さまざまな理由によって、会社が単元株制度を導入する場合があります。
そもそも、単元株制度とはどのような制度でしょうか?
また、会社が単元株制度を導入するためには、どのような手続きが必要となるのでしょうか?
今回は、単元株制度の基本的な概要や、取締役会設置会社が新たに単元株制度を導入するために必要となる手続きについて弁護士が詳しく解説するとともに、導入スケジュールの一例を紹介します。
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単元株制度とは
単元株制度とは、複数株をまとめた1単元の株式について議決権の行使を認め、1単元に満たない株式(「単元未満株式」といいます)について議決権の行使を認めないこととする制度です(会社法188条)。
単元株制度は、従前の「単位株制度」に代わり2001年6月の商法改正で創設されました。
たとえば、ある会社が議決権行使に必要な1単元を100株として定めた場合、200株を有している株主は2単元分の議決権を行使することができる一方で、99株しか有していない株主は議決権を行使できないこととなります。
ただし、会社は1単元として次のいずれかを超える数を設定することはできません(同2項、会社法施行規則34条)。
- 1,000株
- 発行済株式の総数の200分の1にあたる株数
また、上場会社の場合は、1単元の株式数を100株とすることが原則とされています(上場規程427条の2)。
なお、上場会社において売買など取引の基準となる株数は、1単元の株数と同じとなることが通常です。
たとえば、100株を1単元とするA社の株式は、100株単位で売買されるのが原則であるということです。
単元株制度を導入する主な目的
会社が単元株制度を導入する主な目的は、株式の流動性自体は維持しつつも、株主の管理に要する手間やコストに見合うだけの出資単位を確保することです。
株主の数が多いと、会社はその株主の管理や通知の発送などに手間やコストがかかります。
出資が多く集まることは喜ばしい一方で、所有株式数(出資額)が少ない株主が多いと、それだけ管理コストが嵩んでしまうことでしょう。
そこで、単元株制度を導入して100株などまとまった株式数をセットにして流通させることで、1株あたりの管理コストや手間を減らしやすくなる効果が期待できます。
ただし、単元株制度を導入すると、株式を購入するためによりまとまった金額が必要となる(※)ことから、個人投資家などが投資しづらくなる可能性があるため、単元株制度を導入する際は慎重な検討が必要です。
投資額の増加による影響が懸念される場合は、株式分割(1株を100株とするなど、1株を細分化する手続き)などと併せて単元株制度の導入を行うことも検討するとよいでしょう。
自社で単元株制度を導入すべきかどうかお悩みの際は、機関法務に詳しい弁護士へご相談ください。
※例:上場しているA社株式が1株1万円である場合1万円から投資できるところ、1単元を100株とする単元株制度が導入されるとA社株式に投資するためには原則として100万円が必要となる。
単元株制度導入のスケジュール例
会社が単元株制度を導入する場合、どのようなスケジュールで手続きを進めればよいのでしょうか?
ここでは、取締役会設置会社であることを前提に、単元株制度の導入に必要となる手続きとスケジュールの例を紹介します。
日程 | 手続 |
---|---|
7/23 | 取締役会決議 |
同日 | 適時開示(上場会社の場合) |
同日 | 保振機構への通知(振替株式の場合) |
8/5 | (損害を及ぼすおそれがある種類株主への通知又は公告) |
同日 | 定款変更の株主総会特別決議 |
同日 | (臨時報告書の提出) |
同日 | 効力発生日 |
9/1 | 変更の登記 |
ここで紹介するのはあくまでも一般的なケースであり、会社の状況や上場の有無、定款の内容などによって必要な手続きは変動します。
そのため、単元株制度の導入を検討している際は、弁護士へ相談のうえ個別事情に合わせてスケジュールを設定してください。
取締役会決議をする
初めに、単元株制度の導入を株主総会に付議することについて、取締役会で決議します。
適時開示をする
会社が上場会社である場合は、単元株制度の導入に関する取締役会決議をしたら、直ちに適時開示を行います(上場規程402条1項ad)。
適時開示とは、投資家に対して適切な投資判断材料を提供することを目的とした情報開示制度です。
単元株制度の導入は原則として投資家への影響が軽微ではないことから、適時開示をしなければなりません。
併せて、証券取引所にも書類の提出が必要となるため、必要な手続きについては上場している取引所にあらかじめ確認しておいてください。
保振機構へ通知する
株式等振替制度(ほふり)を利用している会社は、単元株制度の導入に関する取締役会の決議がされたら、速やかにその旨を保振機構に通知しなければなりません。
株式等保管制度とは、顧客から預託された株券などの有価証券の保管振替や権利の管理を保管振替機構が行う制度であり、上場会社であれば原則としてこの制度を利用しているはずです。
損害を及ぼすおそれがある種類株主に通知または公告をする
会社が種類株式を発行している場合において、単元株制度の導入がある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、その種類株主総会の決議を経なければ単元株制度の導入をすることができません(会社法322条1項1号ロ、3項)。
ただし、322条1項に規定された事項が生じる都度、種類株主総会決議を経ることは会社にとって高いハードルとなりかねないため、種類株主総会の決議を要しない旨を定款で定めておくことが一般的です(同2項)。
このような定款の定めがある場合において、会社が単元株制度を導入するための定款変更をしようとする際は、効力発生日の20日前までに、これにより損害を及ぼすおそれのある種類株主に対して通知または公告をしなければなりません(同116条1項3号ハ、3項、4項)。
また、この場合において単元株制度の導入に反対する種類株主は、会社に対して自身の有する株式の買い取りを請求できます(同1項)。
