公開 2024.06.17BusinessTopics

簡易株式交付とは?要件・手続き・スケジュールを弁護士がわかりやすく解説

会社法

株式交付をするにあたり、一定の要件を満たした場合、簡易株式交付の手続きを選択できます。

では、どのような場合に簡易株式交付の手続きを選択できるのでしょうか?
また、簡易株式交付にはどのような手続きが必要なのでしょうか?

今回は、簡易株式交付に必要な手続きを弁護士が解説するとともに、スケジュールの例を紹介します。

目次
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簡易株式交付の概要

はじめに、株式交付と簡易株式交付の概要を解説します。

株式交付とは

株式交付とは、株式会社(「株式交付親会社」といいます)が他の会社(「株式交付子会社」といいます)の株主から、株式交付子会社の株式を譲り受ける組織再編手法です。
株式交付親会社は、株式を譲り受ける対価として、株式交付子会社の株主に対して、自社(株式交付親会社)の株式を交付します。

株式交付により、株式交付子会社は、株式交付親会社の子会社となります。
また、これまで株式交付子会社の株主であった者は、株式交付親会社の株主となります。
なお、株式交換とは異なり、必ずしも100%親子会社関係が創設されるわけではありません。

簡易株式交付とは

簡易株式交付とは、株式交付親会社の株主総会を省略して行える株式交付です。
これにより、効力発生日までの期間や手続きコストの短縮が可能となります。

簡易株式交付をするための要件

簡易株式交付ができるのは、次の要件をすべて満たしている場合です(会社法816条の4、816条の3)。

  1. 次の合計額が、株式交付親会社の純資産額の5分の1(定款でこれを下回る割合を定めた場合は、その割合)を超えないこと
    • 1.株式交付子会社の株式等の譲渡人に対して交付する株式交付親会社の株式の数に、1株あたり純資産額を乗じて得た額
    • 2.株式交付子会社の株式等の譲渡人に対して交付する株式交付親会社の社債、新株予約権等の帳簿価額の合計額
    • 3.株式交付子会社の株式等の譲渡人に対して交付する株式交付親会社の株式等以外の財産の帳簿価額の合計額
  2. 株式交付親会社に、株式交付により差損が生じる場合でないこと
  3. 株式交付親会社が公開会社であること

このような要件を満たす場合は、株式交付親会社の株主に与える影響が軽微であるため、簡易株式交付が可能とされます。

ただし、これらの要件を満たす場合であっても、特別決議を阻止できるだけの数の株式を有する株主が株式交付に反対する旨を一定期間内に通知した場合は、効力発生日の前日までに株主総会決議の承認を経る必要が生じます(同816条の4 2項)。

簡易株式交付に必要な手続きとスケジュール例

簡易株式交付をするには、さまざまな手続きが必要です。
ここでは、次の前提で、株式交付親会社側で必要となる主な手続きとスケジュール設定のポイントを解説します。

  • 株式交付親会社と株式交付子会社が、ともに取締役会設置会社である
  • 株式交付親会社が上場会社であり、株式交付子会社が非上場会社である
  • 株式交付親会社において、債権者異議手続を要しない
日程 株式交付親会社
株式交付計画立案

取締役会

株式交付計画の作成

有価証券届出書・有価証券通知書の提出

適時開示

保振機構への通知

6/10 事前開示書類等備置開始
株主に対する公告
6/25 株式交付(簡易株式交付)に反対する旨の通知期限
公正取引委員会への株式取得届出の受理
株式交付親会社が譲り受ける株式交付子会社の株式の割当て
申込者への通知、買付け等の通知
株式取得禁止期間の経過
8/24 株式交付期日の前日
8/25 株式交付期日
株式交付の対価の交付
事後開示書類等備置開始

ただし、必要な手続きやスケジュールは会社の状態や定款の規定、上場の有無などによって異なります。
また、ここで紹介するのは代表的な手続きのみです。

そのため、実際に株式交付をしようとする際は、組織再編にくわしい弁護士へご相談ください。

公正取引委員会への届出

独占禁止法(独禁法)の規定により、国内において事業支配力が過度に集中することとなる株式交付は禁止されています(独禁法9条2)。
また、株式交付をしようとする会社の売上規模が一定以上であるなど一定の場合には、公正取引委員会にあらかじめ計画を届け出なければなりません(同10条2項)。

公正取引委員会への届出が必要な場合、届出の受理から30日を経過しなければ株式交付ができません(同8項)。
そのため、株式交付の立案をしたら早期に公正取引委員会へ事前相談を行い、届出を済ませておきましょう。

有価証券届出書の提出等

株式交付が金融商品取引法上の「有価証券の募集」にあたる場合、株式交付親会社は、内閣総理大臣(財務局長等)に対してあらかじめ「有価証券届出書」を提出する必要があります(金商法4条1項)。

