募集株式の発行等の手続きには、株主割り当てによる方法とそれ以外の方法があります。
では、募集株式の発行等の手続きとは、どのような手続きを指すのでしょうか?
また、株主割当て以外の募集株式の発行等の手続きは、どのようなスケジュールで行えばよいのでしょうか?
今回は、株主割当て以外の募集株式の発行等の手続きについて概要を弁護士が解説するとともに、スケジュールの例を紹介します。
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募集株式の発行等とは ~募集株式の発行等の2つの手続き~
募集株式の発行等とは、会社が行う新株発行と自己株式処分の両方を含む手続きです。
会社法では、新株発行と自己株式の処分を区分せず、統一して規定しています。
募集株式の発行等には、株主割当てによる方法とそれ以外の方法とが存在します。
はじめに、それぞれの概要について解説します。
株主割当ての場合
株主割当てによる募集株式の発行等とは、既存の株主に対して株式の割当てを受ける権利を与える方法です。
株主割当てによって募集株式の発行等をしようとする会社が非公開会社である場合は、原則として株主総会の特別決議によって募集事項が決定されます(会社法199条2項、202条3項4号、309条2項5号)。
ただし、定款で定めることにより、取締役会に委任することが可能です(同202条3項1号)。
一方、株主割当てによって募集株式の発行等をしようとする会社が公開会社である場合は、取締役会の決議によって募集事項を決定します(同3号)。
株主割当て以外の場合
株式割当て以外の場合には、「第三者割当て」と「公募」の2つがあります。
ただし、これらはあくまでも便宜上の分類であり、会社法に定められた手続き自体に差があるわけではありません。
それぞれの概要について解説します。
第三者割当て
第三者割当てとは、特定の第三者のみを対象として募集株式の申込みの勧誘や実際の割当てを行う方法です。
第三者割当てをしようとする際は、特定の第三者が募集株式を引き受けることとなり、原則として払込期日にその第三者が払込金額の全額を支払います。
ただし、令和元年(2019年)になされた会社法の改正により、上場会社が取締役の報酬等として募集株式を発行等する場合には、金銭の払い込みを要しないこととされました(同202条の2)。
公募
公募とは、不特定多数の者に対して株式引き受けの勧誘をする方法です。
公募によって募集株式の発行をすることを「公募増資」といいます。
一般的には、証券会社が当初の「申込者」兼「引受人」となり、払込期日に払込金額の総額を支払うことが多いでしょう。
その後、証券会社がこの株式を多数の投資家などに譲渡します。
公募増資などの手続きには注意点が少なくないため、実際に行う際は弁護士のサポートを受けて進めるとよいでしょう。
募集株式の発行等の手続き(株主割当て以外の場合)のスケジュール例
募集株式の発行等の手続きのうち、株主割当て以外(第三者割当てや公募増資)を行いたい場合は、どのように進めればよいのでしょうか?
ここでは、取締役会設置会社である非公開会社であるケースを前提に、スケジュールの例を紹介します。
日程 | 手続 | |
---|---|---|
9/25 | 株主総会特別決議 (種類株主総会決議) |
|
10/15 | 募集事項の決定(取締役会決議) | |
10/16 | 申込みをしようとするものへの通知 | 又は 総数引受契約の承認(取締役会決議) 総数引受契約の締結 |
申し込み | ||
募集株式の割当ての決定 | ||
10/27 | 申込者への通知 | |
11/1 | 払込期日(又は払込機関の初日) 同上(又は払込期間の末日) |
|
株券の発行 | ||
11/13 | 変更の登記 |
なお、実際には会社が公開会社であるか非公開会社であるか、その会社による定款の規定などによって必要な手続きやスケジュールが変動します。
そのため、実際に第三者割当てや公募増資による募集株式の発行等を行いたい場合には、機関法務に詳しい弁護士へご相談ください。
募集事項の決定(株主総会特別決議)
はじめに、募集事項を決定します。
会社が募集株式の発行等の手続き(新株発行や自己株式の処分)をしようとする際は、その都度次の募集事項を定めなければなりません(同199条1項)。
