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公開 2023.08.14

徒手空拳から 武井氏 : 百獣の王を目指す男。を生み出した戦略的アプローチ
タレント 武井 壮氏 インタビュー(後編)

武井 壮 氏インタビュー後編

あらゆる動物を自分の肉体だけを武器に倒せると豪語する「百獣の王」キャラで、芸能界で独自のポジションを確立する武井壮氏。アスリート出身のタレントは数え切れないほど存在する中、一線を画したタレント像を表現し続けている。
ブレイクを果たした武井氏のもとには、バラエティ、ドラマ、映画、CMとオファーが殺到する。人気タレントとなった武井氏が目指す次のステージは? 百獣の王のこれからについて話を聞いた。

取材・文/山口和史 Kazushi Yamaguchi 写真/斎藤大嗣 Daishi Saito

デビューからブレイク、そしてCM起用のゲームチェンジ

武井氏:動物の倒し方を話術に全部落とし込んでいく練習は繰り返し行いました。図鑑を見ながらページを開いて指を指した動物を、噛まずに楽しい話術で倒していく練習です。落語のように自分で質問して自分で答えるのですが、これがいい練習になるんです。

僕のパフォーマンスを見た人はこんなことを聞いてくるだろうという想定内の質問だけではなく、違ったアングルからの質問でも同じオチに向かって流し込めるトークを作っていきました。トークにはランダム性がありますから。

また、誰から茶々を入れられても反論できる、しかもその内容が面白くて意味が分からないけどたしかにそうだね、と言わざるを得ない絶妙なラインを突く返しを毎晩何時間も練習していました。自分で質問して、答えて、自分が笑っちゃうまで。

- 動物の生態に詳しい芸人と仲良くなり、夜毎街に繰り出した。そこでの会話を持ち帰り、ブラッシュアップを繰り返した。絶対にこれはウケる、そう確信した。

あとはどの番組で披露すれば一番効果的なのかを探っていた頃、フジテレビのプロデューサーと出会いデビューが決まる。その番組については現在でもすべてのシーンを鮮明に覚えているという。

武井氏:世の中の人が広く受け止めて大笑いしてくれたのが実感として分かるんです。番組を見た人がSNSで『ヤバいやつがいる』と拡散して大きな波になっていくのを見たときには感動しましたし、39年間、いろいろ積み重ねてきたことがこのように自分の商品になるんだなとか、やっとひとつ形になったんだなとか、いろいろな思いが胸をよぎったんです。

起業家の方たちが商品やサービスを生み出して世にリリースして受け入れられたときと似た感動なんじゃないですかね。

- ブレイクしてから武井氏を取り巻く環境は一変した。30代のすべてを費やして西麻布で知り合った芸能人やスタッフたちが、次々と武井氏を自らの番組に呼んでくれた。デビューから3ヵ月後には「笑っていいとも!」のレギュラーも決まった。

武井氏:CMも決まるというゲームチェンジが起きたのにはさすがに驚きました。当時、マネージャーにCMだけは来ない、無理だよと話していたのに。

- CMは、クライアントである企業はもちろん電通や博報堂といった大手広告代理店からの信用がなければオファーは来ない。ついこの間まで家もない、仕事もしていない「百獣の王」
にCMの依頼が来るはずがない。そう思っていた。
ところがデビューから2年目の2013年には、8社のCMに起用され武井氏 : タレントCM起用社数ランキング。の5位に入る大ブレイクを果たす。

武井氏:スキャンダルも起こさなかったのでだんだんと信用も生まれていきました。やがて冠番組ができはじめて『うそだろ』と驚いていると、レギュラー番組も増えていきました。2018年頃、一番多い時期には18本抱えていました。

- デビューから5年間は正月も休まず働いた。睡眠時間は1日1時間寝られるかどうか。当時の生活を「恐ろしい渦の中にいたような」と武井氏は振り返る。

武井氏:マネージャーにも埋められるところは全部埋めろ、休みやオフはいらないと話していたんです。自分も百獣の王・武井壮を演じることに本気になっていたし、これでいけるところまでいってやろうと思っていました。

そもそも楽しかったのもあるし、僕のビジネスだと思っていた世の中の人に知ってもらうという作業がこれ以上なく順調に進んでいったのがうれしかったんですね。あらゆる方々のサポートを受けて、あらゆるクライアントさんのオファーをいただいて、僕のビジネスが転がりだした時期でした。

次に目指すのは「世界」。百獣の王が見据える未来

武井 壮 氏
- やがて武井氏のなかに、自分は広告ビジネスの担い手のひとりであるという自覚が芽生える。クライアントから多額の報酬を、しかも前払いで受け取っている。クライアントとの契約を果たすため、自分はどのように振る舞わなければならないのか。

武井氏:クリーンでいないと成立しないんですよね。僕が大麻を吸っていたら、悪い飲み方をして乱痴気騒ぎをしていたら誰もオファーしません。僕は自分で当たり前に引き締めないといけないんです。だからお酒も飲まないし、飲み屋にもほとんど行かないし、当然、クスリなんか絶対にやらないし、タバコすら吸わない。
僕の信用を高めるためには、彼は世の中の人が楽しんでいることを排除して、その時間に夜中であってもトレーニングして日々成長している人なんだというイメージを戦略的に作らなければならないと3年目くらいから思うようになったんですね。CMが決まりだした頃からこれは自分でセキュリティをしっかりしないと恐ろしいことになると感じ始めたんです。
上場を目指し始めた企業のような感じだったんじゃないですかね。コンプライアンスもガバナンスもしっかりしないと一撃で終わってしまうよ、もしくは上場できないよということを自覚するターニングポイントだったんだと思うんです。

- スポーツに打ち込んだ20代、40歳までの芸能界デビューを目指して準備をした30代、39歳でブレイクし目の回るような忙しさの中を駆け抜けた40代。2023年、武井氏は50歳になった。次の目標を世界に定め、歩みを止めることはない。

武井氏:キーワードは『ヒーロー』です。ヒーローは世代を問わず、歴史を問わず、時代を問わず大人気です。ヒーロー映画はいつの時代にもある。アニメも漫画もヒーローはいっぱいいる。でも実在のヒーローがいないなって。
ならば実在のヒーローになりたい。本当にヒーローになろうとしている人がいるというのは面白いなって。そこで世界で勝負してやろうと思っています。
もしかしたらそのうち本物の実在のアイアンマンのような人が生まれるかもしれません。50代の10年間でそんなキャラクターを作りたい、これが次の僕のプロジェクトです。

- 百獣の王から世界のヒーローへ。武井氏は世界へと羽ばたいていく。

<前編に続きます>

<中編に続きます>

Profile

武井 壮 氏

1973年5月6日東京生まれ。小学校時代からスポーツ理論を研究、独自のトレーニング理論を確立する。大学時代からは陸上に取り組み、短距離、十種競技の選手として活躍。日本チャンピオンとなる。将来の芸能界デビューを見据えて20代、30代を準備期間として過ごし、39歳で武井氏 : 百獣の王を目指す男。としてデビュー。テレビ、ラジオ、映画、CMなど多方面で活躍中。

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