X(旧Twitter)で、「インターンシップでタダ働きをさせられた」という経験を描いた漫画が話題になりました。
インターンシップにまつわるトラブルが増えている中、インターンを採用する企業はどのような点に注意しなければならないのでしょうか。
無給のインターンシップが違法になる例や労働基準法との関係について、社会保険労務士が解説します。
目次
話題となった無給インターンシップの事例
Xで話題になったインターンシップの内容は、「デザイン職のインターンシップとして働いていたにもかかわらず、デザイン職の募集は都合により中止となり、働いた期間の給料も出なかった」というものです。
あまりに酷い話だと話題になり、ポストの閲覧数が1000万件を越えるなど、大きな反響を呼びました。
「就職活動のため」「職業体験ができる」という理由で企業のインターンシップに参加する学生は増えています。
インターンシップは会社の実際の業務を体験でき、会社の社風を知ることもできるため、入社後のミスマッチを防ぐ意味でも企業側・学生側双の方にメリットがあります。
中には、学生を労働力として業務をさせる、通常のアルバイトと変わらないインターンシップも多くあります。
「インターンだから」という理由だけで給料を支払わなくてよいと考えるのは大きな誤解です。
しかし、実際に「社員と同じ仕事をさせられたのに無給だった」「最低賃金以下の給料で働かせられた」といった違法なインターンシップの相談も珍しくありません。
給料のもらえないインターンシップは違法?
無給のインターンシップが違法だという話を聞くと、「インターンって給料がもらえるの?」という疑問をもつ人も多いと思います。
まず、無給のインターンシップ自体は違法ではありません。
インターンシップとは、学生が在学中に就業体験をするプログラムです。
学生が企業で就業体験をすることで、自身の将来のキャリアを考えたり、実際の仕事の現場を知るための機会になるため、無給のインターンシップが本来の形といえます。
しかし、インターンシップの内容によっては無給にすると違法になってしまう場合もあります。
それは、インターンシップが「労働」に該当する場合です。
インターンシップの内容が労働に該当するかどうかは、「指揮命令を受けているか」が重要な判断基準になります。
具体的には、以下のような要件を満たす場合です。
- 会社から具体的な業務指示を受けている
- 他の従業員と同等の業務をこなす事が求められている
- 1日の拘束時間が長く、長期間におよんでいる
- 見学・体験型ではない
総じて、短期のインターンシップは労働者性が認められにくく、長期のインターンシップは労働者性が認められやすい傾向があります。
ただし、実際にインターンシップが労働にあたるか否かは、前述した基準を踏まえ、その実態で判断されます。
そのため、「短期インターンだから労働者ではない」などと安易に判断することはできませんので注意が必要です。
インターンシップで労働者性が認められないプログラムは以下のようなものです。
- 社員の業務を近くで見学する
- 模擬ケースの業務体験
- ワークショップ
- グループディスカッション
いずれも企業にとっては利益に直結しない内容であり、学生が企業の事を知るための機会として「体験」や「見学」が主目的となっているのが特徴です。
違法な無給インターンシップの例
前述したとおり、無給のインターンシップ自体は違法ではありません。
ただし、インターンシップの内容によっては、無給にすると違法になってしまう場合もあります。
では、違法なインターンシップにはどのようなものがあるのでしょうか。
具体例を見てみましょう。
【違法例①】無給で実際の業務をさせられる
企業の利益につながるような業務をさせ、労働力として扱っているのに無給だと違法になります。
また、期間が長期になるほど労働力として扱われる傾向があり、実施の業務内容が通常のアルバイトと変わらないことも多いです。
例えば、従業員の指示を受けてリサーチを行なったり、コピーやファイリングなどの雑務の処理を行なったり、テレアポを行うなど、企業の利益につながるような実務を行う場合です。
こういった労働をさせたいなら、通常の労働者と同様に給料を支払い、有給のインターンシップとすべきです。