- 募集株式の数(種類株式発行会社である場合は、募集株式の種類と数)
- 募集株式の払込金額またはその算定方法
- 金銭以外の財産を出資の目的とするときはその旨と、その財産の内容及び価額
- 募集株式と引換えにする金銭の払込みまたは「3」の財産の給付期日(払込期日)またはその期間(払込期間)
- 新たに株式を発行するときは、増加する資本金と資本準備金に関する事項
非公開会社である場合、この募集事項の決定は株主総会の特別決議によることが原則です(同199条2項、309条2項5号)。
ただし、株主総会の特別決議によって募集株式の数の上限と払込金額の下限を定めた場合には、募集事項の決定を取締役会に委任できます(同200条1項、309条2項5号)。
この委任決議は1度行えば永久に有効である性質のものではなく、払込期日または払込期間の末日が委任決議から1年以内の日である募集についてのみ効力を生じるものです(同200条3項)。
なお、払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合は、取締役は株主総会において、その払込金額で募集をすることを必要とする理由を説明しなければなりません(同199条3項、200条2項)。
また、会社が種類株式を発行している場合において、募集株式の種類が譲渡制限株式である場合には、定款に別段の定めがない限りその種類株主による種類株主総会の特別決議が必要となります(同199条4項、200条4項)。
これは、有利発行であるかどうかを問いません。
申込みをしようとする者に対する通知
次に、募集株式の引き受けを申し込もうとする者に対して、通知を行います。
会社は、募集に応じて募集株式の引受けの申込みをしようとする者に対して、次の事項を通知しなければなりません(同203条1項、会社法施行規則41条)。
- 株式会社の商号
- 募集事項
- 金銭の払込みをすべきときは、払込みの取扱いの場所
- 発行可能株式総数(種類株式発行会社の場合は、各種類の株式の発行可能種類株式総数を含む)
- 株式会社(種類株式発行会社を除く)が発行する株式の内容として会社法第107条第1項各号に掲げる事項(株式の譲渡制限、取得請求権、取得条項)を定めているときは、その株式の内容
- 株式会社(種類株式発行会社に限る)が法第108条第1項各号に掲げる事項(剰余金の分配や議決権行使など)につき内容の異なる株式を発行することとしているときは、各種類の株式の内容など
- 単元株式数についての定款の定めがあるときは、その単元株式数(種類株式発行会社の場合は、各種類の株式の単元株式数)
- 次の定款の定めがある場合は、その内容
- 譲渡承認機関、指定買取人の指定、会社が譲渡を承認したとみなされる場合の期間短縮
- 特定の株主からの取得について売主追加請求権を排除する旨
- 取得請求権付株式の対価として交付する他の株式の数に端数が生じたときの交付金額
- 取得条項付株式の取得日または一部取得の決定機関
- 相続人等への売渡請求
- 役員選任権付種類株式発行会社における、取締役や監査役の選任手続き
- 株主名簿管理人を置く旨の定款の定めがあるときは、その氏名(名称)と住所、営業所
- 電子提供措置をとる旨の定款の定めがあるときは、その規定
- 定款に定められた事項のうち、その他株式会社に対して募集株式の引受けの申込みをしようとする者が当該者に対して通知することを請求した事項
申込みをしようとする者に対し、会社はこれらの事項とともに株式の申込期間(募集期間)を通知する運用が一般的です。
ただし、申込みをしようとする者に対して会社が金融商品取引法に定めのある目論見書を交付した場合は、これらの通知は不要となります(会社法203条4項)。
また、通知後に通知事項に変更が生じた場合には、直ちにその旨と変更があった事項を募集株式の引き受けの申込みをした者に対して通知しなければなりません(同5項)。
申込み
募集に応じて募集株式の引受けの申込みをする者は、次の事項を記載した書面または電磁的記録を株式会社に交付します(同2項、3項)。
- 申込みをする者の氏名または名称及び住所
- 引き受けようとする募集株式の数
実際の運用では、募集株式の引受けの申込みにあたって、申込みをする者に対し、会社は払込金額と同額である申込証拠金を添えて申し込むよう求めることが多いでしょう。
この申込証拠金は、最終的に株式の払込金額に充当されます。
