脅迫罪

脅迫罪の被害を訴えるには

脅迫罪とは

生命、身体、自由、名誉または財産に対して害を加える旨を告知して人を脅迫した場合には、刑法222条1項の脅迫罪が成立します。

「脅迫」とは、人を畏怖させるに足りる害悪の告知、すなわち「客観的に判断して、一般人が恐怖を感じる程度に害悪を告げること」を指します。
一般人が恐怖を感じる程度の害悪の告知がされればよく、被害者が現実に恐怖心を抱いたことは犯罪の成立とは無関係です(抽象的危険犯)。

裁判例(大阪高判昭和61年12月16日(高刑集39・4・592)、高松高判平成8年1月25日(判時1571・148))は、脅迫罪が成立するのは、自然人に対しその生命、身体、自由、名誉または財産に危害を加えることを告知する場合に限るとして、法人に対しての脅迫罪の成立を否定し、法人の代理人や代表者への害悪の告知とみられる場合に限って脅迫罪の成立を認めています。

このように、害悪の告知は本人(同条1項)か親族(同条2項)の法益に対するものである必要があり、法人や、本人の恋人への害悪の告知は脅迫罪の対象とはなりません。

刑法222条 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。

脅迫罪は、2年以下の懲役または30万円以下の罰金が法定刑となっているため、「長期5年未満の懲役若しくは禁固又は罰金に当たる罪」として、公訴時効は3年となっています(刑事訴訟法第250条2項6号)。

公訴時効とは、犯罪が終了してから一定期間が経過することで検察官が起訴できなくなる期間のことです。
脅迫罪の場合には、脅迫行為が終わった時点(最後の脅迫行為があった時点)で犯罪が終了したとして公訴時効の進行が開始します。

強要罪との違い

脅迫罪に似た犯罪として、「強要罪」(刑法223条)があります。
脅迫罪が脅迫行為自体で犯罪が成立するのに対して、強要罪は、脅迫(または暴行)によって「他人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した」場合に成立することが特徴です。
「義務のないこと」としては、土下座させられることや辞職願を提出させられることなどが考えられ、また、「権利の行使」としては株主総会への出席など法律上の権利のみならず、競技大会への出場などの権利まで広く保護されると考えられています。

刑法223条 生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、三年以下の懲役に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする。
3 前二項の罪の未遂は、罰する。

刑事手続と民事手続

被害者が脅迫の被害を受けたことについて申告するなどにより、捜査機関が犯罪を認知すると捜査が開始されます。
「当該行為が犯罪となるか」、「刑罰の有無」、「量刑(どのような刑罰を科すか)」を判断する手続きを「刑事手続」といいます。
それに対して、犯罪による被害について、治療費や慰謝料などの損害賠償を求める手続きが「民事手続」です。

脅迫事件の被害にあわれた場合には、この刑事手続と民事手続の双方によって救済を受けることができます。

捜査機関は、自らの判断で、犯罪が発生していると考えたときからいつでも捜査を開始することができます。
しかし、脅迫事件は必ずしも公然と行われるものではないため、被害者やその家族などが捜査機関に申告しない限り、捜査機関が捜査を開始するきっかけを得られないこともあります。
その場合、被害届の提出や告訴・告発を行うことで、捜査機関に捜査の端緒を与えることが可能となります。

なお、被害届とは、単なる捜査機関に対する犯罪事実の申告であって、処罰を求める意思が表示されている告訴・告発とは区別されます。
加害者への刑事罰に関心がない場合でも、被害届を出すことで、加害者が示談交渉に真摯に取り組み、示談額や慰謝料請求額が引き上げられる可能性があります。

脅迫事件に関する刑事手続き

脅迫事件の被害にあったら気をつけたいこと

脅迫された場合でも、その証拠がなければ、警察が対応してくれない、裁判上で立証できないという事態になりかねません。
会話や通話の録音、メールやSNSの内容、現場に居合わせた人の証言などを残すことができれば有利に働くでしょう。
これらの証拠も時間の経過とともに失われてしまうものもあるため、なるべく早く対応することが重要です。

刑事告訴の検討

加害者の処罰を強く求める場合や、被害届を提出したものの警察が受理してくれない、思うように動いてくれないという場合には、告訴を行うことが考えられます。
告訴を受けた捜査機関はすみやかに捜査行うよう努める必要があり、また、警察は事件の書類および証拠物を検察官への送付する義務を負います。その結果、加害者は逮捕されたり起訴されたりすることがあます。

相手から示談の申し入れがあったら

示談とは、被害者と加害者が話し合いのうえ、当事者間で争いを解決する方法をいいます。
示談によって、被害者は法的手続によらず金銭による賠償を受けたり、加害者は被害者に今後は関わらないという内容の約束をさせることもできます。

しかし、示談が成立すれば、捜査機関からは当事者間の争いは解決したものとされ、逮捕されない、不起訴処分とされる、起訴後の示談であれば刑罰が軽くなるということが考えられます。
加害者に対する処罰感情が強いのであれば、あえて示談には応じず、あくまで刑事手続における厳罰を希望することもありえます。

相手が不起訴になった場合

加害者が不起訴になったか否かなど加害者の状況は、警察や管轄検察庁に問い合わせて知ることができます。
また、被害者等通知制度を利用すれば、事件の処理結果、公判期日、刑事裁判の結果などの通知を受け取ることができます。

悪質な加害者が不起訴処分になったことに対して納得できない場合は、検察審査会に処分の当否審査の申立てをし、検察官の不起訴処分の判断が妥当か否かを審査する方法が考えられます。
また、不起訴処分がされた場合でも、民事上の慰謝料請求をすることはできます。

脅迫事件に関する民事手続き

慰謝料、損害賠償の金額

脅迫による損害賠償請求として、被害にあった精神的な損害賠償(慰謝料)のほか、その脅迫が原因で精神科などに通院した場合の通院費や、仕事ができなかった場合の休業損害などの財産的損害を請求できる場合があります。

脅迫事件の場合、損害賠償額の相場といえる金額は数万円から100万円程度まで考えられます。
賠償額は脅迫の内容や態様によって左右され、悪質性が高いことは高額になる要素といえます。

弁護士費用は相手に請求できる?

日本においては、アメリカなどで採用されている弁護士費用の敗訴者負担制度があるわけではないため、被害者が負担した弁護士費用の全額を相手方に支払わせることは困難なのが実際です。
損害賠償請求訴訟においては、認容される損害額の10%程度が弁護士費用として別途認められるのが一般的です。

脅迫事件の被害を受けてしまった場合に、弁護士に相談するほうがよい理由

被害届の提出や民事訴訟の提起、示談交渉など、弁護士は事件後のさまざまな場面で被害者の方をサポートさせていただくことができます。

時効や、証拠の保全などの観点から、被害届の提出や示談交渉はすみやかに行うことが望ましいといえます。
また、加害者から示談を持ちかけられた場合に、適切な判断をするにも専門的な知識と経験を有する弁護士の助言が必要です。

脅迫の被害にあわれた場合は、なるべくお早めに弁護士にご相談いただくことをおすすめします。

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