公開 2024.02.28BusinessTopics

全部取得条項付種類株式とは?取得手続きとスケジュールを弁護士がわかりやすく解説

会社法

全部取得条項付種類株式は、少数株主のキャッシュ・アウトを目的として行われることが少なくありません。
会社が発行済の普通株式を全部取得条項付株式とするには、どのような手続きを踏む必要があるのでしょうか?

また、全部所得条項付種類株式に転換した株式を会社が取得するには、どのようなスケジュールで行えばよいのでしょうか?
今回は、会社が発行済株式を全部所得条項付種類株式としたうえで、一定の少数株主から株式を取得する場合の手続きとスケジュール例を弁護士が詳しく解説します。

目次
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全部取得条項付種類株式とは

全部取得条項付種類株式とは、個々の株主の同意を得ることなく、株主総会決議を経ることで会社がその株式の全部を取得できる種類株式です(会社法171条1項)。
全部取得条項付種類株式を取得するための株主総会は、特別決議でなければなりません(同309条2項)。

なお、これと似たものに「取得条項付種類株式」がありますが、これはあらかじめ定めた事項(株主の死亡など)が生じた際に会社が株式を買い取りできる種類株式を指します。

全部取得条項付種類株式を発行するための手続き

株式が全部取得条項付種類株式となると、株主は会社から強制的に株式を買い上げられる可能性が生じ、不利益を被りかねません。
そのため、会社が全部取得条項付種類株式を発行するには、株主総会の特別決議を経て定款を変更する必要があります。

また、そもそも会社が種類株式発行会社でない場合は、これに先立って種類株式を発行するための定款変更も必要です。

全部取得条項付種類株式を発行する主な目的

全部取得条項付種類株式は、どのような目的で用いられることが多いのでしょうか?
ここでは、会社が全部取得条項付種類株式を発行する主な目的を2つ紹介します。

キャッシュ・アウトのため

1つ目は、少数株主のキャッシュ・アウトです。
キャッシュ・アウトは「スクイーズ・アウト」とも呼ばれ、少数株主の排除を意味します。

全部取得条項付種類株式の買い上げには株主総会の特別決議が必要であるとはいえ、株主全員の同意が必要となるわけではありません。
そのため、会社の発行済みのすべてを全部取得条項付種類株式に転換したうえで、特別決議を経て少数株主の保有株を強制的に買い取ることで、少数株主を締め出すことができます。

この記事では、この目的であることを前提としてスケジュールや手続きについて解説します。

買収防衛策のため

2つ目は、買収防衛策としての活用です。

株式を全部取得条項付種類株式としておくことで、敵対的な買収者に株式を取得されても会社がその株式を買い取ることができます。
そのため、株式が敵対的買収者の手に渡る事態を防ぐことができるようになります。

発行済株式を全部所得条項付種類株式としたうえで一定の少数株主から株式を取得する場合のスケジュール例

会社が発行済の株式を全部取得条項付種類株式へと転換したうえで一定の少数株主をキャッシュ・アウトする場合、どのような手続きが必要となるのでしょうか?
ここでは、会社が元々普通株式のみを発行していた(種類株式を発行していなかった)場合を前提に、スケジュールの一例と必要な手続きの概要について解説します。

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日程 手続
7/1 基準日の決定
同日 (適時開示(上場会社の場合))
同日 (保振機構への通知(振替株式の場合))
7/14 基準日公告
7/31 基準日
8/10 株主総会及び種類株主総会招集のための取締役会決議
8/12 (臨時報告書の提出(上場会社の場合))
9/5 招集通知の発送
9/6 事前開示の開始
9/26 種類株式発行会社となるための定款変更決議
同日 即発行株式を全部取得条件付種類株式とする定款変更決議
同日 種類株主総会決議
同日 全部取得条項付種類株式の取得の決議
9/30 変更登記

なお、必要な手続きは会社の組織形態や状況などによって異なることがあります。
実際に全部取得条項付種類株式の発行や取得を検討している際は弁護士へご相談ください。

株主総会の基準日を決定する

全部取得条項付種類株式を発行するには株主総会の開催が必要となりますが、これは定時の株主総会を待たず、臨時株主総会とすることが多いでしょう。

そして、会社が臨時株主総会を開催しようとする場合は、その臨時株主総会で議決権を行使できる株主を定めるために、基準日を設定することが一般的です(同124条1項)。
株主が多い場合や株主の流動性が高い場合は、基準日を定めないと当日になるまで議決権を行使できる株主が確定せず、混乱が生じるおそれがあるためです。

基準日の決定は、取締役会において、その基準日株主が行使することができる権利を定めることによって行います。
ただし、基準日と議決権行使日をあまり遠い日付とすることはできず、基準日からその基準日株主が議決権を行使できるとする株主総会や種類株主総会までは、3か月以内でなければなりません(同2項)。

