単元株制度を導入したものの、その後単元株式数を変えたい場合や、単元株制度を廃止したい場合もあると思います。
単元株制度の変更や廃止をするには、どのような手続きを踏む必要があり、どのようなスケジュールで進めればよいのでしょうか?
今回は、単元株制度の変更や廃止の手続きについて、弁護士が詳しく解説します。
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単元株制度とは
単元株制度の変更や廃止について解説する前に、単元株制度の基本について解説します。
単元株制度とは、会社が定めることにより、100株や1,000株などまとまった数の株式を1単元として設定する制度です。
議決権の行使は原則として1株単位で行いますが、単元株制度を導入した場合は、1単元単位で議決権を行使することになります。
たとえば、100株を1単元として定めている会社の株式を800株有している株主は、8個の議決権を行使できるということです。
単元株制度を導入することで、株主の管理コストを減らす効果が期待できます。
なお、1単元の株式は何株としてもよいわけではなく、1,000株(またはその会社の発行済株式の総数の200分の1にあたる株数)を超えることはできません。
また、上場会社である場合は、原則として1単元を100株にすることとされています(上場規程427の2)。
単元株式数を変更するための手続き
会社が一度設定した単元株式数を変更したり、単元株制度自体を廃止したりする際は、どのような手続きが必要となるのでしょうか?
単元株制度の変更や廃止において必要となる主な手続きはそれぞれ次のとおりです。
単元株式数を増加させる場合
これまで100株を1単元としていた会社が、500株を1単元としたいなど単元株式数を増加させようとする場合には、定款の変更が必要です。
この定款変更には、株主総会の特別決議が必要です(同188条1項、466条、309条2項11号)。
また、これにより損害を及ぼすおそれのある種類株主への通知または公告をしなければなりません(会社法116条1項、3項、4項)。
単元株式数を減少させる場合または廃止する場合
これまで100株を1単元としていた会社が、50株を1単元としたいなど単元株式数を減少させる場合や単元株制度自体を廃止する場合にも、定款の変更が必要です。
ただし、単元株式数の減少や制度の廃止は株主にとって不利益がないことから、株主総会特別決議は不要であり、取締役会の決議によって定款を変更できます(同195条1項)。
この場合も、損害を及ぼすおそれのある種類株主への通知または公告は必要です(同195条2項、3項)。
単元株式数を増加させるスケジュール例
単元株式数を増加させたい場合、どのようなスケジュールで進めればよいのでしょうか?
ここでは、取締役会設置会社における一般的なスケジュールの例を紹介します。
日程 | 手続 |
---|---|
7/22 | 単元株式数を増加させる定款変更をする旨の取締役会決議 |
同日 | 適時開示(上場企業の場合) |
同日 | 保振機構への通知(振替株式の場合) |
8/5 | (損害を及ぼす恐れがある種類株主への通知又は公告) |
8/27 | 定款変更の株主総会特別決議 |
同日 | 効力発生日 |
9/1 | 変更の登記 |
なお、ここで紹介するのは一般的なケースにおける一例です。
実際に手続きをする際は、弁護士へご相談ください。
取締役会決議をする
はじめに、単元株式数を増加させる定款変更をする旨の取締役会決議を行います(会社法298条1項、4項)。
(上場会社の場合)適時開示をする
上場会社である場合、取締役会によって単元株式数の増加の決議がされたら、直ちにその旨を開示しなければなりません(上場規程402条1号ad)。
取締役会による決議後、すぐに手続きすることができるよう、あらかじめ書類を準備しておいてください。
(振替株式の場合)保振機構へ通知する
会社が株主等振替制度を利用している場合、取締役会での決議後速やかに保振機構に通知しなければなりません。
株主等振替制度とは株主等の権利の管理を、証券保管振替機構(通称「ほふり」)や証券会社等に開設された口座において電子的に行うものであり、上場会社であれば原則として利用しているはずです。
損害を及ぼすおそれのある種類株主へ通知または公告をする
会社が種類株式を発行しており、単元株式数の増加が種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合には、原則としてその種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議を経なければなりません(同322条1項)。
ただし、種類株主総会の決議を要しない旨を定款で定めることができ、ほとんどの会社はこの定めを置いているものと思われます(同2項)。
この定めがある場合において、単元株式数を増加する定款変更をしようとする場合は、効力発生日の20日前までにその損害を及ぼすおそれのある種類株主へ通知または公告をしなければなりません(同116条3項、4項)。
また、この場合においては、反対株主からの買取請求がなされる可能性があります。
買取請求は、効力発生日の20日前から前日までの間に株式買取請求に係る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)を明らかにして行わなければなりません(同5項)。
買取請求がなされたら、会社は効力発生日から60日以内に、請求者である株主に対して株式の買取対価を支払わなければならず、この期限を過ぎると利息の支払いが発生します(同117条1項、4項)。
しかし、買取価格は会社と請求者である株主との間で価格の協議することとされており、協議がまとまらないこともあるでしょう。
そこで、価格の決定について効力発生日から30日以内に協議が整わない場合は、会社または請求者である株主は裁判所に価格決定の申立てをすることができます(同2項)。
また、このような規定があるにも関わらず、効力発生日から60日以内に価格決定の申立てがないときは、株主はいつでも買取請求を撤回することが可能となります(同3項)。
株主総会特別決議をする
次に、株主総会特別決議を行います。
会社が単元株式数を増加させる旨の定款変更をするためには、株主総会の特別決議を経なければなりません(同188条1項、466条、309条2項11号)。
特別決議とは、行使できる議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上による多数の賛成によって行う決議です。
ただし、株式の分割と同時に単元株式数を増加させる場合は、例外的に株主総会特別決議を経ることなく定款を変更することが可能です(同191条)。