【違法例②】給料が安すぎる
例え給料が払われていても、最低賃金以下で働かされている場合は違法になります。
例えば、東京都の会社で7時間働いた時の給料が5000円だとすると、時給に換算すると714円になります。
東京都の最低賃金は現在1163円なので、最低賃金を下回っています。
これは違法なインターンシップです。
また、インターンシップの労働時間を把握していない会社もあります。
給料を支払っていても、最低賃金を下回っている場合は違法になる可能性があるので、「給料を支払っているから適法」と安心せずに注意しなければなりません。
【違法例③】内定者の入社前の無給インターンシップ
内定者は、卒業後に社員として働くことが予定されているため、「入社前までに業務経験をしておく方が入社後スムーズに仕事ができる」などの理由で、入社前に学生をインターンシップとして働かせる例が多く見られます。
しかし、内定者に実際の業務を行わせているのに無給だったり、最低賃金を下回る給料しか支払わなかった場合は違法になる可能性があります。
また、「内定者研修」という名目で入社前に研修を実施する例もあります。
よく「内定者研修は違法なのか」という質問を受けますが、研修の参加を義務付けつつ給料を支払わなかった場合は違法になる可能性があります。
【違法例④】業務委託契約のインターンシップ
「残業代を払いたくないから」「社会保険に入れたくないから」などといった理由で、学生インターンを業務委託契約にしている例があります。
業務委託契約が直ちに違法になるわけではありませんが、業務委託契約を結んでいても、(1)会社側が業務内容や進め方の指示を行っている、(2)勤務時間や勤務場所の拘束があるなど、インターンシップの実態が労働者と判断されれば、未払賃金などの問題が発生します。
実際のインターンシップで「学生が会社からの細かい指示を受けずに仕事を行い、自分の裁量で仕事をできる」という例は少なく、実態は雇用契約に該当することが多いです。
業務委託契約をインターンに適用するのは違法になる可能性が高いので注意が必要です。
インターンシップにも労働基準法が適用されるのか?
「インターンは通常の従業員と違うから労働基準法は適用されない」という誤解をしばしば見かけます。
通常の労働者であれば当たり前に適用している有給休暇や社会保険などを「インターンだから」という理由で適用しなくても大丈夫、もしくは適用されないと、会社側・学生側双方が誤解しているのです。
しかし実際は、インターンシップでも労働者であれば労働基準法は適用されます。
前述したとおり、「労働者」であるかどうかは、使用者の指揮命令下にあるかどうかで判断されます。
インターンシップが「労働者」に該当すれば労働基準法などの法律が適用されます。
具体的には、労働者として次のような法的な保護を受けます。
有給休暇の取得
年次有給休暇は正社員のみの制度ではないので、以下の2つの条件を満たせばインターンシップでも有給休暇を取得することができます。
- 継続して6か月以上勤務していること
- 所定労働日数の8割以上出勤していること
付与される日数は、所定労働日数と継続勤務年数に応じて決まります。
1つ注意しなければならないこととして、内定者インターンシップの場合、正社員になった際に「勤続年数をリセット」という意識になりやすいことです。
内定者インターンシップを経て正社員になった場合は、勤続年数は通算されますので注意が必要です。
残業代の請求
法定労働時間(1日につき8時間、1週につき40時間)を超えて労働させた場合、他の従業員と同じく残業代を支払わなければなりません。
無給のインターンシップで労働させてしまった場合、給与の定めがない場合もあります。
そういった場合は、最低賃金が適用されます。
実際に労働した時間に最低賃金をかけた分の給料や残業代の請求を受ける可能性があります。
最低賃金
時間に対して支払う給料は最低賃金以上でなければなりません。
日給制の場合は、実際に働いた時間で日給を割った際に最低賃金未満になってしまわないよう注意が必要です。
社会保険、雇用保険への加入義務が発生する場合も
