36協定にまつわる改正は2019年4月に施行されましたが、このとき建設業は適用が猶予されていました。
そして、2024年4月から、いよいよ建設業でも改正後の36協定が適用されます。
では、改正法ではどのような変更がなされたのでしょうか?
また、建設業を営む企業は、具体的にどのような対応をすればよいのでしょうか?
今回は、2024年4月から建設業でも適用される36協定の改正について、社労士がくわしく解説します。
目次
36(さぶろく)協定とは
36協定とは、従業員を法定時間外に労働させたり法定休日に労働させたりするために締結が必要となる協定です。
労働基準法(以下、「労基法」といいます)の36条に規定されていることから、通称「36(さぶろく)協定」と呼ばれます。
労基法では、労働時間の上限を1日あたり8時間、1週間40時間と定められています(労基法32条)。
原則として、これらの時間を超えて従業員を労働させることはできません。
また、少なくとも1週間に1回は休日を与えることが必要です(同35条)。
しかし、これらの定めを超えて従業員を労働させる必要がある場合も少なくないでしょう。
その場合は、次の者との間で36協定を締結したうえで、労働基準監督署へ届け出なければなりません。
- 労働者の過半数で組織する労働組合がある場合:その労働組合
- 労働者の過半数で組織する労働組合がない場合:労働者の過半数を代表する者
36協定を締結することなく法定時間外労働をさせたり法定休日に労働させたりした場合は、罰則の適用対象となります。
建設業者も36協定の上限規制への対応が必要となる
36協定に関する規定が改正され、多くの業種で2019年4月から(中小企業は2020年4⽉から)施行されました。
ここでは、改正内容と建設業での取り扱いについて解説します。
36協定の上限規制とは
労基法が改正される前は、36協定を締結した場合における時間外労働の上限時間について、法令による規制はありませんでした。
厚⽣労働⼤臣の告示では上限時間の定めがあったものの、告示には罰則などによる強制力はありません。
また、36協定に特別条項を設けることで、事実上上限なく時間外労働をさせることが可能となっていました。
そこで、36協定に関する規定が改正され、ほとんどの業種で2019年4月から(中小企業は2020年4⽉から)すでに施行されています。
改正後の上限規制のポイントは次のとおりです。
36協定締結時の上限時間が法定された
改正により、36協定を締結した場合の時間外労働時間の上限が、告示ではなく労基法で直接定められました。
改正後は、36協定を締結した場合であっても時間外労働の上限時間が「月45時間まで、かつ年360時間まで」に制限されます。
これに違反した場合は、罰則の適用対象となります。
特別条項を設けた場合でも上限規制が設けられた
36協定に特別条項を設けた場合は、「月45時間、年360時間」の上限を超えて時間外労働をさせることができます。
ただし、この特別条項を発動させるには、発動条件となる臨時的で特別な事情を36協定に定め、実際のそのような事情が生じなければなりません。
特別条項を発動できる「臨時的で特別な事情」とは、たとえば次のものなどです。
- 製品トラブル
- 納期のひっ迫
- 大規模クレームへの対応
- システム障害への対応
- ボーナス商戦に伴う業務の繁忙
一方で、「業務の都合上必要な場合」や「業務上やむを得ない場合」など、恒常的な⻑時間労働を招きかねないものは認められないとされています。
また、臨時的で特別な事情がある場合でも、これまでのように従業員を上限なく働かせられるわけではありません。
特別条項を発動する場合であっても、時間外労働の上限時間は次のとおりとなります。
- 時間外労働:1年あたり720時間以内
- 時間外労働+休日労働:1か月あたり100時間未満、2〜6か月平均で80時間以内
さらに、特別条項の発動ができるのは、最大で1年間あたり6回(6か月)までに制限されています。
このように、改正によって特別条項に関する規定が整備されました。
建設業者は適用が猶予されていた
36協定に関する改正法は2019年4月から(中小企業は2020年4⽉から)施行された一方で、次の業種については適用が猶予されていました。
