傷害罪の被害を訴えるには
傷害罪とは?
「人の身体を傷害した」者は、刑法204条に規定される傷害罪で罰せられる可能性があります。
「傷害」とは、人の生理的機能に対して障害を加える行為、すなわち、人にけがをさせる行為などを指します。
刑法204条
人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
刑事手続と民事手続がある
被害者がその被害を受けたことについて申告し、国家に対して、「当該行為が犯罪となるか」、「量刑(どのような刑罰を科すか)」を判断することを求める手続きを刑事手続といいます。
これに対し、暴行による被害について、加害者側に対して、治療費や慰謝料などの損害賠償を求める手続きが民事手続です。
傷害事件にあった場合には、この刑事手続と民事手続の双方によって救済を受けることができます。
傷害事件で慰謝料請求するには
捜査機関は、自らの判断で犯罪が発生していると考えたときからいつでも捜査を開始することができます。
しかし、傷害事件は必ずしも公然と行われるものではないため、被害者やその家族などが捜査機関に申告しない限り、捜査機関が捜査を開始する端緒(きっかけ)を得られないこともあります。
その場合、被害届の提出や告訴・告発を行うことで、捜査機関に捜査の端緒を与えることが可能となります。
なお、被害届とは、単なる捜査機関に対する犯罪事実の申告であって、処罰を求める意思が表示されている告訴・告発とは区別されます。
加害者への刑事罰に関心がない場合であっても、被害届を出すことで、加害者が示談交渉に真摯に取り組み、示談額や慰謝料請求額が引き上げられる可能性があります。
傷害事件に関する刑事手続の流れについて
1.傷害の被害を受けた直後
傷害事件にあった場合、まずは110番通報すること、そして、被害届や告訴状を提出することが考えられます。
被害を受けた際の現場の状況やそれを保存する防犯カメラ映像、目撃者の証言などの証拠は、時間の経過とともに失われてしまうため、なるべく早く行うことが重要です。
2.被害届の提出
警察に傷害事件について知ってもらうために、被害届を提出します。
被害届により事件の発生を知った警察は、捜査を開始することができます。
傷害罪の公訴時効は10年ですから、事件の発生から10年以内に、公訴提起等、法定の時効停止措置をとる必要があります。
傷害事件の発生から10年以内に被害届を提出したとしても、公訴提起等の時効停止措置がなされない限り、公訴時効が成立してしまい、当該事件について刑事罰を科すことができなくなってしまいますので、注意が必要です。
また、時間の経過とともに証拠は失われて行きますし、時効成立間際に被害届を提出しても、警察に受理してもらえない可能性が高いです。
したがって、被害届の提出は事件発生後、早めの時期に行う方が良いでしょう。
3.刑事告訴の検討
被害者の処罰を強く求める場合や、被害届を提出したものの警察が受理してくれない、思うように動いてくれないという場合には、告訴を行うことが考えられます。
告訴することによって捜査が開始し、捜査機関の裁量によって、加害者は逮捕されたり起訴されたりすることとなります。
もっとも、告訴の手続を必ず行うことができるというわけではなく、捜査機関が、捜査の必要性が低いと判断した場合には、何かと理由を付けて告訴の手続を行ってくれない場合もあります。
4.相手から示談の申し入れがあったら
示談は、被害者と加害者が話し合いのうえ、民事上の紛争を裁判外の合意によって解決することをいいます。
示談を行うことによって、民事訴訟手続を経ることなく、当事者間で合意した金額を受け取ることができますし、今後関わらないという内容の約束をすることもできます(接近禁止条項)。
示談は、あくまで民事上の紛争を解決するものですから、示談が成立したことにより、直ちに刑事上の手続が終了することになるというわけではありません。
ただし、示談が成立すれば、捜査機関からは事件が解決したものと判断され、逮捕されない、不起訴処分とされる、起訴後の示談であれば刑罰が軽くなるといった結果になることが考えられます。
加害者に対して刑事上の処罰を望むのであれば、示談には応じず、引き続き刑事手続を進めるのがよいでしょう。
5.相手が不起訴になった場合
加害者が不起訴になったか否かなど加害者の状況は、警察や管轄検察庁に問い合わせて知ることができます。
また、被害者通知制度を利用すれば、事件の処理結果、公判期日、刑事裁判の結果などの通知を受けることができます。
