株式交換では、略式株式交換の手法がとれる場合があります。
略式株式交換とは、どのような手続きなのでしょうか?
また、略式株式交換は、どのようなスケジュールで進めればよいのでしょうか?
今回は、略式株式交換に必要な手続きとスケジュール例について、弁護士がくわしく解説します。
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略式株式交換の概要
はじめに、略式株式交換の概要を解説します。
株式交換とは
株式交換とは、株式会社が発行済株式の全部を他の株式会社などに取得させるもの(会社法2条31号)で、100%親子関係を創設する組織再編手法です。
株式交換では、株式を取得して完全親会社となる会社を「株式交換完全親会社」、株式交換によって完全子会社となる会社を「株式交換完全子会社」といいます。
株式交換によって取得する株式は、原則としてそれぞれ次のとおりです、
- 株式交換完全親会社:株式交換完全子会社の株式
- 株式交換完全子会社の株主:株式交換完全親会社の株式
略式株式交換とは
略式株式交換とは、支配関係にある会社同士が株式交換をする場合において、被支配会社側の株主総会を省略して行う株式交換です(会社法784条1項、796条1項)。
被支配会社の株主総会を省略することで、手続きのコストや負担が軽減されます。
略式株式交換をするための要件
略式株式交換をすることができるのは、次のすべての要件を満たした場合に限られます。
- 当事会社同士が特別支配関係にあること(会社法468条1項)
- 次の3つにすべて該当する場合ではないこと
- 1. 株式交換の対価等の全部または一部が譲渡制限株式等(会社法783条3項)である(会社法784条1項ただし書)
- 2. 株式交換完全子会社が公開会社である(会社法784条1項ただし書)
- 3. 株式交換完全子会社が種類株式発行会社でない(会社法784条1項ただし書)
- 次の2つにともに該当する場合ではないこと
- 1. 株式交換に際して株式交換完全子会社の株主に対して株式交換完全親会社の譲渡制限株式を交付する(会社法796条1項ただし書)
- 2. 株式交換完全子会社が公開会社ではない(会社法796条1項ただし書)
なお、「特別支配関係」とは、一方の会社がもう一方の会社の議決権の10分の9(定款でこれを上回る割合を定めた場合は、その割合)以上を有する関係を指します(会社法468条1項)。
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略式株式交換の手続きとスケジュールの概要
略式株式交換をするには、どのような手続きをどのようなスケジュールで行う必要があるのでしょうか?
ここでは、次の前提で、略式株式交換に必要となる主な手続きとスケジュールの例を解説します。
- 取締役会設置会社である株式会社同士が、略式株式交換をする
- 特別支配会社が株式交換完全親会社となり、被支配会社が株式交換完全子会社となる
日程 | 株式交換完全親会社 | 株式交換完全子会社 |
株式交換の計画立案
株式交換契約承認取締役会 株式交換契約の締結 適時開示 保振機構への通知 臨時報告書の提出 株主総会招集のための取締役会 |
株式交換の計画立案
株式交換契約承認取締役会 株式交換契約の締結 適時開示 保振機構への通知 臨時報告書の提出
|
|
6/10 | 株主総会招集通知発送 | |
(有価証券届出書・有価証券通知書の提出) | ||
事前開示書類等備置開始 | 事前開示書類等備置開始 | |
6/11 | 株主総会の日の2週間前の日 | |
反対株主の株式交換に反対する旨の会社に対する通知 | ||
6/25 | 株式交換契約承認株主総会 | |
臨時報告書の提出 | ||
債権者に対する公告・催告 | 債権者に対する公告・催告 | |
債権者異議手続 | 債権者異議手続 | |
株主に対する通知又は公告 | 株主に対する通知又は公告 | |
反対株主の株式買取請求 | 反対株主の株式買取請求 | |
新株予約権買取請求 | ||
登録株式質権者等に対する通知又は公告 | ||
振替機関への通知 | ||
株式取得禁止期間の経過 | ||
