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INNOVATORS
公開 2023.10.26

入念な準備と地道な生活の積み重ねが生み出した「信頼」と「実績」
俳優・司会者 谷原章介氏 インタビュー(後編)

谷原 章介 氏インタビュー後編

2021年からフジテレビ「めざまし8」の総合司会として月曜日から金曜日、毎朝視聴者に最新情報を届けている。男性モデルとしてそのキャリアを歩み始めた谷原章介氏だが、「当時、このような毎日を過ごすことになるとは夢に思わなかった」と語る。司会者として情報番組を取りまとめる際に心がけているポイント、仕事と育児との両立、今後取り組んでいきたいことなど、その思いについて話を聞いた。

取材・文/山口和史 Kazushi Yamaguchi 写真/斎藤大嗣 Daishi Saito

どんなに売れても忘れない生活者の「視点」

- 情報番組の総合司会を務めるにあたって意識していることがある。生活者としての視点と司会者としての役割についてだ。

谷原氏 : 番組を進行するにあたっては、司会とはテレビの画面に映る出役の裏方だと思っているんです。プレゼンターの皆さん、コメンテーターの皆さんが話すことを分かりやすく翻訳して視聴者に届けるのが僕の役割です。ひとつのテーマを立体的にして、より皆さんにとって魅力的な会話に作っていく、話題に作り上げていくことと言い換えてもいいかもしれません。

ときに僕自身の意見を求められることもありますが、僕が言いたいことや伝えたいということよりも、番組としてどう伝えるべきなのかということのほうが僕にとっては大事なんです。

- 番組を作るにあたって、自分たちはどうあるべきなのかを考えた。事故や事件をエンタテインメントのように扱う番組がある。悪事に手を染めた取材対象を攻撃するやり方もある。谷原氏は「そんな番組にはしたくない」と考えた。

谷原氏 : 誰かを必要以上に攻撃して盛り上げることはしたくないんです。必要以上に余計な調理はしたくないと思っています。

いまはどうしても派手な演出が好まれる傾向にあります。でもどこかで自制的に節度を持ってお伝えしたいと思っています。犯罪を犯した方についても、事故を起こした方についても、全人格を否定することは僕にはできないんです。

- 谷原氏の視点は常に視聴者とともにある。視聴者とは市井に暮らす生活者にほかならない。視聴者がいかに楽しんでくれるか、喜んでくれるかを第一に考える。

谷原氏 : そのためには僕自身が生活者であるということが大事なんだと思うんです。たとえば僕にはマネージャーがいて、言えばなんでもやってくれるのかもしれません。しかし、全部『あれやっとけよ』とやらせる立場になってしまうといつか裸の王様になってしまうので、できることは自分でするように気をつけています。

- 谷原氏は夫妻と子ども6人、義理の母と実の父との10人家族で暮らしている。日々の料理、送り迎え、掃除・洗濯といった家事まで、谷原氏が仕事の合間を縫って行っている。売れっ子の俳優・司会者になっても、自然体でパパ友、ママ友とも接する。仕事と家事も両立させる。

谷原氏 : 基本的にはやらなきゃいけないことを優先ですよね。家族が滞りなく生活できるようにすることがいちばん大事なことであって、お金を稼ぐのはその一環でしかありませんよね。お金を稼ぎました、家に入れましたで僕の仕事が終わるわけではないので、ご飯を作る、掃除をする、洗濯をする、送り迎え、いろいろなことをやらなければなりません。

- 料理はそもそも好きだった。その腕前は玄人はだしで、2023年4月には料理本を出版するほどだ(「谷原家のいつもの晩ごはん」マガジンハウス刊)。

谷原氏 : 家族はかけがえのないものです。僕が日々頑張る原動力でもありますし、少なくとも一番下の子が二十歳になるまでは頑張って守っていかなければいけない存在でもあります。

独身の頃はすべてが自分中心で世界は回っているじゃないですか。それが家族、妻や子どものような第三者が増えることで、自分を中心に回っていた円がいつしか真円ではなくなっていくんですよね。複雑な円を描くようになる。

複雑な回り方をして自分優先にできなくなったことで、自分だけだったらできなかった経験をいっぱいさせてもらっています。その経験は僕の人間的な成熟をするため、僕自身の役者としての自分の中の引き出しや土台を作ってくれていると思っています。

- モデルからスタートしたキャリアは俳優として花開き、いまでは情報番組の総合司会を担当するまでに活躍の場を広げていった。

一歩ずつ着実に自らのステージを広げていった谷原氏は、将来についてどう考えているのだろうか。

谷原氏 : 家族を大事に、そこは変わらずです。2021年に50歳を迎えて考えたんです。いつまで出役の仕事をしようか? って。司会でも役者でも全部そうなんですけど、いままでみたいに時間の多くをこのまま使って良いのだろうかと。

でも子どもが小さくて稼がなければいけませんから仕事はするのですが、一番下の子が二十歳または学業を卒業したあたりで、いまみたいなペースで仕事をして稼ぐということから距離をおいて、本当にしたいと思うことをできたらいいなと思っています。

<前編はこちら>

<中編はこちら>

Profile

谷原 章介 氏

1972年、神奈川県横浜市生まれ。1992年『メンズノンノ』の専属モデルに。1995年に映画「花より男子」で俳優デビュー。以後、二枚目役からユーモラスな役まで幅広く、映画、ドラマ、舞台で活躍する。2000年代からはバラエティ番組にも挑戦。その柔和で庶民的な人柄が人気を博し、やがて司会業にも挑戦。「王様のブランチ」、「パネルクイズ アタック25」など数多くの番組でMCを務める。2021年からは朝の情報番組「めざまし8」の総合司会に就任。