公開 2024.03.26BusinessTopics

譲渡制限新株予約権とは?譲渡承認手続きとスケジュールを弁護士がわかりやすく解説

会社法

会社はその発行する株式に譲渡制限を付けることができますが、これと同様に新株予約権にも譲渡制限を付すことができます。

譲渡制限新株予約権について譲渡承認請求があった場合、会社はどのような手続きをとればよいのでしょうか?
また、譲渡制限新株予約権の承認手続きは、どのようなスケジュールで進めればよいのでしょうか?

今回は、新株予約権の概要や譲渡制限新株予約権の譲渡承認等手続きのスケジュールについて、弁護士が詳しく解説します。

目次
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新株予約権とは

はじめに、新株予約権の概要について解説します。
新株予約権とは、行使することによって、あらかじめ定められた条件でその会社が発行する株式を購入できる権利です。

たとえば、「1株を1,000円で購入できる」という内容の新株予約権を有している者(「新株予約権者」といいます)は、これを行使することで、その会社の株式を1株1,000円で購入できます。

ここでのポイントは、その時点での会社の株価がいくらであったとしても、1株1,000円で株を購入できることです。
この時点におけるその会社の株価が1株あたり3,000円であるとすると、新株予約権者が新株予約権を行使することで、1株あたり2,000円(=3,000円-1,000円)の利益を得られます。

新株予約権の行使によって取得した株式をすぐに市場で売却すれば、この利益が確定します。

新株予約権の活用方法

新株予約権は、どのような目的で導入されることが多いのでしょうか?
ここでは、会社が新株予約権を導入する主な目的を3つ紹介します。

なお、どのような目的で新株予約権を発行するのかによって、新株予約権の募集事項の内容として定めるべき事項が大きく異なります。
また、導入の目的や会社の状況などによっては、新株予約権の発行以外の方法を取ることが適切であるかもしれません。
そのため、会社が実際に新株予約権を発行しようとする際は、機関法務に詳しい弁護士へご相談ください。

役員や従業員へのインセンティブ

もっとも代表的な目的は、役員や従業員へのインセンティブとしての活用です。

先ほど解説したように、その時点における市場での株価に関わらず、新株予約権者はあらかじめ定められた一定の額で会社の株式を購入できます。
そして、市場での株価と新株予約権の行使価格との差額が、事実上の利益となります。

つまり、会社の業績が向上して株価が上昇するほど、新株予約権者が得る利益が大きくなるということです。
そのため、会社の利益に貢献するインセンティブとするために、役員や従業員に新株予約権を付与することがあります。

このような目的で用いられる新株予約権を、「ストックオプション」といいます。

資金調達

2つ目は、資金調達としての活用です。

会社は新株予約権を必ずしも無償で発行しなければならないわけではなく、新株予約権を引き受ける者から金銭の払込みを受けることができます。
また、融資を受ける場合とは異なり、新株予約権の発行による資金調達では返済の必要がありません。

そして、新株予約権を対価として資金を供与する側にとっても、将来その会社が軌道に乗り価値が増大すれば、新株予約権を行使することによって大きな利益を得られる可能性が期待できます。
そこで、会社が外部からの資金を調達する目的で新株予約権を発行することがあります。

買収防衛策

3つ目は、買収防衛策としての活用です。

会社は、新株予約権に差別的行使条件を付すことができます。
たとえば、「自社の株式を20%以上保有する株主は、新株予約権を行使できない」とすることなどが挙げられます。

このような条件を付すことで、敵対的な買収者が会社の買収を仕掛けた際、敵対的買収者以外の株主が権利を行使し、相対的に敵対的買収者の持ち株比率が下がり、買収を防ぐことができます。
こういった買収防衛策を「ポイズンピル」などと呼ぶことがあります。

新株予約権は譲渡できるか

新株予約権は、他者に譲渡できるのでしょうか?
ここでは、新株予約権の譲渡について原則と例外それぞれを解説します。

新株予約権は原則として譲渡できる

株式と同じく、新株予約権は原則として譲渡が可能です(会社法254条1項)。
ただし、新株予約権が社債に付与されている「新株予約権付社債」である場合は、このうち新株予約権のみの譲渡はできません(同2項)。

会社が新株予約権に譲渡制限を付すことも可能

会社は、新株予約権の内容として、譲渡制限を付すことができます(同236条1項6号)。
譲渡制限が付された新株予約権を譲渡するには、会社の承認を得なければなりません。

なお、新株予約権の譲渡制限は株式の譲渡制限と揃えなければならないわけではなく、株式について譲渡制限を付していない会社であっても新株予約権に譲渡制限を付すことができます。