9/30 | 株式交換期日の前日 | 株式交換期日の前日 |
10/1 | 株式交換期日(効力発生日) | 株式交換期日(効力発生日) |
事後開示書類等備置開始 | 事後開示書類等備置開始 | |
10/14 | 株式交換変更登記(登記事項に変更が生じた時から) |
なお、ここで紹介するのは一例であり、必要な手続きやスケジュールは、具体的な状況や定款の内容などによって異なる可能性があります。
そのため、実際に略式株式交換をしようとする際は、組織再編にくわしい弁護士のサポートを受け、必要な手続きを洗い出すことをおすすめします。
公正取引委員会への届出
株式交換は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下、「独禁法」といいます)の規定で制限されることがあります(独禁法9条、10条、11条)。
なぜなら、株式交換によって事業の支配力が過度に集中すれば、公正な競争が阻害されるおそれがあるためです。
また、国内売上が一定超である会社同士が株式交換をするなど一定の場合には、あらかじめ公正取引委員会へ届け出なければなりません(独禁法10条2号、独禁法施行令16条)。
この届出が受理されてから30日間は株式交換ができないため、スケジュール設定にご注意ください(独禁法10条8項)。
株式交換承認取締役会の開催
株式交換契約の内容の承認は、原則として取締役会で行います(会社法362条4項)。
ただし、被支配会社が一定の監査等委員会設置会社である場合、被支配会社の取締役会はこの承認を取締役に委任できます(会社法399条の13 5項20号、6号)。
株式交換契約の締結
取締役会において契約の承認を行ったら、当事会社同士で株式交換契約を締結します。
株式交換契約では、次の事項などを定めます(会社法767条、768条)。
- 株式交換完全親会社及び株式交換完全子会社の商号及び住所(会社法767条1項1号)
- 株主交換完全親会社が株式交換完全子会社の株主に対してその株式に代えて交付する株式、社債、新株予約権、新株予約権付社債、その他の財産の内容及び数若しくは額又はそれらの算定方法(会社法767条1項2号)
- 2の割当てに関する事項(会社法767条1項3号)
- 株式交換完全親会社が株式交換完全子会社の新株予約権者に対して、当該新株予約権に代わる当該株式交換完全親会社の新株予約権を交付するときは、それらの内容に関する事項及び新株予約権の割当てに関する事項(会社法767条1項4号、5号)
- 効力発生日(会社法767条1項6号)
株式交換契約は、書面で締結しなくても効力自体は生じます。
ただし、契約書は登記の添付書面となることから、実務上は書面で締結します(商業登記法89条1号)。
適時開示等
当事会社が上場会社である場合、取締役会で株式交換を決定したら、直ちにその内容を開示しなければなりません(有価証券上場規程402条1号i)。
これを、「適時開示」といいます。
併せて、所定の書類を証券取引所に提出することも必要です(有価証券上場規程421条1項)。
また、当事会社が振替株式を発行している場合は、保振機構への通知が必要となる場合もあります(株式等の振替に関する業務規程12条1項、株式等の振替に関する業務規程施行規則6条1項別表1の1⒀)。
臨時報告書の提出
当事会社が有価証券報告書提出会社である場合、一定の株式交換をする旨を取締役会が決定したら、遅滞なく臨時報告書を提出しなければなりません(金融商品取引法24条の5 4項)。
臨時報告書に記載すべき事項は、次の事項などです(企業内容等の開示に関する内閣府令19条2項6号の2)。
- 相手会社の商号、本店の所在地、代表者の氏名、資本金の額、純資産の額、総資産の額、事業の内容
- 相手会社の最近3年間の売上高、営業利益、経常利益、純利益
- 相手会社の大株主の氏名又は名称及び発行済株式の総数に占める大株主の持株数の割合
- 相手会社との間の資本関係、人的関係、取引関係
- 株式交換の目的
- 株式交換の方法、株式交換比率その他株式交換契約の内容
- 株式交換比率の算定根拠
- 株式交換完全親会社の商号、本店の所在地、代表者の氏名、資本金の額、純資産の額、総資産の額、事業の内容
