小野伸二氏の華麗なプレーに世界が魅了された。対戦相手どころか仲間でさえ驚く意表をついたパス。ときに鋭く、ときに緩やかにフィールド上で魅せたプレーの数々に、サポーターは酔いしれた。まさに「ファンタジスタ」と呼ばれるにふさわしいそのプレーの裏側で、彼は一体なにを考えていたのか? なにを心がけ、どのようなプレーを「良いプレー」と捉えていたのか? 天才の秘密の一端を紐解くインタビュー。
取材・文/山口和史 Kazushi Yamaguchi 写真/西田周平 Shuhei Nishida
見に来ているお客さんを騙すプレイ
- 2001年からはオランダの名門フェイエノールトへ移籍。日本人初の欧州制覇となるUEFAカップ優勝を成し遂げる。以降も、ドイツブンデスリーガのVfLボーフム、オーストラリア・Aリーグのウェスタン・シドニー・ワンダラーズFCなど海外のクラブチームでその才能を惜しみなく発揮していった。
小野氏のプレイは同業のサッカー選手からも「天才的」と評される。小野氏本人はなにを考え、なにを意図してピッチに立っていたのだろうか。
小野 伸二氏(以下 小野氏): 個人としてはやはりまずは結果を出すこと、得点やアシストができればそれは良いプレイになると思います。最後までボールを諦めずに追いかけるのも良いプレイでしょう。チームとしても同じように結果を出す、試合に勝つということ。勝っているということは少なからず一人ひとりのパフォーマンスが良いはずだと思いますので、やはりそこですよね。
パスに関して自分の中で考えていたのは、自分がもらいたいボールを出すということ。相手の気持になって自分だったらこういうボールがほしいといったことを考えて判断をしていました。ボールもその瞬間に応じて速いボールなのかゆるいボールなのか、相手の状況も瞬時に判断してというのは常々考えてやっていましたね。
- ただ上手いだけではない、魅せるプレイも小野氏の真骨頂だった。
小野氏 : 見に来ているお客さんを騙す、見に来ているお客さんの裏をかくプレイについても考えていました。お客さんを騙すとなると選手ももちろん騙すことになります。そういった驚きのあるプレイまた見に行きたいと思ってもらえる秘訣だと思うんです。お客さんにたくさん来ていただくためには魅了するプレイをしなければいけないと思っていました。
もちろんそのパスひとつがミスにつながることもたくさんありましたけど、感じられる人には感じられるものだと思うんです。僕はそうやって生きてきました。
- 観客が思わずため息をついてしまう美しいパス。まさかそこに出すなんてと驚きの叫びを上げてしまう鮮烈なパス。一瞬の隙を見逃さず、ときに人を食ったようなゆるい山なりのパスが相手選手の頭の上を超えていくこともある。卓越した技術と創造性あふれるイメージの高度な融合に観客は何度も大歓声を挙げた。
小野氏 : 自分だったらそうあってほしいと思うと思うんですよね、僕が観客だったら。僕が見たいプレイ、やってほしいプレイをピッチで再現するだけでした。
- 個人として結果を出す、チームを勝利に導いていくのと同じ価値で観客を喜ばせることを小野氏は大切にしていた。
全国の子どもたちにサッカーの楽しさを伝えたい
- 激動のプロサッカー選手としてのキャリアを終え、現在は新しいフィールドにチャレンジしている。
北海道コンサドーレ札幌ではアンバサダー「O.N.O(One Hokkaido Nexus Organizer)」に就任。北海道とチームのために活動を始めている。
小野氏 : 今後は全国の子どもたちにサッカーの楽しさを伝えていきたいと思っています。子どもたちとふれあいながらサッカーは楽しいと伝えて、全国を回っていきたいと思っています。
- 小野氏が子どもたちのために活動したいと考えた背景には、自身の少年時代の思い出があるのだという。
小野氏 : 僕自身もセルジオ越後さんにそういった環境を作っていただいたことをいまでも鮮明に覚えているんです。なので、次はそういう役を僕が担うことがいちばん大事なことなんだなと思ってやっていこうと思います。
- 小野氏のサッカーを巡る旅に終わりはない。
Profile
小野 伸二 氏
1979年静岡県沼津市生まれ。元プロサッカー選手。元日本代表。ポジションはミッドフィルダー。FIFAワールドユース準優勝、FIFAコンフェデレーションズカップ2001準優勝、日韓ワールドカップGL1位通過、UEFAカップ優勝、アジア年間最優秀選手賞など、数々のタイトルを獲得。FIFA世界大会、UEFAクラブ国際大会のすべてに出場した唯一の日本人選手としても知られている。2023年12月、サッカー選手を引退した。