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INNOVATORS
公開 2024.07.31 更新 2024.08.02

【連載】AIブームの牽引役エヌビディアが一人勝ちしている理由

AIなどの機械学習に不可欠なGPUチップを製造・販売するエヌビディアは、昨年からの生成AI需要もあり、売上は前年同期比で262%増加、株価も上昇を続け、2024年5月には時価総額が2.7兆ドルを超え、世界第3位にまで躍進しました。同社の驚異的な市場シェアの高さ、製造業とは思えないほど高い売上総利益率を可能にする競争優位性はいったいどこにあるのでしょうか。詳しく解説します。

エヌビディアの時価総額は世界第3位まで上昇

エヌビディアは、米シリコンバレーに本社を置くテクノロジー企業で、特にグラフィック処理ユニット(GPU)の開発と製造で知られています。1993年に設立された同社は、ゲー
ム、プロフェッショナルビジュアライゼーション、データセンター、自動運転車、AI(人工知能)など、多岐にわたる分野で革新的な技術を提供しています。

エヌビディアの株価は、過去数年間で劇的な成長を遂げました。特に、2016年から
2024年にかけての株価の上昇は顕著であり、AIやデータセンター、ゲーミング市場の成長がこの株価の上昇を後押ししました。2020年のパンデミック中も、テクノロジー分野への需要が高まり、株価は上昇を続けました。

エヌビディアの株価推移(過去5年間)

エヌビディアの株価推移(過去5年間)2023年末には約1.2兆ドルだった時価総額が、2024年5月には2.7兆ドル以上に達し、本稿執筆時点(2024年5月24日)においては、時価総額でアップル、マイクロソフトに次ぐ世界第3位にまで上り詰めています。

エヌビディアの業績を牽引するAIデータセンター需要

2024年第1四半期の決算報告によると、四半期での売上は260億ドルに達し、前年同
期比で262%増加しました。

エヌビディアの四半期売上高、売上総利益率の推移

4つの事業セグメントのうち、「データセンター」事業は、売上226億ドル(前年同期
比427%増)と驚異的な伸びを示しており、2番目に大きい「ゲーミング」事業の売上
29億ドル(前年同期比56%増)を売上規模だけではなく、成長率でも遥かに凌駕します。

データセンター事業はエヌビディアの最大の成長ドライバーであり、AIと機械学習の需要が急増していることが背景にあります。特に、クラウドプロバイダーとの連携や新しいAIサービスの導入が売上増加に寄与しました。

同社のデータセンター事業に含まれるGPUチップは、機械学習やChatGPT をはじめとした生成AIにとっては不可欠なものです。
GPUは、数千のコアを持つことで高い並列計算能力を提供し、大規模なデータセットの処
理やディープラーニングモデルのトレーニングが大幅に高速化されます。CPUは一般に数十個のコアしか持たないのに対し、GPUは数千個のコアを持つため、大量の計算を同時に行うのに適しています。

ChatGPT に代表される生成AIにおけるGPUの使用例を考えてみましょう。数十億から数千億のパラメータを持つ大規模言語モデル(LLM)をトレーニングするために、膨大な計算資源が必要です。
エヌビディアのA100やH100などのデータセンター向けGPUは、これらのトレーニングに最適化されており、高速かつ効率的な計算を提供します。
最新モデルH100は、次世代のデータセンター向けGPUであり、Tensor Float32性能では前世代A100の約6倍高速で、ディープラーニングモデルのトレーニングや推論において大きなメリットをもたらします。

生成AIモデル(例:画像生成、テキスト生成)は、ユーザーの入力に基づいて新しいコンテンツを生成するために、高速な計算が必要です。GPUはその高い並列計算能力を活かして、短時間で高品質な生成を可能にします。
このように生成AIの実用化にはGPUの進化が不可欠であり、その進化を牽引しているのがエヌビディアであると言えます。

製造業とは思えないほど高い売上総利益率

直近の2024年度の決算によると、原価率は28.00%、売上総利益率が72.00% とGPU
チップというハードウェア製造業でありながら非常に原価率が低く、高収益であることが分か
ります。
特に、2024年には原価率が前年の38.55%から28.00%まで大幅に低下しています。効率的なコスト管理を行い、製造プロセスやサプライチェーンの最適化を進めた結果でもありますが、同社が価格競争力を持ちながらも高い利益率を維持できていることを示します。

では、この価格競争力は一体どこから来ているのでしょうか。

エヌビディアの「一人勝ち」を可能にしている競争優位性とは?

エヌビディアの競争優位性は、多くの要素から成り立っていますが、その中でもCUDA
(Compute Unifi ed Device Architecture)が特に重要な役割を果たしています。

CUDAとは、エヌビディアが開発した並列コンピューティングプラットフォームおよびプ
ログラミングモデルで、開発者がGPUの高性能な計算能力を活用して、科学計算、機械学習、人工知能などの複雑な計算問題を効率的に解決するためのツールを提供します。
CUDAの特徴として、並列計算の最適化、多くのライブラリやTensorFlow やPyTorch などの主要な機械学習フレームワークがCUDAに対応しており、開発者は既存のツールを使って容易にGPUのパワーを引き出すことができるという点もありますが、最も重要な競争優位性は、CUDAの開発者コミュニティにあると言えるでしょう。

CUDAは長年にわたり広く採用されており、強力な開発者コミュニティが形成されています。このコミュニティは、豊富なリソースやサポートを提供し、新しい技術や最適化手法の共有が盛んに行われています。

つまり、現在最も希少でかつ争奪戦になる機械学習エンジニアは昔からCUDAを利用してソフトウェア開発を行ってきており、CUDAに依存する機械学習エンジニアはCUDA外のプラットフォームでソフトウェア開発を行いたくないという状況にまでなっているため、経営陣としても他のGPUチップではなく、エヌビディア製のGPUチップを購入せざるを得ないという状況なのです。

生成AIのブームはこれからも続くと予想され、AIデータセンター用のGPUチップ需要も当面の間は落ち着くことがないでしょう。これからもエヌビディア一強が続くのか注目していきましょう。

Profile

シバタ ナオキ 氏

元・楽天株式会社執行役員、東京大学工学系研究科助教、スタンフォード大学客員研究員。東京大学工学系研究科博士課程修了(工学博士、技術経営学専攻)。スタートアップを経営する傍ら「決算が読めるようになるノート」を連載中。