- 株式交換に係る割当て内容が株式交換完全親会社の株式、社債等以外の有価証券である場合、その有価証券の発行者に関する1から4の事項
提出後に臨時報告書の内容に変更が生じた場合は、訂正報告書の提出も必要です(金融商品取引法24条の5 5項、7条1項)。
有価証券届出書の提出等
次のすべてに該当する場合には、有価証券届出書を内閣総理大臣(財務局長等)に届け出なければなりません。(金融商品取引法2条の3、3条、4項、5項、8条、15条、金融商品取引法施行令2条の2~2条の7、企業内容等の開示に関する内閣府令4条、8条)
- 株式交換完全子会社が開示会社である
- 株式交換で株式交換完全子会社の株主等に株式交換完全親会社の有価証券発行又は交付される
- その株式交換に係る事前開示書類の備置きが、特定組織再編成発行手続又は特定組織再編成交付手続に該当する
- 株式交換完全子会社の株主等に発行又は交付される有価証券について開示がされていない
- 発行価額又は売出価格の総額が1億円以上である
この届出の効力が生じるのは、原則として、受理から15日を経過した日です(金融商品取引法8条1項)。
効力が発生するまでは株式交換の効果を生じさせることができないため、提出のタイミングにご注意ください。
ただし、一定の申出をすることで、届出翌日に効力を発生させる取り扱いを受けられる可能性があります。
なお、有価証券届出書の提出が不要な場合であっても、発行価額の総額が1,000万円超1億円未満であるなど一定の場合には、有価証券通知書の提出が必要です。
事前開示
当事会社は、株式交換契約の内容など一定事項を記載した書面等を作成し、本店に備え置かなければなりません(会社法782条1項、794条1項、会社法施行規則184条、193条)。
備置きが必要となる期間は、次のうちいずれか早い日から、株式交換の効力発生日後6か月を経過する日までです(会社法782条1項2項、794条1項2項)。
- 株式交換について承認を受ける株主総会の2週間前の日(会社法319条1項の場合にあっては、同項の提案があった日)
- 反対株主の株式買取請求に係る通知又は公告のいずれか早い日
- (株式交換完全子会社のみ)新株予約権買取請求に係る通知又は公告のいずれか早い日
- 債権者異議手続の催告又は公告のいずれか早い日
- (株式交換完全子会社のみ)1から4以外の場合には、株式交換契約の締結日から2週間を経過した日
備え置きの期間、会社の株主や一定の債権者は、事前開示書類の閲覧や謄本の請求などができます。
株式交換契約承認株主総会
株式交換完全親会社となる特別支配会社は、効力発生日の前日までに、株式交換について株主総会による承認を受けなければなりません(会社法783条1項、795条1項)。
この決議は、特別決議によって行います(会社法309条2項12号)。
一方、略式株式交換の場合、株式交換完全子会社となる被支配会社では株主総会は不要です(会社法784条1項、796条1項)。
債権者異議手続
株式交換完全親会社の債権者は、次のいずれかに該当する場合、株式交換に異議を述べることができます(会社法799条)。
- 株式交換の対価が、株式交換完全親会社の株式やこれに準じるものではない場合(会社法799条1項3号)
- 株式交換契約新株予約権が、新株予約権付社債に付された新株予約権である場合(会社法799条1項3号、768条1項4号ハ)
債権者に異議申出の機会を確保するため、当事会社は一定の事項を公告するとともに、知れている債権者に個別で催告しなければなりません(会社法789条2項、799条2項)。
ただし、官報など一定の方法で公告をする場合は、知れている債権者への個別催告は不要となります(会社法789条3項、799条3項、939条1項2号3号)。
この債権者異議申述期間は、少なくとも1か月を確保しなければなりません(会社法789条2項ただし書、799条2項ただし書)。
公告や催告から1か月を経過しなければ株式交換の効力が生じさせられないため、遅くとも効力発生日の前日には債権者異議申述期間が満了するようにスケジュールを設定します。
反対株主の株式買取請求
株式交換に反対する株主は、次の2つの要件をいずれも満たすことで、会社に対して株式を買い取るよう請求できます。
- 株主総会に先立って株式交換に反対する旨を通知したこと