ただし、新株予約権に譲渡制限を付したい場合は、その新株予約権の募集事項を決定する際に定めなければならず、すでに発行した新株予約権に後から譲渡制限を付けることはできません。

譲渡制限新株予約権の譲渡承認手続とスケジュール

譲渡制限が付された新株予約権について譲渡承認請求があった場合、会社はどのような手続きを取る必要があるのでしょうか?
ここでは、譲渡制限新株予約権の譲渡承認手続きとスケジュールについて解説します。

日程 手続
10/1 譲渡等承認請求
10/1 譲渡承認決定(取締役会決議)
10/1 決定内容の通知

会社に対する譲渡等承認請求がなされる

はじめに、譲渡制限新株予約権を有する新株予約権者から、会社に対して譲渡承認請求がなされます。

譲渡制限新株予約権を有する新株予約権者がその譲渡制限新株予約権を譲渡しようとするときは、次の事項を明らかにしたうえで、会社に対して譲渡を承認するかどうか決定するよう請求できます(同262条、264条1号)。

  1. 新株予約権者が譲り渡そうとする譲渡制限新株予約権の内容と数
  2. その譲渡制限新株予約権を譲り受ける者の氏名または名称

また、譲渡制限新株予約権を取得した者も、同様の事項を明らかにしたうえで、会社に対して譲渡を承認するかどうかの決定を求めることができます(同263条1項)。

ただし、譲渡制限新株予約権の取得者から請求をする場合、新株予約権者として新株予約権原簿に記載等されている者、またはその一般承継人(相続人など)と共同して請求しなければならないとされています(同263条2項)。
これらの請求を併せて「譲渡等承認請求」といいます。

譲渡制限新株予約権を譲渡しようとする者又は譲渡制限新株予約権取得者は、上記の譲渡承認請求を会社が承認し、新株予約権原簿の名義書換を行わない限り、原則として譲渡や取得を会社に対抗することができません(同257条1項、2項、同261条)。

取締役会決議で譲渡承認決定をする

譲渡制限新株予約権の譲渡等承認請求がなされたら、会社はこの譲渡等請求を承認するかどうかを決定します。
譲渡等請求を承認するかの決定機関は、原則として取締役会(取締役会非設置会社である場合は、株主総会の普通決議)です(同265条1項)。

ただし、会社がその新株予約権の内容として異なる事項を定めている場合は、その定めに従います。

決定内容を通知する

会社が譲渡制限新株予約権の譲渡を承認するかどうかを決めた場合は、その決定の内容を、譲渡等承認請求をした者に対して通知しなければなりません(同2項)。

原則として、この通知は譲渡等承認請求の日から2週間(これを下回る期間を定款で定めた場合は、その期間)以内に行う必要がありますが、その譲渡等請求をした者との間でこれとは異なる期間を定めることもできます。
この期間を超過した場合は、会社がその譲渡制限新株予約権の譲渡を承認したものとみなされます(同266条)。

会社が譲渡を承認しないこととする場合は、期限内に通知したとの証拠を残すことが特に重要となるため、内容証明郵便で通知することをおすすめします。
内容証明郵便とは、いついかなる内容の郵便が誰から誰に差し出されたのかを、差出人が作成した謄本により日本郵便株式会社が証明するサービスです。

なお、株式の譲渡制限では、会社が譲渡を承認しない場合、株主は会社や指定買受人に株式の買い取りを求めることができます。
一方、譲渡制限新株予約権についてはこのような規定は存在せず、新株予約権者に会社などへの買い取りを求める権利はありません。

まとめ

譲渡制限新株予約権の譲渡等承認請求がなされた場合に必要となる手続きと、スケジュールの概要について解説しました。

会社は、たとえその発行する株式について譲渡制限を付していない場合であっても、新株予約権の内容として定めることで、発行する新株予約権に譲渡制限を付すことができます。
新株予約権者が譲渡制限新株予約権を譲渡しようとする際は、会社の承認を受けなければなりません。

新株予約権者やその譲受人から譲渡等承認請求がなされたら、会社は取締役会などでその譲渡を承認するか否かを決め、譲渡等請求がなされてから原則として2週間以内に結果を通知する必要があります。
通知をしないまま期限を過ぎてしまうと譲渡を承認したものとみなされるため、期限に特に注意しましょう。
期限内に結果を通知したことを示すため、内容証明郵便を用いて通知することがおすすめです。

新株予約権は募集事項に記すことで譲渡制限を付すことができるなど、さまざまな設計が可能です。
新株予約権の発行をご検討の際や譲渡制限新株予約権の譲渡承認等請求がなされた際は、機関法務に詳しい弁護士のサポートを受けるようにしてください。

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記事監修者

Authense法律事務所
弁護士

水谷 友輔

(第二東京弁護士会)

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