募集株式の割当ての決定
申込みを受け、会社は次の事項を定めます(同204条1項)。
- 募集株式の割当てを受ける者
- その者に割り当てる募集株式の数
会社は、申込者に割当てる株式の数を申込者が希望した数(申込者が会社に対して通知した、「引き受けようとする募集株式の数」)よりも少なくすることが可能です。
この決定は、取締役会決議によって行うことが原則です(同条2項)。
ただし、代表取締役や業務執行取締役に決定を委任することも可能とされています。
なお、募集株式が譲渡制限株式である場合は、定款に別段の定めがない限り、取締役会決議によらなければなりません(同204条2項)。
申込者への通知
株式会社は、払込期日(払込期間を定めた場合はその期間の初日)の前日までに、申込者に対して、その申込者に割り当てる募集株式の数を通知します(同3項)。
申込者は原則として、この通知を受けた株数について募集株式の引受人となります(同206条)。
(総数引受契約)
総数引受契約とは、募集株式を引き受けようとする者が、その株式のすべての引き受ける旨の契約です。
この総数引受契約によって募集株式の発行等をする場合、ここまでで紹介したステップのうち「申込みをしようとする者に対する通知」から「申込者への通知」までの手続きは不要となります(同205条1項)。
ただし、募集株式が譲渡制限株式である場合、定款に別段の定めがない限り、取締役会決議によって総数引受契約の承認をしなければなりません(同2項)。
なお、会社が非公開会社である場合、総数引受契約によって募集株式の発行等の発行をするのであれば、最短1日で募集株式の発行等の手続きを終えることが可能です。
この場合、次の手続きが必要となります。
- 募集事項の決定をする株主総会特別決議の日を、払込期日とすること
- 募集事項の通知期間の短縮について株主全員から同意を受け、募集事項決定決議の日に通知すること
- 募集株式の引受人との間で総数引受契約を締結すること
詳しくは、手続きのサポートを依頼する弁護士へご相談ください。
払込期日または払込期間
募集株式の引受人は、所定の払込期日または払込期間内に、株式会社が定めた銀行等の払込みの取扱いの場所において、それぞれの募集株式の払込金額の全額を払い込まなければなりません(同208条1項)。
募集株式の引受人は、それぞれ次の日に募集株式の株主となります(同209条1項)。
- 会社が払込期日を定めた場合:その払込期日
- 会社が払込期間を定めた場合:出資の履行をした日
なお、申込みをしたものの払込期日または払込期間内に出資の履行をしないときは、その募集株式の株主となる権利を喪失することとなります(同208条5項)。
株券の発行
会社が株券発行会社である場合は、募集株式の発行後、遅滞なくその株式に係る株券を発行しなければなりません(同215条1項)。
変更登記
新株の発行によって募集株式の発行等をする場合、募集株式発行の効力が生じることによって資本金の額や発行済み株式総数、その種類や種類ごとの数に変更が生じます。
これらは登記事項であり、変更が生じた場合には、変更から2週間以内に会社の本店所在地において変更登記をしなければなりません(同915条1項)。
なお、払込期間を定めた場合における変更登記は、その定めた期間の末日から2週間以内に行えば足りるとされています(同2項)。
一方、自己株式の処分によって募集株式の発行等をした場合は、資本金の額や発行済み株式総数、その種類や種類ごとの数に変更が生じません。
そのため、原則として変更登記は不要です。
まとめ
募集株式の発行等のうち、株主割当以外の場合の手続きについて、手続きの概要とスケジュールについて解説しました。
募集株式の発行等は、株主割当による場合と株主割当以外の場合とで必要となる手続きが大きく異なります。
また、会社が公開会社であるかどうかや、総数引受契約によるのかそれ以外の方法で行うのかによっても手続きに大きな違いが生じます。
募集株式の発行等は、一つ手続きを誤ると大きなトラブルへと発展してしまいかねません。
実際に募集株式の発行等をしようとする際は手続きに不備を生じないよう機関法務に詳しい弁護士へ相談のうえ、手続きの確認やスケジュールを組み立てるようにしてください。
記事監修者
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