- 株主総会で株式交換に反対したこと
買取請求ができる期間は、株式交換の効力発生日の20日前から効力発生日の前日までです(会社法785条1項2項5項、797条1項2項5項)。
ただし、略式株式交換の場合は、被支配会社では株主総会が行われません。
そのため、被支配会社の株主のうち特別支配会社以外の者は、このような要件を満たすことなく株式買取請求ができます(会社法785条2項2号、797条2項2号)。
また、会社は効力発生日の20日前までに、株主に対して一定事項を通知しなければなりません(会社法785条3項、797条3項)。
ただし、特別支配会社である株主に対しては、通知は不要です(会社法785条3項、797条3項)。
登録株式質権者等に対する通知または公告
株式交換完全子会社は、株式交換の効力発生日の20日前までに、株式交換をする旨を登録株式質権者などに対して通知しなければなりません(会社法783条5項)。
この通知は、公告に代えることも可能です(会社法783条6項)。
振替機関への通知
株式交換完全子会社は、次の2つの要件に該当する場合、効力発生日の2週間前までに振替機関に対して一定事項を通知しなければなりません(社債、株式等の振替に関する法律138条1項)。
- 株式交換完全子会社の株式が振替株式である
- 株式会社完全親会社が、株式交換に際して振替株式を交付する
一方、次の2つの要件に該当する場合、株式交換完全子会社は、効力発生日の1か月前までに株主に対して必要な通知をする(社債、株式等の振替に関する法律160条1項、131条1項)とともに、効力発生日後には遅滞なく振替機関に対する通知が必要です(社債、株式等の振替に関する法律130条1項)。
- 株式交換完全子会社の株式が振替株式ではない
- 株式交換完全親会社が、株式交換に際して振替株式を交付する
また、次の要件に該当する場合、株式交換完全子会社は、効力発生日の2週間前までに振替機関に対して効力発生日などの通知をしなければなりません(社債、株式等の振替に関する法律160条3項、135条1項)。
- 株式交換完全子会社の株式が振替株式である
- 株式交換完全親会社が、株式交換に際して振替株式ではない株式を交付する
効力発生日
株式交換契約で定めた日に、株式交換の効力が発生します(会社法768条1項6号)。
この日をもって、株式交換完全親会社は株式交換完全子会社の株式のすべてを取得し、100%親子会社関係が創設されます。
また、株式交換完全子会社の株主は、株式交換契約の内容に従って株式交換完全親会社の株式などを取得します。
事後開示
株式交換完全子会社は株式交換完全親会社と共同し、効力発生日後遅滞なく、一定事項を記載した書面等を作成して本店に備え置かなければなりません(会社法791条1項2号、会社法施行規則190条、会社法801条3項3号)。
備え置くべき期間は、株式交換の効力発生日から6か月間です(会社法791条2項)。
また、当事会社が上場会社である場合は、効力発生日後速やかに、事後開示書類の写しを証券取引所に提出しなければなりません(有価証券上場規程402条2号ⅰ、有価証券上場規程施行規則417条6号c)。
登記申請
株式交換に伴い、株式交換完全親会社の資本金額や発行済株式総数などに変更が生じることがあります。
変更が生じた場合は、変更から2週間以内に変更登記をしなければなりません(会社法915条1項)。
一方、株式交換では、原則として株式交換完全子会社の登記事項に変更は生じません。
まとめ
略式株式交換の概要や必要な手続き、スケジュールの例などについて解説しました。
略式株式交換とは、特別支配関係にある会社同士が株式交換をする場合に、被支配会社の株主総会を省略できる手続きです。
一方で、特別支配会社側の株主総会は、省略できません。
略式株式交換であっても、株式交換をするにはさまざまな届出や通知、公告、取締役会決議などが必要です。
必要な手続きや適切なスケジュールは会社の状況などによって異なる可能性があります。
そのため、実際に略式株式交換をする際は、組織再編手続きにくわしい弁護士へご相談ください。
記事監修者
-
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