ただし、発行価額の総額が1億円未満であるなど一定の場合は、有価証券届出書の提出は不要です。
有価証券届出書の届出の効力は、原則として受理から15日を経過した日に生じ、届出の効力が生じるまでは株式交付ができません(同8条1項)。
ただし、適当でないと認められる場合を除き、申出により、受理の翌日に届出の効力を発生させることができます。

有価証券届出書の提出が必要なケースでは、「目論見書」の作成や交付も必要です(同13条、15条)。
上場会社である場合、有価証券届出書の写しを証券取引所に遅滞なく提出しなければなりません(同6条)。

なお、有価証券届出書の提出が不要な場合であっても、発行価額の総額が1,000万円を超えるなど「特定募集等」に該当する場合は、「有価証券通知書」の提出が必要です(同4条6項)。

適時開示等

上場会社が株式交付を決定したら、その内容を直ちに開示しなければなりません(上場規程402条1項j)。
併せて、所定の書類を証券取引所へ提出することも必要です(同421条1項)。

振替制度を利用している場合には、取締役会決議後、速やかに保振機構へ内容を通知することも必要です。

臨時報告書の提出

有価証券報告書提出会社である場合、株式交付により特定子会社に異動が生じる旨を業務執行機関が決定したら、遅滞なく臨時報告書を内閣総理大臣(財務局長等)に提出しなければなりません(金商法24条の5 4項)。
その後、臨時報告書の内容に変更が生じた場合は、訂正報告書の提出も必要です。

株式交付計画承認取締役会の開催

取締役会設置会社では、取締役会で株式交付計画を承認します(会社法362条4項)。
この承認は、原則として個々の取締役への委任はできません。

ただし、簡易株式交付の場合、株式交付親会社が一定の監査等委員会設置会社であるときは、株式交付計画の内容決定を取締役に委任できます(同399条の13 5条)。

株式交付計画の作成

株式交付をする際は、株式交付計画を作成しなければなりません。
株式交付計画で定めるべき主な事項は、次のとおりです(同774条の2、774条の3)。

  1. 株式交付子会社の商号と住所
  2. 株式交付に際して株式交付親会社が譲り受ける、株式交付子会社の株式数の下限(効力発生日において株式交付子会社が株式交付親会社の子会社となる数)
  3. 株式交付に際して株式交付親会社が株式交付子会社の株式の譲渡人に対して交付する、株式交付親会社の株式数またはその算定方法と、株式交付親会社の資本金及び準備金に関する事項
  4. 3の株式交付親会社の株式の割当てに関する事項
  5. 株式交付に際して株式交付親会社が株式交付子会社の株式の譲渡人に金銭を交付するときは、その金銭に関する事項
  6. 5の金銭の割当てに関する事項
  7. 株式交付子会社の株式などの譲渡しの申込期日
  8. 効力発生日

株式交付計画は登記の添付書面となるため、書面で作成する必要があります。

事前開示

株式交付親会社は、株式交付計画の内容など一定事項を記載した書面等を作成したうえで、本店に備え置かなければなりません(同816条の2 1項)。
株式交付親会社の株主や一定の債権者は、事前開示書類等の閲覧や謄本請求などができます(同3項)。

備置くべき期間は、次のうちいずれか早い日から、株式交付の効力発生後6か月を経過する日までです(同1項、2項)。

  1. 株式交付計画の承認を受ける株主総会の2週間前の日
  2. 反対株主の株式買取請求に係る通知または公告のいずれか早い日
  3. 債権者異議手続の催告または公告のいずれか早い日

株式交付計画承認株主総会の開催

株式交付をする場合、株式交付親会社は株主総会の特別決議で株式交付計画の承認を受けることが原則です(同816条の3 1項)。
一方、簡易株式交付の場合は、株式交付親会社での株主総会決議は必要ありません(同816条の4 1項)

ただし、冒頭で解説したように、一定数の株式を有する株主が株式交付に反対する旨を一定期間内に通知した場合は、効力発生日の前日までに株主総会決議の承認を受ける必要が生じます(同816条の4 2項)。

申込みしようとする者への通知

株式交付親会社は、株式交付子会社の株式の譲渡しの申込みをしようとする者に対し、次の事項を通知しなければなりません(会社法774条の4 1項、会社法施行規則179条の2)。

  • 株式交付親会社の商号
  • 株式交付計画の内容
  • 交付対価について参考となるべき事項
  • 株式交付親会社の計算書類等に関する事項

申込みをしようとする者に対して株式交付親会社が目論見書を交付しているなど一定の場合、この通知は不要です(同4項)。

申込み

株式譲渡しの申込みをする株式交付子会社の株主は、次の事項を記載した書面を株式交付親会社へ交付します(同2項)。
この通知は、株式交付親会社が株式交付計画で定めた申込期日までに行わなければなりません。

