なスタイルの作成から既存のルックの洗練・最適化に至るまで、最新のトレンドに追随しながらも、デザイナーの創造性を維持する手助け。ユニークな生成デザインや他のソースからのスタイル転送など、さまざまな技術によって実現。

8.スケッチをカラー画像に変換

スケッチを鮮やかな画像に迅速に変換することで、貴重な時間とリソースを節約。デザイナーやアーティストは労力を最小限に抑えつつ、リアルタイムで自分の作品を体験することができ、さらに障害なく実験する機会も増加。

9.ファッションモデルの生成

生成AIを活用して様々なファッションモデルを作成することで、ファッション企業は多様な顧客基盤によりよいサービスを提供し、製品をより本物に近い方法で正確に展示可能。
これらのモデルは、顧客のためのバーチャル試着オプションや、衣服の3Dレンダリングにも使用可能。

10.ファッションブランドのためのマーケティングとトレンド分析

機械学習や確率プログラミングなどのさまざまな技術を組み合わせることで、従来の分析や顧客需要アルゴリズムでは実現できない、特定の消費者の願望に対する深くパーソナライズされ
たオプションを生成。

金融業界

11.詐欺検出

不審な取引や詐欺取引を検出するための強力なツールを銀行に提供し、金融犯罪の早期検知・防止に貢献。

12.リスク管理

GAN(生成敵対ネットワーク)を活用することで、特定の期間における損失の可能性を示す
バリュー・アット・リスクの推定を計算したり、金融市場の予測のための経済シナリオを構築することが可能。さらに、GANは歴史的なデータトレンドに基づいて新しく、仮定のない状況を生成することにより、ボラティリティを理解するのに役立つ。

13.ローン拒否のユーザーフレンドリーな説明の生成

ローン申請が拒否された場合、その理由をローン申請者に理解しやすい形で生成可能。

14.データプライバシー保護

AIによって生成された合成データを利用することで、プライバシー上の懸念やデータ保護法により共有できない顧客データの代わりに共有可能なデータを作成。
合成顧客データは、顧客がクレジットや住宅ローンの資格があるか、どれくらいの金額が提供できるかを判断するためのML(機械学習)モデルの訓練に理想的。

小売業界

15.製品とディスプレイデザイン

現在の市場動向、消費者の好み、歴史的な販売データを分析し、新しい製品デザインを作成可能。AIモデルは多くのバリエーションを生成し、企業が最も魅力的なオプションを選び出す手助けを行う。

16.自動化された小売コンテンツ生成

商品の説明、ソーシャルメディア用のプロモーションコンテンツ、ブログ記事など、SEOを向上させ、顧客エンゲージメントを促進するコンテンツを作成。

17.在庫管理とサプライチェーンの最適化

過去の販売データ、トレンド、季節性などの要因に基づいて製品の需要予測を作成。これにより在庫管理が改善され、過剰在庫や品切れの発生を減少。

18.バーチャルショッピングアシスタント

生成AIは会話型のバーチャルアシスタントを動かすことができ、顧客のショッピングの旅をサポートし、彼らの問い合わせに対する回答を生成し、購入プロセスをガイド。

生成AIの既存産業への応用は2024年以降本格化

以上、2023年時点で、実ビジネスへの応用が見えているだけでもこれだけのアプリケーションがあり得ます。2024年以降、既存産業への応用がどのように進んでいくのか注目していければと思います。

Profile

シバタ ナオキ 氏

元・楽天株式会社執行役員、東京大学工学系研究科助教、スタンフォード大学客員研究員。東京大学工学系研究科博士課程修了(工学博士、技術経営学専攻)。スタートアップを経営する傍ら「決算が読めるようになるノート」を連載中。