- 工作物の建設の事業(建設業)
- 自動車運転の業務
- 医業に従事する医師
- 鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業
これらの業種では、長時間労働の背景に業務の特性や取引慣行の課題があるとされており、早期の対応が難しいとされていたためです。※1
2024年4月からは建設業も上限規制の遵守が必要となる
猶予期間が満了し、2024年4月からは建設業を営む事業者にも改正後の36協定が適用されます。
会社の規模などによる適用除外などはないことには注意が必要です。
従業員を多数雇用する建設会社はもちろん、労働者を1人だけ雇っている個人事業主などであっても適用対象となります。
上限規制の適用除外となる場合
建設業者のうち、災害復旧・復興事業だけは上限規制の一部が適用除外となります。
災害復旧・復興事業の場合、「時間外労働と休日労働の合計について月100時間未満、2~6か月平均80時間以内」とする規制については適用されません。
建設業者が36協定の上限規制に違反した場合の罰則
建設業を営む事業者が36協定の上限規制に違反した場合、労基法による罰則の適用対象となります。
罰則は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金です(同119条)。
これらの罰則は会社に対して課されるのみならず、経営者や営業所所長など労務管理上の責任者に対して課される可能性もあるため注意が必要です。
また、違反を繰り返すなど特に悪質な場合は、厚生労働省や都道府県労働局のホームページに企業名などが公表される可能性があります。
36協定上限規制の適用に向けて建設会社がすべき対応
改正後の36協定が適用されたことに伴い、建設業を営む会社はどのように対応すればよいのでしょうか?
執筆時点ですでに2024年4月となっているため、この記事を読んだ時点でまだ対応できていない場合は、できるだけ早期の対応が必要です。
社労士へ相談する
36協定の改正に対応できていない場合は、早期に社会保険労務士(社労士)へご相談ください。
現状を確認しアドバイスをするとともに、必要な手続きについても案内してもらえるでしょう。
労働時間を減らす対策を講じる
建設業を営む会社では、長時間労働が常態化しているケースが少なくありません。
だからこそ、改正法の適用に5年間の猶予期間がありました。
しかし、今後はこれを理由に免責されることはありません。
そのため、できるだけ早期に従業員の労働時間を削減する対策を講じる必要があります。
これまでと同じ感覚で「36協定を締結しているから、事実上どれだけでも残業させられる」と誤解していると、罰則が適用されるおそれがあります。
勤怠管理方法を見直す
建設会社の中には、労務管理が徹底されておらず、従業員がどれだけ残業したか正確に把握できていない会社もあるようです。
会社にタイムカードがあっても、建設会社では現場に直接出勤したり現場から直接退勤したりすることも多く、機能していないことも多いでしょう。
そのため、勤怠管理システムを導入するなど、従業員の労働時間や残業時間を正確に管理するための仕組みを構築することが必要です。
勤怠管理の方法でお悩みの際は、社労士などの専門家へご相談ください。
お悩み・課題に合わせて最適なプランをご案内致します。お気軽にお問合せください。
36協定に関する注意点
36協定については、誤解や注意点が少なくありません。
最後に、建設業を営む会社が知っておくべき36協定の注意点やよくある誤解について解説します。
従業員数が少なくても適用対象となる
36協定の締結や届出が必要かどうかに、雇用する従業員の数は関係ありません。
たとえ従業員が1人だけであっても、法定時間外労働や法定休日の労働をさせるには、36協定の締結と労働基準監督署への届出が必要です。
なお、就業規則の作成や届出義務があるのは、常時10人以上の従業員を使用する場合のみです(同89条)。
36協定についてこれと混同して「10人未満なら不要」との誤解が散見されるため注意してください。
アルバイトも適用対象である
正社員はもちろん、アルバイトスタッフやパートタイム従業員であっても36協定の対象となります。