適時開示をする

会社が上場会社である場合、株主総会や種類株主総会の基準日を決定したら、直ちに適時開示をしなければなりません(上場規程402条1項an・ap)。
定款変更や全部取得条項付種類株式の取得に関する基準日は、投資者の投資判断に影響を及ぼす可能性が高いためです。

なお、上場会社が全部取得条項付種類株式を発行する場合、取得した株式は上場廃止となることが想定されます。
そのため、証券取引所には事後的に報告をするのではなく、あらかじめ相談しておくとよいでしょう。

保振機構へ通知する

会社が株式等保管制度を利用している場合は、基準日の決定後すみやかに、証券保管振替機構(略称「ほふり」)に所定の事項を通知しなければなりません。
この通知は、基準日の2週間前までに行う必要があります。
上場会社であればほふりを活用しているはずですので、この手続きも忘れないよう注意してください。

基準日公告をする

会社が基準日を定めたら、基準日の2週間前までに、次の事項を公告しなければなりません(会社法124条3項)。

  1. その基準日
  2. 基準日株主が行使できる権利の内容

これらの事項が定款に定められている場合、基準日公告は不要とされているものの、臨時株主総会の場合は基準日などが定款に定められていることは想定しづらく、原則どおり公告が必要となることが一般的です。

株主総会の招集を決定する

続いて、次の株主総会や種類株主総会の招集を決定します。

  • 種類株式を発行するための定款変更のための株主総会
  • 発行済株式を全部取得条項付種類株式とするための定款変更のための株主総会
  • 種類株主総会
  • 全部取得条項付種類株式の取得のための株主総会

これらの招集は、取締役会で決定します(同298条1項)。

臨時報告書を提出する

上場会社である場合、全部取得条項付種類株式の取得のための株主総会の招集が決定したら、内閣総理大臣(財務局長)宛に遅滞なく臨時報告書を提出しなければなりません。
ただし、全部取得条項付種類株式の取得によって、株主が25名未満となることが見込まれる場合に限ります。

事前開示を開始する

全部取得条項付種類株式を取得する会社は、次のうちいずれか早い日から、取得後6か月を経過するまでの間、一定の書面を本店に備え置かなければなりません(同171条の2 1項)。

  1. 株主総会の日の2週間前の日
  2. 株主に対する該全部取得条項付種類株式の全部を取得する旨の通知または公告をした日

この書面に記載すべき事項は、取得する株式の種類と数、取得日、取得対価の割当てに関する事項などです。
記載すべき事項は会社法と会社用施行規則に定められているため、漏れのないように準備してください。

定款を変更する

種類株式を発行していない会社が新たに全部取得条項付種類株式を発行するには、2段階での定款変更が必要となります。

種類株式を発行するための定款変更

1つ目は、会社が種類株式を発行するための定款変更です。

異なる2種類以上の株式を発行する会社を「種類株式発行会社」といいます。
普通株式だけを発行している会社が種類株式発行会社となるには、必要事項を定款に定めなければなりません。
定款の変更には、株主総会の特別決議が必要です(同309条2項)。

この段階では、「会社が全部取得条項付種類株式を発行できる状態となった」だけであり、実際に全部取得条項付種類株式を取得したり発行したりしたわけではありません。

発行済株式を全部取得条項付種類株式とするための定款変更

2つ目は、発行済の株式を全部取得条項付種類株式に変えるための定款変更です。

この場合、定款では次の2点を定めなければなりません(同108条7項)。

  1. 取得対価の決定方法
  2. 取得のための株主総会の決議条件

種類株主総会決議をする

発行済株式を全部取得条項付種類株式とするための定款変更をするには、自身の有する株式が全部取得条項付種類株式に転換されることとなる種類の株主による株主総会特別決議が必要です(同111条2項)。

これまで普通株式のみを発行していた会社の場合、この種類株主総会で決議をすべき株主は、一つ上で解説した「発行済株式を全部取得条項付種類株式とするための定款変更」について決議した株主と同一となります。

全部取得条項付種類株式の取得決議をする

次に、全部取得条項付種類株式を取得するための株主総会特別決議を行います(同309条2項)。
「種類株式を発行するための定款変更」からここまでの手続きは、すべて同日に行うことができます。

ここでは、次の事項について決議します(同171条1項)。

  1. 取得対価の内容と、その数や額、算定方法
  2. 取得対価を交付する場合は、その取得対価の割当てに関する事項
  3. 取得日

この場合において、取締役は全部取得条項付種類株式の全部を取得することを必要とする理由を説明しなければなりません(171条3項)。

なお、少数株主のキャッシュ・アウトを目的として全部取得条項付種類株式を取得する際は、この対価の割当て設定が非常に重要となります。
なぜなら、他の株主には普通株式を交付する一方で、キャッシュ・アウトしたい少数株主には結果的に金銭が交付できる形とする必要があるためです。

