Authense社労士法人コラム
公開 2024.09.10

社会保険の保険証が届くまでには何日かかる?発行前の対応も交えて社労士がわかりやすく解説

従業員が社会保険に加入すると、従業員の氏名が記載された保険証が発行されます。

社会保険の保険証の発行には、どの程度の期間がかかるのでしょうか。
また、社会保険の保険証発行手続きにおいて、企業はどのような点に注意する必要があるのでしょうか?

今回は、社会保険の保険証について、社会保険労務士がくわしく解説します。

社会保険とは

保険証について確認する前に、社会保険について解説します。
「社会保険」という言葉は何気なく使用することも多いものの、広義で使用する場合と狭義で使用する場合とで、次のように意味合いが異なります。

広義の社会保険

広義の社会保険とは、公的保険制度全般を意味します。
この場合、「社会保険」には、次の5つの公的保険制度が含まれます。

  • 健康保険:業務外の病気や怪我などの事故に備える保険制度
  • 厚生年金保険:老齢や障害などに備える保険制度
  • 介護保険:要介護となった際の介護サービス利用に備える保険制度
  • 雇用保険:失業に備えたり、再就職を支援したりする保険制度
  • 労災保険:業務上や通勤中の病気や怪我などに備える保険制度

狭義の社会保険

狭義の社会保険とは、先ほど紹介した5つの公的保険制度のうち、次の3つの公的保険制度を指します。

  • 健康保険
  • 厚生年金保険
  • 介護保険

この場合、雇用保険と労災保険は、まとめて「労働保険」と呼ばれます。

社会保険の保険証とは

社会保険の保険証は、公的な医療保険に加入していることを示す証明書です。

日本では国民皆保険制度がとられており、すべての国民が何らかの公的医療保険に加入しています。
そのため、病気や怪我で病院にかかっても医療費をまるごと負担することなく、原則として3割(一定の場合は1割または2割。この記事では以下、解説をシンプルとするために3割であると仮定します)の窓口負担で医療を受けることが可能です。
また、月の窓口負担が一定額を超えた場合は高額療養費制度の対象となり、一定額を超えた分の還付を受けることができます。

窓口負担分の3割を除く7割相当分の医療費は、医療機関が値引きをしているわけではありません。
7割相当分の医療費は、医療機関が審査支払期間を通じて医療保険者に請求し、医療保険者から医療機関に支払われます。
つまり、被保険者や事業者が納めた健康保険料(または、国民健康保険料)から、7割相当分の医療費が支払われているということです。

しかし、万が一、治療に訪れた患者が公的医療機関に加入していなかった場合、医療機関は7割相当分の医療費を医療保険者に請求することができません。
この場合、窓口で患者から3割しか医療費を受け取っていなければ、7割部分の医療費を回収できないおそれが生じます。
そのため、初診の場合はもちろん、定期通院をしている場合であっても、少なくとも毎月1回は医療機関から保険証の提示が求められます。

保険証の提示ができない場合は、原則として一時的に医療費の全額(10割)を窓口で支払わなければなりません。
単に持参を失念しただけであれば、その後保険証をその医療機関に提示することで、医療費の7割相当額が返還されます。

保険証には3種類ある

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先ほど解説したように、日本ではすべての国民が公的医療保険に加入しているはずです。
しかし、公的な医療保険には主に3つの種類があり、加入している医療保険の種類によって保険証の色や形状が異なります。
ここでは、主な保険証の種類を紹介します。

社会保険(被用者保険)

1つ目は、社会保険(被用者保険)です。

社会保険(被用者保険)とは、会社員や公務員などとその扶養家族が加入できる公的医療保険制度です。
従業員を社会保険に加入させている場合、従業員はこの社会保険(被用者保険)に加入することとなります。

社会保険(被用者保険)は、保険者によってさらに3つの種類に分類されます。

協会けんぽ

協会けんぽとは、健康保険組合がない企業(主に、中小企業)に勤める従業員やその扶養家族が加入する健康保険です。
協会けんぽは、全国健康保険協会が運営しています。

協会健保に加入している場合、保険証の色は原則として水色またはオレンジであり、保険者欄には「全国健康保険協会〇〇支部」と記載されています。
なお、平成20年の協会けんぽ設立以前は保険証の色がオレンジであり、今もオレンジ色の保険証を持っている人は加入期間が長いことがわかります。