「うちはアルバイトやパートしか雇っていないから36協定は関係ない」との誤解が散見されるため注意が必要です。
ただし、36協定の締結が必要となるのは、法定時間外労働や法定休日に労働をさせる場合だけです。
アルバイトスタッフやパートタイム従業員に絶対に法定時間外労働や法定休日の労働をさせない場合、36協定を締結する必要はありません。
なお、アルバイトスタッフやパートタイマーの場合、1日の勤務時間が5時間だけなど、法定労働時間である8時間より短く設定されていることもあります。
このような、会社が決めた労働時間を「所定労働時間」といいます。
36協定の締結が必要となるのは「法定労働時間」を超えた残業をさせる場合だけです。
「所定労働時間を超えるものの、法定労働時間を超えない」範囲の残業であれば、36協定を締結せずに行っても違法ではありません。
毎年更新が必要である
36協定は、毎年締結して更新する必要があります。
一度だけ締結すればよいものではないため、誤解のないよう注意しましょう。
そのうえで、毎年労働基準監督署に届け出なければなりません。
なお、36協定の効果は届出をしないと生じないことにも注意が必要です。
たとえば、36協定の始期を4月1日とした場合であっても、労働基準監督署への届出が4月10日だった場合、4月1日から4月9日の間は36協定がないことになります。
そのため、この期間に法定時間外労働などをさせれば違法となります。
特別条項を付けても無制限に残業時間を伸長できるわけではない
改正法の適用後は、36協定の特別条項に上限時間が設けられます。
また、特別条項を発動して通常の36協定の限度時間を超えた残業をさせるには、臨時的で特別な事情があることが必要です。
36協定に特別条項を付けたからといって、従業員を無制限に残業させられるわけではないことに注意しましょう。
特別条項を設けていても、上限時間を超えて残業をさせた場合は違法となり、罰則が適用される可能性があります。
従業員への周知が必要である
36協定を締結したら、これを従業員に周知しなければなりません。
従業員へ周知する方法としては、次のものなどが考えられます。
- 事業場の⾒やすい場所へ常時掲示するか、備え付ける
- 個別の労働者に書面を交付する
- システム上に格納し、事業場のパソコンの操作をすることで36協定の内容を常時確認できるようにする
実際には、「3」の方法をとることが多いでしょう。
ただし、一部の従業員が閲覧できるだけでは足りず、その36協定が対象としているアルバイトスタッフなども閲覧できる状態とる必要があります。
36協定を締結しても、周知されていなければ36協定の効果が生じず、時間外労働をさせると違法となるおそれがあることには注意してください。
まとめ
36協定の改正法の適用が猶予されていた建設業でも、2024年4月1日からは改正法が適用されます。
主な改正ポイントは、36協定を締結した場合の時間外労働の上限時間が法定されたことと、特別条項を定めた場合の上限時間が設定されたことです。
現時点で改正法に対応できていない建設会社は、早期に社労士へ相談したうえで対応を検討してください。
改正法への適用が遅れて法定違反の状態となれば、罰則が適用されるおそれがあります。
Authense社会保険労務士法人は、企業の労務管理体制の構築や労使トラブルの予防支援に力を入れています。
改正後の36協定に対応できていない建設業者や労務管理体制を整えたい事業者の方は、Authense社会保険労務士法人までお早めにご相談ください。
Authense社会保険労務士法人はAuthense法律事務所と同じAuthenseグループに属しています。
そのため、万が一労使トラブルが生じた場合であってもスムーズな対応が可能です。
監修者
東京都社会保険労務士会所属。成蹊大学文学部英米文学科卒業。 創業間もないベンチャー企業だったAuthense法律事務所と弁護士ドットコムの管理部門の構築を牽引。その後、Authense社会保険労務士法人を設立し代表に就任。企業人事としての長年の経験と社会保険労務士としての知見を強みとする。
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