悪質な加害者が不起訴処分になったことに対して納得できない場合は、検察審査会に不服申立をし、検察官の不起訴処分の判断が妥当か否かを審査する方法が考えられます。
ここで、再度不起訴処分の判断がされた場合には、再度検察審査会に不服申立を行うことが可能です。
なお、不起訴処分がされた場合でも民事手続をとることはできますし、不起訴処分の理由によっては、民事手続上の慰謝料請求が認められる場合もあります。
傷害事件の被害者に対して弁護士がお役に立てること
傷害事件の被害にあわれた場合、告訴・告発を行ったり、慰謝料請求などの民事上の手続きを行ったりと、弁護士は何らかの協力ができるに過ぎない立場ではあります。
しかし、刑事手続の全容や進捗状況を被害者が独自に把握することや、加害者の対応を被害者自身が行うことは、知識的にも精神的にも困難であると考えられます。
傷害罪の公訴時効は10年となっていますが、証拠との関係で、被害届の提出や民事訴訟の提起を急がなければならないことは言うまでもありません。
また、加害者に示談を持ち掛けられた場合に、適切な判断をするにも専門的な知識と経験を有する弁護士の助言が必要です。
このように、弁護士であれば事件後迅速な助言と対応が可能です。
傷害事件に関する民事手続きの流れについて
慰謝料、損害賠償の相場
傷害事件に際して損害賠償請求をする場合、被害にあった精神的な損害を補填する慰謝料と、けがの治療費や入院費、勤務できないことによる休業損害などの財産的損害を補填する損害賠償請求権があります。(慰謝料は損害賠償請求権の一部です。)
損害賠償の金額は、特に傷害の程度によって左右されます。
全治1~2週間程度のけがであれば30万円から150万円、全治3週間以上のけがであれば50万円~180万円程度が損害額として認容されることもありますが、実際の金額はケースごとに大きく異なります。
弁護士費用は相手に請求できるのか
日本においては、アメリカなどで採用されている弁護士費用の敗訴者負担制度は認められていないため、基本的に弁護士費用を相手方に請求することはできません。
しかし、傷害事件に起因する不法行為に基づく損害賠償請求の場合には、例外的に被疑者は弁護士費用を請求することも認められており、損害賠償請求認容額の10%程度が弁護士費用として請求できることとされています。
「暴行罪」と「傷害罪」の違い
暴行罪と傷害罪の違いとは
傷害事件の被害にあった場合、被害者に生じる被害としては、骨折など全治数か月の比較的重いものから全治1~2週間の擦り傷といった比較的軽傷のものまで、幅広く想定できます。
被害者に生じた傷害結果が重いか軽いかにかかわらず、被害者の生理的機能に対して障害を生じさせる加害者の行為については、傷害罪の適用を受ける可能性があります。
ここでいう「傷害」には、けがをさせられた場合のように、外部から認識できるもののほか、下痢や嘔吐頭痛や睡眠障害など、外部からは認識できない、被害者の内部的な面に生理的障害を引き起こすことについても含まれます。
これに対して、暴行罪は、人の身体に対して有形力の行使(殴る、蹴るなどの行為)を行った場合に成立する犯罪であるという点は、傷害罪と同様ですが、暴行罪は、傷害結果が発生しなかった場合にのみ成立する犯罪であるという点が、傷害罪とは異なります。
すなわち、暴力行為の結果として、被害者がけがをすれば傷害罪、けがをしなければ暴行罪が成立することになります。
傷害事件でけがをした場合の治療費について
傷害事件によるけがについて治療費が発生している場合には、法律上は、加害者に対して全額の損害賠償請求をすることが可能です。
しかし、保険適用外の治療により高額診療となっている場合や医学的に必要とは言い難い過剰診療があると判断された場合には、全額請求することはできないこともあります。
傷害を受けた場合のけがは、健康保険は使える?
傷害事件によるけがの場合にも、健康保険の適用があります。
健康保険に加入している場合、被害者は自己負担の3割を加害者に対して請求することが可能です。
残りの7割は保険者が加害者に対して請求することとなります。
ご家族が傷害事件に巻き込まれてしまったら
傷害事件の公訴時効は10年となっていますが、証拠との関係で、被害届の提出や民事訴訟の提起を急がなければならないことは言うまでもありません。
また、加害者に示談を持ち掛けられた場合に、適切な判断をするにも専門的な知識と経験を有する弁護士の助言が必要です。
加害者の処罰や被害回復を素早く適切に行うためには、なるべく早く弁護士に相談することをお勧めいたします。