  1. 申込をする者の氏名または名称と、住所
  2. 譲渡しようとする株式交付子会社の株式数

なお、譲渡しの申込みがされた株式交付子会社株式の総数が株式交付計画で定めた下限に満たない場合には、株式交付手続きは中止されます(同774条の10)。

株式交付親会社が譲り受ける株式交付子会社の株式の割当て

株式交付親会社は、次の事項を定めます(同774条の5 1項)。

  • 申込者のうち、株式交付親会社が株式交付子会社の株式を譲り受ける者
  • その者から譲り受ける株式交付子会社の株式数

株式交付親会社は、譲渡を受ける株式数を、申込者が申込みをした株式数から減少できます。

申込者への通知

株式交付親会社は各申込者に対して、効力発生日の前日までに、その者から譲り受ける株式交付子会社の株式数を通知しなければなりません(同2項)。
この通知を受けた株式数について、申込者は株式交付子会社の株式の譲渡人となります。

(総数譲渡し契約)

株式交付は、総数譲渡し契約で行うこともできます。
総数譲渡し契約による場合は、「申込み」から「申込者への通知」までの手続きは必要ありません。

総数譲渡し契約とは、株式交付子会社の株主のうち一定の者と締結する、株式の総数の譲渡契約です。
総数譲渡し契約による場合、この契約の相手方は契約により約した株式数について、株式交付子会社の株式の譲渡人となります。

債権者異議手続

株式交付に際して、株式交付子会社の株主に対して交付されるのが株式交付親会社の株式に準ずるもののみである場合以外には、株式交付親会社の債権者は、株式交付に異議を述べることができます(同816条の8 1項)。

債権者に異議申述の機会を確保するため、株式交付親会社は次の事項を公告するとともに、知れている債権者には個別に催告しなければなりません(同2項)。

  1. 株式交付をする旨
  2. 株式交付子会社の商号と住所
  3. 株式交付親会社と株式交付子会社の計算書類に関する一定の事項
  4. 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨

ただし、官報や定款に定めた一定の方法で公告をする場合には、個別の催告は不要です。

異議申述期間は1か月以上を確保しなければならず、異議申述期間が経過するまでは株式交付ができません。
そのため、効力発生日の前日までには、債権者異議手続が終了するように公告や催告をする必要があります。

反対株主の株式買取請求

簡易株式交付による場合、株式交付親会社の株主は株式買取請求ができません(同816条の6 1項)。
ただし、簡易株式交付による場合も、株式交付親会社は効力発生日の20日前までに、次の事項をすべての株主に通知または公告する必要があります(同3項、4項)。

  • 株式交付をする旨
  • 株式交付子会社の商号と住所

また、一定の株主が株式交付に反対したことで株主総会が必要となった場合、株式交付親会社の株主は株式買取請求が可能となります。

効力発生日

原則として、株式交付計画で定めた日に株式交付の効力が生じます。
この日をもって、株式交付親会社は、株式交付子会社の株式の譲渡人から株式交付子会社の株式を譲り受けます。
また、株式交付子会社株式の譲渡人は、株式交付親会社の株式など株式交付の対価を取得します。

事後開示

効力発生日後遅滞なく、株式交付親会社は、株式交付に関する一定事項を記載した書面等を作成し、本店に備え置かなければなりません(同816条の10 1項)。
事後開示書類等の備置きが必要な期間は、株式交付の効力発生日から6か月間です。

登記申請

株式交付で株式交付親会社の資本金や発行済株式総数などに変更が生じた場合は、本店所在地において変更登記をしなければなりません。
変更登記の期限は、原則として変更日から2週間以内です(同915条1項)。

まとめ

簡易株式交付の概要や要件のほか、必要な手続きなどについて解説しました。

簡易株式交付では、株式交付親会社の株主総会が省略できます。
これにより、株式交付に要する期間を短縮できるほか、手続きの負担の軽減ができます。

ただし、一定の株主が株式交付に反対した場合は、原則どおり株主総会決議を経なければなりません。

簡易株式交付であっても、株式交付をするにはさまざまな手続きが必要となります。
中には、手続きから一定期間を経過しないと株式交付の効力が生じないものもあるため、注意が必要です。

必要な手続きや最適なスケジュールは会社の状況などによって異なります。
そのため、実際に簡易株式交付をしようとする際は、弁護士へご相談ください。

記事監修者

Authense法律事務所
弁護士

水谷 友輔

(第二東京弁護士会)

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