組合健保

組合健保とは、単独の企業や同業者団体が設立する健康保険組合が保険者である健康保険です。
主に、大企業の従業員やその扶養親族が加入しています。

組合健保に加入している場合、保険者欄には「〇〇健康保険組合」などと記載されています。
保険証の色は組合ごとに異なるものの、赤やピンクであることが多いようです。

共済組合

共済組合とは、公務員や私立学校の教職員やその扶養親族が加入できる健康保険です。
保険者欄には、「〇〇共済組合〇〇支部」などと書かれています。
保険証(組合員証)の色は、黄色です。

国民健康保険

2つ目は、国民健康保険です。

国民健康保険とは、自営業者や勤務先の健康保険の加入要件を満たさない者、年金受給者などが加入する公的医療保険です。
原則として市町村と都道府県が運営しており、自治体によって保険証の色が異なります。

また、開業医が加入できる「医師国保」や弁護士が加入できる「弁護士国保」など、一定の職業に従事する自営業者を対象とした健康保険組合もあります。

後期高齢者医療制度

3つ目は、後期高齢者医療制度です。

後期高齢者医療制度とは、75歳以上の後期高齢者と、65歳から75歳未満で一定の障害認定を受けた者を対象とする公的医療保険です。
都道府県単位で設けられた広域連合が運営しており、保険証の色や形状は自治体によってさまざまです。

従業員が社会保険(健康保険)に加入する条件

企業としては、自社で雇用する従業員のうち、誰が社会保険の対象となるかが重要です。
ここでは、企業に勤める従業員のうち、社会保険に加入要件を満たす者について解説します。

すべての正社員

すべての正社員は、社会保険の加入対象となります。
これは、会社の規模や従業員数などによる違いはありません。

一定のアルバイト・パート

アルバイトやパートのうち、週の所定労働時間と1か月の所定労働日数がいずれも正社員の4分の3以上である場合は、社会保険の加入対象です。
これは、会社の規模や従業員数などによる違いはありません。

また、これに当てはまらない場合であっても、次の要件をすべて満たすパートやアルバイトは社会保険の加入対象となります。

  1. 企業が常時使用する従業員数が101人(2024年10月1日以降は51人)以上である
  2. 週の所定労働時間が20時間以上である
  3. 所定内賃金が月額8.8万円以上である
  4. 2か月を超える雇用の見込みがある
  5. 学生ではない

自社や自社の従業員について社会保険の加入義務があるか否かを確認したい場合は、社労士へご相談ください。

社会保険の保険証発行には何日かかる?

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社会保険の対象となる従業員を新たに雇用する場合、雇用主である企業が社会保険の加入手続きをすることとなります。
では、社会保険の保険証発行には、どの程度の日数がかかるのでしょうか?

申請から発行まで1週間から2週間かかることが一般的

協会けんぽの場合、申請から保険証が発行されるまでには、1週間から2週間程度かかることが一般的です。
ただし、4月など入退社の多い期間では、1か月近くかかることもあります。

組合健保の場合はその組合によってかかる期間がまちまちであるため、組合に確認するとよいでしょう。

保険証が届くまでの間は仮の証明書で対応する

資格を取得しても保険証が届くまでの期間は、従業員の手元に保険証がありません。
しかし、その間に医療機関受診の必要が生じる場合もあるでしょう。

協会けんぽの場合、勤務先を管轄する年金事務所に出向くことで、仮の証明書(健康保険被保険者資格証明書)の発行を受けられます。
最短で健康保険被保険者資格証明書の発行を受けるには、日本年金機構のホームページから「健康保険被保険者資格証明書交付申請書」をダウンロードして、本人が年金事務所へ出向くとよいでしょう。

時間に余裕がある場合は、会社が代理で手続きすることもできます。
会社の担当者が代理する場合は、会社または本人からの委任状が必要です。

なお、この「健康保険被保険者資格証明書」の有効期間は、証明日から20日以内とされています。

社会保険の保険証発行における企業側の注意点

社会保険の保険証発行において、企業はどのような点に注意する必要があるのでしょうか?
ここでは、主な注意点を2つ解説します。

被保険者資格取得届の提出が必要である

社会保険の対象となる従業員を新たに雇用した場合などには、入社から5日以内に、会社が「被保険者資格取得届」と「被扶養者異動届」を提出しなければなりません。
被保険者資格取得届などの提出先は、日本年金機構の事務センターまたは管轄の年金事務所です。