また、先ほど解説したように、単元株式数の増加が種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合には、決議を不要とする旨の定款に別段の定めがない限り、その種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議を経なければなりません(同322条1項)
(上場会社の場合)臨時報告書を提出する
上場会社である場合、株主総会で単元株式数を増加させる旨の定款変更が決議されたら、遅滞なく臨時報告書を提出しなければなりません(企業内容等の開示に関する内閣府令19条2項12号、19号)。
臨時報告書の提出先は、内閣総理大臣(財務局長等)です(金融商品取引法24条の5第4項)。
変更登記をする
単元株式数は、登記事項です。
そのため、単元株式数に変更が生じた場合は、会社の本店所在地においてその旨を登記しなければなりません(同911条3項8号)。
変更登記の期限は、変更が生じた日(つまり、株主総会特別決議の日)から2週間以内です。
期限が短いため、あらかじめ登記申請の準備をしておくことをおすすめします。
単元株式数を減少させる場合や単元株制度を廃止する場合のスケジュール例
次に、単元株式数を減少させる場合や単元株制度を廃止する場合のスケジュール例を紹介します。
これは、取締役会設置会社におけるスケジュールの一例です。
日程 | 手続 |
---|---|
10/22 | 単元株式数の減少又は定めを廃止する定款変更をする旨の取締役会決議 |
同日 | 適時開示(上場企業の場合) |
11/1 | (損害を及ぼす恐れがある種類株主への通知又は公告) |
12/1 | 効力発生日 |
12/2 | 株主への通知又は公告 |
12/10 | 変更の登記 |
単元株制度の廃止や単元株式数の減少は株主にとって不利益がないため、単元株式数を増加させる場合と比較して手続きが簡略化されているのが特徴です。
取締役会決議をする
はじめに、単元株式数を減少させる場合や単元株制度を廃止する旨の取締役会決議を行います。
先ほど解説したとおり、単元株式数の減少や単元株制度の廃止は、株主にとって不利益が生じないのが原則です。
そのため、単元株式数の増加とは異なり株主総会での特別決議は不要であり、取締役会の決定によって定款を変更することが可能です(同195条1項)。
この定款変更の効力は、取締役会で定めた時期に生じます。
なお、会社が種類株式を発行しており、ある種類の種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合は、原則としてその種類の株式の株主を構成員とする種類株主総会の決議を経なければなりません(同322条1項)。
ただし、定款で種類株主総会の決議を要しない旨の定めをした場合は、種類株主総会の決議を行うことなく定款変更の効力が生じます(同2項)。
(上場会社の場合)適時開示をする
上場会社である場合、取締役会によって単元株式数の減少または単元株制度廃止の決議がされたら、直ちにその旨を開示しなければなりません(上場規程402条1号ad)。
この点は、単元株式数を増加する場合と同様です。
損害を及ぼすおそれのある種類株主へ通知または公告をする
会社が種類株式を発行しており、単元株式数の減少または単元株制度の廃止が種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合には、原則としてその種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議が必要です(同322条1項)。
ただし、種類株主総会の決議を要しない旨を定款で定めることができ、この定めがある場合は、種類株主総会は不要となります(同2項)。
この定めがある場合において、単元株式数を減少したり単元株制度を廃止したりする定款変更をしようとする場合は、効力発生日の20日前までに、その損害を及ぼすおそれのある種類株主へ通知または公告をしなければなりません(同116条3項、4項)。
また、この通知または公告をすると、反対株主からの買取請求がなされる可能性があります。
この買取請求は、効力発生日の20日前から前日までの間に、株式買取請求に係る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)を明らかにして行わなければなりません(同5項)。
買取請求がなされると、会社には株式を買い取る必要が生じ、価格について株主との協議や裁判所への価格決定の申立てを行うこととなります。
株主への通知または公告をする
取締役会において単元株式数の減少や単元株制度の廃止をする定款の変更をした場合、株式会社はその定款の変更の効力が生じた日以後遅滞なく、その株主(種類株式発行会社にあっては、同項の規定により単元株式数を変更した種類の種類株主)に対して、その定款変更を通知しなければなりません(同195条2項)。
また、この通知は公告に変えることも可能です(同3項)。
変更登記をする
単元株制度を導入している場合、単元株制度を導入している旨とその会社における単元株式数は登記事項です(同911条3項8号)。
そのため、単元株式数を減少させた場合や単元株制度を廃止した場合は、会社の本店所在地において変更登記をしなければなりません(同915条1項)。
変更登記の期限は、変更が生じてから(つまり、変更を決議する取締役会から)2週間以内です。
期限に余裕がないことから、あらかじめ登記申請の準備をしておくとよいでしょう。
まとめ
会社が単元株制度を導入している場合における、単元株式数の増加や減少、単元株制度の廃止に関する手続の概要とスケジュールについて解説しました。
単元株式数を増加させる場合、株主に不利益が生じる可能性があることから、原則として株主総会の特別決議を経て定款を変更しなければなりません。
一方で、単元株式数の減少や単元株制度の廃止は原則として株主に不利益を及ぼすものではないため、株主総会特別決議によらず、取締役会の決議によって定款を変更することが可能です。
単元株式数の増加や減少、単元株制度の廃止に必要な手続きは、会社が上場しているかどうかや損害を及ぼすおそれのある種類株主がいるかどうか、また定款によって損害を及ぼすおそれのある種類株主による決議を不要としているかどうかなどによって変動します。
そのため、実際の手続きで手続きの不備を生じさせないためには、機関法務に詳しい弁護士のサポートを受けたうえでスケジュールを検討し、慎重に手続きを進めるようにしてください。
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