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公開 2024.11.27

【連載】スキマバイト「タイミー」の大型上場を支 える2つの大きな追い風と高収益の理由

【連載】スキマバイト「タイミー」の大型上場を支 える2つの大きな追い風と高収益の理由

タイミーは、スキマバイト市場において急成長を遂げています。ビジネスモデルは、オンラインプラットフォームを通じて働き手(ワーカー)と雇用主(クライアント)を結びつけ、流通総額の30%を手数料として徴収します。さらに、超短期雇用の需要拡大や非正規雇用を好む若者世代の増加といった追い風が、タイミーの成長を後押ししています。低コストの資金調達を活用し、高収益を実現しているタイミーの成功の秘訣を探ります。

タイミーのビジネスモデルと主要KPI

タイミーのビジネスモデルは、マーケットプレイス型で、働き手(ワーカー)と雇用主(クライアント)をオンラインプラットフォーム上でマッチングさせる仕組みです。タイミーが提供するサービスを利用して行われる取引すべてに対して手数料を得る仕組みになっています。具体的には、売上は「流通総額(プラットフォーム上での取引総額)×テイクレート(手数料率)」で計算できます。

タイミーのテイクレートは30%に設定されています。一見高いように思えるかもしれませんが、日本の人材派遣業界における平均派遣手数料である36%と比較すると低い水準です。また、雇用者が必要なタイミングで必要な時間だけを超短期雇用するための手数料としては、非常に競争力のある価格設定とも言えます。

主要KPIとしては、流通総額、ワーカー稼働率、アクティブクライアント数が重要視されており、これらの指標はタイミーの収益性や市場拡大の度合いを直接的に反映します。

タイミーの流通総額・成長率・売上・営業利益

タイミーは急成長を続けています。

[1]流通総額/平均テイクレート(四半期推移)

四半期単位で見ると、流通総額がFY2024 Q2で約200億円で、前年同期比で約1.5倍と大幅に増加しており、この増加はタイミーのサービス利用拡大を反映しています。テイクレートが約30%で一定であるのが特徴的です。

売上高も同期間で約60億円で流通総額と同様、前年同期比で約1.5倍と大幅に増加しています。
FY2022以降は営業利益も黒字になっており、FY2024 上半期においては、営業利益が17億円、営業利益率は14%と高収益になっていることが伺えます。

タイミーの高成長を支える社会問題として、皆さんが最も先に思いつくのが「労働者不足」でしょう。

[2]2000年〜2024年の労働者の過不足推移
実際に数字を見てみると、2014年以降、労働者不足が深刻化していることが良く理解できます。
「労働者不足」と一言で言っても様々な種類が存在しますが、タイミーの追い風となっている労働者不足問題はどのようなものなのか、決算の数字から具体的に掘り下げて詳しく見ていきたいと思います。

追い風#1:スポットでの労働力不足を補う「超短期雇用」のニーズ拡大

タイミーのクライアントとなる企業はどのような課題を抱えているのでしょうか。具体的なタイミーとの取引を想像するために、「アカウントあたりの流通総額」を見てみると、四半期あたり約15万円、月に約5万円と大きくはないことが読み取れます。

この「アカウントあたりの流通総額」の規模感から推測するに、常勤メンバーの不足時の一時的な超短期雇用、文字通り「スポットバイト」を少人数で利用しているクライアントが多いことが読み取れます。

雇用する側からすれば、常勤メンバーを雇用すると固定費になるが、常勤メンバーでは補えない繁忙時を超短期雇用で埋められるというニーズにマッチしていると言えるのではないでしょうか。

こうしたクライアントの「超短期雇用」のニーズは継続的に存在しています。

[3]四半期別コホート流通総額構成(2018-2024)

直近四半期の流通総額のうち91%は過去に獲得したクライアントからもたらされています。一度獲得した顧客からの注文が継続的に行われていることは、タイミーの超短期雇用が顧客にとって高い価値を提供している証拠です。

追い風#2:「あえて」非正規雇用を好む若者世代の増加

バブル崩壊後の日本では、非正規雇用が増加し続けていましたが、その背景には「正社員になりたくてもなれない」という状況がありました。

しかし、最近では、あえて非正規雇用を選択する若者が増加しているという新たなトレンドが現れています。実際に、非正規労働者の30%以上が「都合の良い時間に働きたい」という理由で非正規雇用を選んでおり、これは過去の価値観とは異なるものです。このような労働者の割合は、2013年から2023年の10年間で約1.5倍に増加しています。

また、タイミーは高度なスキルを必要としない業界や職種に特化しており、このような選択をする労働者にとって非常に魅力的なプラットフォームとなっています。即日払いのシステムも、キャッシュフローに敏感なワーカーにとって大きなメリットとなり、これがさらなるアクティブワーカーの増加につながっています。

結果として、タイミーのプラットフォーム上でのアクティブワーカーの絶対数だけでなく、その割合も増加しており、非正規雇用を好む若者世代のニーズを的確に捉えています。

Profile

シバタ ナオキ 氏

元・楽天株式会社執行役員、東京大学工学系研究科助教、スタンフォード大学客員研究員。東京大学工学系研究科博士課程修了(工学博士、技術経営学専攻)。スタートアップを経営する傍ら「決算が読めるようになるノート」を連載中。