インターンシップであっても通常の労働者と変わりがありませんので、各種保険への加入が必要となります。
- 労災保険:労働者であれば対象になります。インターンシップ中に事故や怪我を負った場合に補償を受けることができます。
- 雇用保険:週の労働時間が20時間以上で、31日以上雇用される見込みがある場合に加入することになります。条件を満たしても学生は加入不要ですが、夜間部の学生や内定者インターンは、条件を満たした場合は加入が必要です。
- 社会保険:所定労働日数・所定労働時間が通常の社員の3/4以上の場合は加入が必要です。雇用保険と違い、学生でも対象になります。
インターンシップは通常の労働者とは違った扱いができるようなイメージを持つ方が多いですが、労働させる場合には通常の労働者と同じ法律の適用を受けますので、注意が必要です。
インターンシップを実施する場合の注意点
このように、一口にインターンシップと言っても「実際どのような事をするのか」によって、その取扱いが大きく変わってきます。
では、企業がインターンシップを実施する場合、どのような点に注意して進める必要があるのでしょうか。
(1)インターンシップの目的を整理する
労働力として学生に業務をしてもらうことが目的なのか、職業体験を通して企業を知ってもらうための採用目的なのか、どちらにあたるのかを整理しましょう。
労働力として業務をしてもらう場合は、インターンシップであっても労働者として扱う必要があります。
職業体験として企業を知ってもらうためなら労働者にはなりません。
学生が「労働者」として扱われるか否かによってその後の取り扱いが大きく違いますので、まずは目的をしっかり整理しましょう。
(2)契約書を締結する
労働者として認められる場合、企業は学生に労働条件を通知する義務があります。
労働条件通知書(雇用契約書)を作成し交付しましょう。
「インターンだから、アルバイトだから」契約書は不要という誤解をよく耳にしますが、労働条件の通知は学生であっても必要です。
また、職業体験が目的のインターンシップの場合でも、インターンシップ中の情報漏洩や不正利用等を防止するために誓約書を取り交わしておくことをおすすめします。
(3)ハラスメント防止対策を実施する
厚生労働省が発表した令和5年度職場のハラスメントに関する実態調査によると、3割以上の学生がインターンシップ中にハラスメント被害にあったとされています。
ハラスメントが発生すると企業イメージが悪化し、採用活動にも悪影響がおよびます。
企業にもさまざまなデメリットがあるハラスメントはしっかり対策しておきましょう。
具体的には、ハラスメントを未然に防ぐために学生との接し方のルールを決め、研修を徹底し、実際にハラスメントが起こった場合は懲戒処分や損害賠償責任を負うことを従業員に認識してもらいます。
万が一ハラスメントが発生した時のために、被害をすぐに相談できる窓口を設置するのも1つの方法です。
企業がインターンシップを実施する際は、その内容や条件が労働に該当するか否かをしっかり確認し、その内容に応じた対応と準備をすることが重要です。
また、法的なチェックや契約書の作成は専門家に相談することをおすすめします。
まとめ
無給のインターンシップが必ずしも違法になるわけではありませんが、その内容に応じて給料の支払いが必要になる場合があります。
インターンシップという名称にとらわれず「実際にどのようなことをさせるのか」が重要です。
インターンシップの内容次第では、学生との間に雇用関係があると認定され、適切に給料が支払われなければ企業は労働関連法令違反が問われる可能性があるでしょう。
学生をインターンシップで受け入れた事によりトラブルが発生しないよう、インターンシップの目的をしっかり理解し、その目的に応じた対応と準備を行うようにしましょう。
監修者
東京都社会保険労務士会所属。成蹊大学文学部英米文学科卒業。 創業間もないベンチャー企業だったAuthense法律事務所と弁護士ドットコムの管理部門の構築を牽引。その後、Authense社会保険労務士法人を設立し代表に就任。企業人事としての長年の経験と社会保険労務士としての知見を強みとする。
お悩み・課題に合わせて最適なプランをご案内致します。お気軽にお問合せください。