この買取請求は、効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間に、その株式買取請求に係る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)を明らかにして行わなければなりません(同5項)。
この請求を受けたら、会社はその請求者である種類株主と株式の買取価格について協議を行い、効力発生日から60日以内に対価を支払う必要があります(同117条1項)。
会社と請求者である株主との間で効力発生日から30日以内に価格の協議がまとまらない場合は、会社または株主が、裁判所へ価格決定の申立てが可能です(同2項)。
この価格決定の申立ては、「効力発生日から30日を経過した日」から30日以内に行わなければなりません(同2項)。
また、効力発生日から60日以内に価格決定の申立てがないときは、その期間の満了後には、株主はいつでも株式買取請求を撤回できます(同3項)。
なお、株式の買取価格が決まらないことが理由であっても、本来の支払い期限(効力発生日から60日)までに買取対価を支払えない場合は、会社は本来の期限以降の利息を支払う必要が生じます(同4項)。
この場合において、会社が公正であると考える価格を株主に対して支払うことで、支払った日以降の利息は不要となります(同5項)。
株主総会特別決議をする
単元株制度を導入するには、定款を変更しなければなりません(同188条1項)。
また、会社が種類株式発行会社である場合、単元株制度の導入は株式の種類ごとに定める必要があります(同3項)。
この定款の変更には、株主総会の特別決議が必要です(同309条2項)。
特別決議とは、原則として、株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の多数によって行う決議です。
ただし、これとは異なる割合を定款で定めることも可能であることから、具体的な決議要件については自社の定款を確認する必要があります。
この株主総会においては、その単元株式数を定めることを必要とする理由について、取締役が説明しなければなりません(同190条)。
なお、株式の分割と同時に単元株制度を導入し、定款の変更前後で株主の有する議決権が減少しない場合など一定のケースにおいては、株主総会の特別決議を経ることなく定款変更できます。
具体的な手続きは会社の状況などによって異なるため、実際に進める際には個別で弁護士へご相談ください。
臨時報告書を提出する
上場会社である場合、金融商品取引法の規定により、株主総会において単元株制度の導入が決議されたら遅滞なく臨時報告書を提出しなければなりません(金融商品取引法第24条の5第4項)。
臨時報告書の提出は財務局長等を通じて内閣総理大臣に行います。
変更登記をする
単元株制度について定款に定めた場合、これは登記事項となります(会社法911条3項8号)。
そのため、単元株制度を導入する旨の定款変更に係る株主総会の決議がされたら、2週間以内に変更登記をしなければなりません。
全体のスケジュール管理をしている弁護士経由であらかじめ司法書士へ相談し、必要書類についてもある程度事前に用意しておくとスムーズです。
単元株制度導入に関するよくある疑問とその回答
最後に、単元株制度の導入に関するよくある疑問とその回答を紹介します。
取締役会非設置会社はどのような手続きが必要?
先ほどは、取締役会設置会社であることを前提にスケジュールを解説しました。
では、会社が取締役会を設置していない場合(いわゆる「取締役会非設置会社」である場合)は、どのような手続きが必要となるのでしょうか?
取締役会非設置会社であっても、単元株制度の導入にあたって行うべき手続きは、取締役会設置会社である場合と基本的には同じです。
ただし、取締役会がない以上「取締役会決議」をすることができないため、ここは取締役の過半数の一致によって決することとなります。
単元株制度の導入にあたって会社にデメリットはある?
先ほど解説したように、単元株制度を導入するデメリットは、投資のためにまとまった金額が必要となることから、投資家が投資しづらくなる可能性があることです。
ただし、株式分割(1株を細分化する手続き)と併せて行うことで、投資家への影響を最小限に抑えることが可能となります。
また、先ほど解説をしたスケジュールのとおり、単元株制度の導入手続きにはある程度の手間がかかります。
会社の状況などによっては、思わぬリスクが生じる可能性もゼロではありません。
そのため、実際のケースでは弁護士に相談をしたうえで、単元株制度を導入するかどうかについて慎重に検討するようにしてください。
そのうえで、状況に応じて必要な手続きを洗い出し、自社における適切なスケジュールを設定することが重要です。
まとめ
取締役会設置会社が単元株制度を導入するために必要となる手続きを解説するとともに、スケジュールの一例を紹介しました。
単元株制度とは、100株など複数の株式を1つの単元として設定し、この単元ごとに議決権の行使を認める制度です。
そして、株式は設定した単元をセットとして売買されることが一般的です。
会社が単元株制度を導入することで株式の流動性は確保しつつも、株主の管理に要するコストや手間を削減しやすくなる効果が期待できます。
会社が単元株制度を導入するには、原則として取締役会決議と株主総会の特別決議による定款変更が必要です。
また、状況に応じて損害を及ぼすおそれのある種類株主への通知や適時開示、保振機構への通知などもしなければなりません。
単元株制度の導入にあたって必要な手続きはさほど複雑ではなく、スケジュールも比較的シンプルです。
ただし、今回紹介したスケジュールは取締役会設置会社である場合の一例であり、実際に必要となる手続きスケジュールは、会社の状況によって異なる可能性があります。
そのため、単元株制度の導入をご検討の際には機関法務に詳しい弁護士へご相談ください。
弁護士とともに、必要な手続きの洗い出しや具体的なスケジュールの検討することから始めるとよいでしょう。
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