しかし、「他の株主には普通株式を交付して、キャッシュ・アウトの対象となる株主には金銭を交付する」などと定めることはできません。
そこで、すべての株主に株式を対価として割り当てることとしたうえで、少数株主に割当てる分の株式が端数となるように調整し、この端数を会社が買い取ることでキャッシュ・アウトの実現を目指します。

変更登記を申請する

ここまでの株主総会や種類株主総会の決議によって、会社の発行する株式の種類や数などに変更が生じます。
これらは登記事項であり、変更後2週間以内に変更登記をしなければなりません(同915条1項)。

通知または公告をする

全部取得条項付種類株式の取得決議がされたら、次の通知または公告をそれぞれ行います。

反対株主等の株式等買い取り請求のための通知または公告

1つ目は、反対株主等の株式等買い取り請求のための通知または公告です。

会社が全部取得条項付種類株式の発行を決議した場合、これに反対する株主は定款変更の効力発生日の20日前の日から前日までの間に、自己の有する株式を買い取るよう会社に対して請求できます(同116条1項2号、108条1項7号)。

そこで、会社は定款変更の効力発生日の20日前までに、既発行株式を全部取得条項付種類株式とする定款変更を行う旨を、株主などに対して通知または公告しなければなりません(同116条3項、4項)。

全部取得条項付種類株式の全部を取得する旨の通知または公告

2つ目は、全部取得条項付種類株式の全部を取得する旨の通知または公告です。

会社が全部取得条項付種類株式を決議した場合、一定の反対株主やその株主総会において議決権を行使できない株主は、取得日の20日前から前日までの間に、裁判所に対して全部取得条項付種類株式の取得価格決定の申立てをすることができます(同172条1項)。

そこで、会社は取得日の20日前までに、全部取得条項付種類株式の株主に対し、全部取得条項付種類株式の全部を取得する旨の通知または公告をしなければなりません(同172条2項、3項)。

基準日公告をする

全部取得条項付種類株式の取得では、あらかじめ設定した取得日時点での株主に対価が交付されることが原則です。

一方で、振替株式を発行している場合は取得日とは別で基準日を設定し、この基準日時点における株主に対して対価が交付されることとなります。

基準日を定めた場合は、基準日の2週間前までに公告をしなければなりません(同124条3項)。

取得日が到来する

あらかじめ定めた取得日が到来します。
なお、取得日と別に基準日を定める場合は、取得日の前日を基準日とすることが一般的です。

株主名簿の記載をする

全部取得条項付種類株式の取得によって株主名簿の記載事項に変更が生じた場合は、その旨を株主名簿に記載または記録します(同132条1項2号)。

事後開示をする

全部取得条項付種類株式を取得した場合、会社は遅滞なく一定の事項を記載した書面等を作成し、取得日から6か月間これを本店に備え置かなければなりません(同173条の2 1項、2項)。
この書面等には、株式会社が取得した全部取得条項付種類株式の数のほか、会社法施行規則で定める事項を記載します。

端数株式の競売や売却をする

先ほど解説したように、少数株主のキャッシュ・アウトを目的として全部取得条項付種類株式を活用した場合は、端数を生じさせることが一般的です。
この場合、端数分を取りまとめて競売や裁判所の許可を得ての売却を行い、これによって得た対価を少数株主に交付します。

これによって、少数株主のキャッシュ・アウトが完了します。

まとめ

全部取得条項付種類株式を発行して少数株主をキャッシュ・アウトする手続きと全体の流れについて解説しました。

全部取得条項付種類株式の発行や取得にはステップが多いうえ、少数株主が大きな不利益を被るおそれがあるため、法令の規定に則って特に慎重に手続きを進めなければなりません。

そのため、実際に行う際は機関法務に詳しい弁護士のサポートを受けつつスケジュールを組み立て、確実に手続きを進行することが必要です。

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記事監修者

Authense法律事務所
弁護士

伊藤 新

(第二東京弁護士会)

第二東京弁護士会所属。大阪市立大学法学部卒業、大阪市立大学法科大学院法曹養成専攻修了(法務博士)。企業法務に注力し、スタートアップや新規事業の立ち上げにおいて法律上何が問題となりうるかの検証・法的アドバイスの提供など、企業 のサポートに精力的に取り組む。また、労働問題(使用者側)も取り扱うほか、不動産法務を軸とした相続案件などにも強い意欲を有する。

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