これらを提出しないと保険証の発行手続きが進まないため、早急に手続きを行いましょう。

発行までにかかる期間を従業員に伝えておく

先ほど解説したように、社会保険の加入手続きから保険証の発行までには相当の期間がかかります。
保険証が発行されるまでの期間について従業員は把握していないことが多いため、すぐに保険証が届かないことをあらかじめ伝えておくとよいでしょう。
併せて、保険証が届く前に受診が必要となった場合の対応についても伝えておくと親切です。

社会保険の保険証にまつわるよくある質問

最後に、社会保険の保険証にまつわるよくある質問とその回答を3つ紹介します。

保険証にはどんな情報が書かれている?

社会保険の保険証には、さまざまな情報が書かれています。
主な記載事項は次のとおりです。

  • 被保険者の基本情報:氏名・生年月日など
  • 保険者:保険者が協会けんぽであるのか、健保組合であるかなど
  • 事業所名:勤務先の名称
  • 資格取得年月日:その公的医療保険に加入した日

また、保険証に記載されている8桁の保険者番号は、次の情報から構成されています。

  • 最初の2桁:法別番号(加入している医療保険の種類を示す番号)
  • 次の2桁:保険者が所在している都道府県を表す番号
  • 次の3桁:保険者別番号(保険者ごとの固有番号)
  • 最後の1桁:番号の誤りを検証するための番号

保険証がない状態での緊急時の医療費はどうなる?

保険証が手元にない状態で病院を受診する必要がある場合、原則として窓口で医療費全額(10割)の負担が必要となります。
その後、保険証を医療機関に持参することで、7割分の医療費について返還が受けられます。

ただし、保険証がまだ届いていなくても、先ほど解説した「健康保険被保険者資格証明書」があれば、はじめから3割の負担で医療を受けることが可能です。

従業員が退職したら保険証はどうする?

従業員が会社を退職する場合、退職する従業員から保険証を預からなければなりません。
なぜなら、会社は従業員の退職から5日以内に保険者に対して被保険者資格喪失届を提出する必要があり、これとともに退職した従業員の保険証を返却する必要があるためです。

なお、従業員は退職日の翌日から社会保険の被保険者資格がなくなり、保険証も使えなくなります。
従業員はその後転職先の会社で社会保険に加入したり、就職しない場合は国民健康保険に加入したりするなどの手続きをすることとなります。

まとめ

社会保険制度の概要や、社会保険の保険証について解説しました。

社会保険の加入要件を満たす従業員を新たに雇用するなどした場合には、会社は社会保険の加入手続きをしなければなりません。
しかし、手続きをしてもすぐに保険証が届くわけではなく、加入手続きから保険証の受領までには1週間から2週間程度がかかります。
そのため、会社としては従業員に対して、保険証が届くまでの期間を伝えておくとよいでしょう。

資格取得後、保険証が届くまでの間に緊急の受診が必要となる場合は、原則としていったん全額(10割)の医療費を負担したうえで、後日保険証を提示して7割相当分の返還を受けることとなります。
また、年金事務所で発行を受けた「健康保険被保険者資格証明書」を提示すれば、はじめから3割の負担で医療を受けることが可能です。

Authense 社会保険労務士法人では、社会保険に関する企業の手続きを代行しているほか、労務に関する相談に対応しています。
社会保険や保険証に関する手続きの代行を希望する際や、労務管理体制を構築したい際などには、Authense 社会保険労務士法人までお気軽にご相談ください。

監修者

Authense 社会保険労務士法人
代表 社会保険労務士

東京都社会保険労務士会所属。成蹊大学文学部英米文学科卒業。 創業間もないベンチャー企業だったAuthense法律事務所と弁護士ドットコムの管理部門の構築を牽引。その後、Authense社会保険労務士法人を設立し代表に就任。企業人事としての長年の経験と社会保険労務士としての知見を強みとする。

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